第95話
その後、一行はすぐに召喚士の都へ向かった。都についた瞬間、カズキは耳を手で塞いだ。たくさんの声がする。笑っている声、泣いている声、子供がはしゃぐ声。ひそひそと内緒話をする声。たくさん、たくさん。少しだけ気持ちが悪かった。
一度外に出て瓦礫の一つに座り、杖を地面に当てる。杖は探索に必要と、魔界を出る際に霙颯に見つけさせたのだ。
「…………」
核が力の塊ならばそれが追えるかと思ったが、反応を感じられない。
「うーん、分からないや」
「他の核はどうやって見つけたんだ?」
「オレが実際に行ったわけではないが、聖獣のいた中心に核があったと聞いている」
「ならば、可能性としては長がいた神殿か」
「行くぞ」
「いや霙颯、待ってくれ。――カズキ、大丈夫かい?」
クラウドの掌が額に当てられた。心配そうに覗く碧い瞳がとても綺麗だと思った。
「顔色が悪い。聞こえるのか?」
「うん……」
ざわざわと喧騒が大きくなった。カズキは耳を塞ぐ。前に来た時よりも、その大きさは比にならない。
「守人、説明をしろ」
「カズキは、都にいた召喚士達の残留思念を感じ取ってしまうんだ。以前に訪れた時もそうだった」
「それが障害にならぬのなら先を急ぐぞ」
「お前の焦る気持ちは分かる。しかし少しだけ時間をくれ」
「ならばオレは先に――」
霙颯が背を向けて一歩踏み出した時だった。召喚時特有の地鳴りと咆哮が聞こえた。
一瞬にして空は渦のような黒雲に包まれ、湿った雨混じりの風が強く吹きつける。神殿の上空には、建物と同じほどもある黒く巨大な聖獣とおぼしきものが、徐々に姿を具現化させていく。
「召喚士、何をしたっ?」
「ボクじゃない。何、アレ……」
自分は何もしていない。それに、あれは酷く禍々しく殺気すらある。聖獣の紅い瞳が見据える先は霙颯だった。かの殲滅戦において総指揮をとっていた彼を感じ、思念や怨恨が現実のものと化したか。
霙颯が舌打ちをして魔族本来の姿になった。
「守人、巻き込まれたくなくば召喚士を連れて神殿まで行け」
「しかし!」
「足手まといだ」
そう言葉短く吐き捨て、霙颯は一飛びで神殿の尖塔へ立つ。クラウドがカズキを抱き上げ神殿へと走った。
「霙颯大丈夫かな?」
「く……今は任せるしかないか。核を探してしまおう、カズキ」
「うんっ」
クラウドに連れられたのは、記憶の間の丁度反対の部屋だった。石壁に囲まれた閑散とした室内。背もたれが高く、青い生地の椅子だけが部屋の隅に転がっている。
遠くでいくつもの爆音が響いた。
「ここは?」
「長が暮らしていた部屋だ。一番長く過ごしていたこの場所か、その極近くに核があるのではと思ってな」
「そっか。さすがクラウドっ。うん、ボクもう一度探ってみるよ」
カズキは地面に座り、先程と同じように杖を当てる。
「お願い、太陽と月の聖獣。クラウドがいるこの世界を護りたいんだ。どこにあるか教えて」
後ろからふわりとクラウドに抱きしめられる。自分の胸にクラウドの手が置かれた。
「俺達を、カズキを導いてくれ――」
「クラウド……」
「っ?」
白い光。黒い光。眩しいほどのそれらが杖の先から放たれ、竜巻のように渦巻いた風が二人を包んだ。カズキは離されまいとクラウドの服を掴む。
すぐに景色が変わった。ここは見覚えがある。色とりどりの草花、流れ落ちる水。紛れもなく地下の宝物庫だった。
「え? ここ、なの」
拍子抜けだ。クラウドも困惑している。
「こんな簡単な展開でいいのかな。ここが聖獣の中心なの?」
「そう、みたいだね。確かに考えようには、ここは地下なのに昼間のように明るくて静かだ。聖獣の力が強く働いてるとみていいのかもな。そういえば核は宝石みたいだと言っていたが、どこかで……」
クラウドが思い出したように一つの祠の前に立った。そこには、掌ほどの七色に輝く小さな宝石が収められている。
「あ……」
今なら分かる。微量だが、太陽と月の聖獣と同じ力が感じられる。
「これだ。こんなところにあったなんて」
「ああ、前に訪れた時には、綺麗な宝石だと気にしなかったな。しかし……」
「どうしたの?」
「以前は一回り大きかったんだ。何故小さく――?」
「クラウド、ちょっと貸して」
核を掌に乗せてもらった。力は宝物庫の外へ流れているようだった。
「もしかして……」
召喚士といえど思念だけで召喚ができるとは思えない。力の塊である核を介して、先程の聖獣が召喚されたのではないかと。クラウドに話そうとすれば彼も同じ考えに至ったようで頷いた。
「このままじゃ核がなくなっちゃうよ! 行こう、クラウド!」
「ああ」
祠から取った核を胸に、二人は霙颯の許へ向かった。




