第81話
カズキはクラウドにしがみつく。
熱く冷たい。重く軽い。明く暗い。
その全てが一つになる。体の中で力の波がうねりを上げる。
力が混ざり、離れる。
「ぅわあああっ!」
内側から皮膚が裂けて、生暖かい体液が滴り落ちた。
「ッッ!」
「カズキっ」
裂けた傷はクラウドによって癒される。温かい、大きな手。この手に何度救われただろう。
「クラウド……」
痛みと快感。一筋の光の柱がカズキを中心に天に昇った。
そして手の内にあった杯はなくなり、溢れるほどに新たな力を感じることができる。同時に全ての聖獣の力は、精神を乱せば暴走させてしまいそうな恐怖があった。
「カズキ、よく耐えたね」
耳元で囁かれる大好きな声に安心する。自分は大丈夫なのだと甘えてしまう。
顔を上げると額に唇が落ちてきた。
「大丈夫かい?」
「怖かった……けど、クラウドがこうしててくれるから耐えられたよ」
尽きることがないと思える幸せ。ライシュルトが番人になってしまったのに。それなのに、自分もライシュルトも笑っている。
「頑張ったなーカズキ。これで世界の自然均衡は保たれたはずだぜ」
「終わったってこと?」
「ああ。互いに繋がり合った聖獣の力が戻ったからな。時間はかかるだろうけど、少しずつ元の自然を取り戻すだろう」
「そっか、終わったんだ」
胸を撫で下ろして、クラウドの背中に手を回す。
「終わったんだ」
「ん~、太陽と月の聖獣の契約は召喚士の長だけが許されるって、こういうことかね~納得。クラウド、嬉しいだろ」
「ああ、堪らなく嬉しいよ。俺でなければならないという誇りがあるからな」
「なに、急に」
「守人いなかったら、聖獣と契約できなかったんだなってことさ」
「うん、それは分かるかも。クラウドいなかったら体もたなかったよ」
「クラウド、ご褒美でもあげたらどうだ? オレはちと席を外すからよ」
手を振りながらライシュルトが姿を消した。随分と便利な空間だとカズキは思う。それとも番人になってしまった故か。
「…………」
「ご褒美、ね」
「え? クラ――」
首筋を撫でられ啄むようにキスをしてきた。カズキもクラウドの顔を両手で押さえて自ら口づける。感謝を込め、舌を捕らえて絡める。唇を放し、濡れた舌を出したまま笑った。
「ふふっ。ボクからもクラウドにご褒美だよ。いつもありがとうね、クラウド」
眉を少しだけ寄せ、見たことのないような表情をしたクラウドが、耳元に唇を寄せてくる。理由を問おうとしたが、ライシュルトが慌てて戻ったので聞きそびれてしまった。
「やかましいなぁ」
「ぃや、なんか違和感あったから、すんげーの見つけたもんでっ」
「はぁ? 何言ってんの?」
「ライ、まずは落ち着け。どうした?」
「すまん。その……」
ライシュルトが右腕を上げると一人の男が姿を現した。傷だらけのその姿は、魔界へ行ったまま所在が分からなかったナシュマだった。
「ぅわ、ナシュマっ?」
「これは、うん、確かに驚くな。しかし酷い傷だ」
「生きてる?」
「おう。ここは時間が止まるから何とかな。ここ魔界に一番近いから、何かの拍子で迷い込んだのかも。とにかく戻ってこられて良かったぜ」
「そうだな。ところでライ、斎様はご無事なのか?」
「ああ。聖獣の力が離れたショックで気を失っているだけだ。すぐに目覚めると思うぜ。なぁ、クラウド。次の第二位階なんだが――」
「クラウドはダメっ!」
カズキはクラウドを両腕で引き寄せる。いくら気が合っていてもそれだけは譲れない。ライシュルトが笑いを堪えきれずに吹き出した。
「何で笑ってんのさっ」
「かーわいいなカズキ。違うよー。今回も第二位階はピエール様にお願いしますって伝えて欲しくてな」
「なんだ。クラウドにするって言うのかと思った。団長さんは?」
「ん~、あの人に団長でいてほしいってのは、これはオレの我が儘。オレの聖騎士理想像だからなー。崩したくないっていうか……」
「なんだよ、それー」
「まーとにかく後は頼むな」
「ああ、お前のことを含めてな。ライには一度も勝てたことがないんだ。このまま勝ち逃げさせる気はない」
カズキはクラウドを見上げる。クラウドの表情は、どこか寂しげだった。ライシュルトも寂しそうに笑う。こういう時はさすがに間に入ることができない。悔しいけれど。
「行こうか、カズキ」
「う、うん」
扉が静かに開かれる。
風が吹いた。
「ライシュルト、絶対助けるからね!」
その声が届いたのか、届かなかったのか、ライシュルトは弾けるような笑顔で手を振っていた。




