第7話
ソギは噴水に腰かけて一通り辺りを見渡した。空には鳥が行き交い、地面では鳩がパン屑を啄ばんでいる。
「うん、ここがいいな」
そう言って彼は小さく指笛を吹いた。すると、一斉に鳥や野良犬までもが集まってくる。
「来てくれてありがとう。君達に教えて欲しいことがあるんだ」
動物たちが喧嘩もせず、じっとソギの言葉に耳を傾けている姿は、カズキにも強烈な印象として残ったようだ。勿論、周りの者にも。
「な、凄いよな~。動物と会話ができるなんて」
「うん……」
終了したのか、動物たちはいるべきところへと去り、ソギが空に向かって手を翳すと、あの時の鷲が翼をはためかせながら舞い降りてくる。肩に止まった鷲が甘えるように、ソギの頬に顔を寄せた。
「クラウドさん、杜へは直線距離にして南におおよそ四十。ただその間に山がある。山を抜けるのが一番早いんだけど、迂回する道もあるそうだよ。詳しくはこの子が道案内してくれるって」
「分かった、ありがとう。では山道を避けて――」
「そんな必要ないよ」
クラウドの言葉を遮るようにカズキが言った。
「山を抜けた方が早いんだよね。それならそっちで行こうよ」
「しかしカズキ……」
「山道は歩いたことあるし、荒廃の原因を調べているなら急ぐ旅でしょ。ボクは、大丈夫」
カズキの強い視線がクラウドを捉える。頑として意志は動かなそうだ。
「ふぅ……仕方が無いな。でもカズキ、一つだけ約束してくれるかい? 脚や身体の具合が悪くなったり、疲れたりしたらすぐに言うこと。いいね?」
「うん。約束する」
「まじかよクラウド~。ったく、甘いんだから」
「ふふ、諦めよう。ライシュルトさん」
出発前にいくつかの店を回り、装備品を整えた。陽は傾いていたが南へと出発する。
ザーニアを離れる間際、カズキは街を背にして前に広がる道を見た。これは未来に繋がる道。自分のこれからの道。横にはクラウドがいてくれる。それだけで、何があろうと前へ進める。希望が繋がっているようにも見えた。
その日は夜更けまで歩き続け、山の麓で野宿をした。さすがにカズキは疲れたらしく、クラウドに寄りかかりながら眠ってしまった。クラウドは自分のマントをカズキに掛ける。
「無防備に寝るなぁ。う~こうして黙ってりゃ、女の子みたいな顔して可愛いのに~」
「クラウドさんの傍だから安心するんだろうね。何となく分かるかも。クラウドさんて周りの空気を柔らかくしてくれるから。頼りがいがあるっていうか……誰かを護るっていう仕事をしているからかな」
「あ、じゃぁオレも? オレも?」
「う~ん、ライシュルトさんは人並みに安心かな」
「それって褒められてんのか? 貶されてんのか?」
ライシュルトは眉を寄せて複雑そうな顔だ。
「ははは。ライ、安心しろ。お前がいてくれたおかげで、助かったことがたくさんある。俺は頼ってるよ。さて、ソギに褒められたついでに火の番でもするか。二人とも疲れただろう。明け方にはまだ時間がある。少し寝ておけ」
「おう、悪いな」
皆が寝静まり、クラウドは揺らめく炎を見つめる。
――ちりん。
耳に残る鈴の音。辺りを見渡すが何の気配も無い。再び炎に目をやった瞬間、突然風が吹き抜けて炎が渦巻いた。その中心には小さな人影が見える。
――ちりん。
――ちりん。
「何者だ?」
炎の中から人影が抜け出てカズキに近づく。クラウドは瞬時に剣を引き抜いて牽制した。
「寄るな」
頭の中に直接声が響く。
『聖獣の……は奪われ………鎮め……召喚士……み……』
「何だって?」
『召喚士を護れ!』
人影が消えた。炎は元に戻り、何事も無かったように燃えている。夢でも見たのかと思うほど一瞬の出来事だった。
何故人影がカズキに近づいたのか。語るだけならば移動する意味は無い。しかしながら、近づいたからといって、彼が召喚士だというのも短絡過ぎる。
「どういうことだ?」
「んん……クラウドどうしたの?」
眠そうに目を擦りながらカズキが起き上がった。