第74話
「今のは……」
こちらへ弾かれる一瞬に見えたナシュマと箏の姿。声の主を追って辿り着いたのは王宮だった。何故ナシュマがそこにいるのか、箏といるのか、分からないことだらけだ。
「どうか無事でいてくれ、ナシュマ……」
「叉胤、か? その姿……」
いきなり声をからかけられ、叉胤は弾かれたように顔を上げる。クラウドの姿をみとめて胸を撫で下ろした。
「すまない、驚かせてしまったな」
「いや……この姿は初めてだったね」
「ああ。カズキから話は聞いていたのだが、すまないな少し驚いてしまった」
「ううん。驚くのが普通だと思う。多分ナシュマも、ね。まだこの姿見せたことないから」
「ナシュマか……あいつのこと何か分かった様子だったが、無事なのか?」
「ああ、今は無事みたいだ。ライシュルトさんにかけられた術の元を辿ったら、一瞬だけど姿が見えた」
「そうか。無事ならばいいのだが。心配だな」
「大丈夫、ナシュマは必ず戻るって言ってくれたから」
叉胤は笑う。この先も無事かどうかは分からないが、ナシュマを信じられるのは、いつでも約束を守ってくれたからだ。
「カズキ君のところへは行ってあげた?」
「ああ。傷のことは心配かけるから黙っていようと思ったのだが、さすがだなあの子も。あっさりとバレてしまったよ」
「ふふっ、召喚士らしいね。大切な人に対する執着は凄いから。勿論いい意味でね。あれが強さの源なのかもしれないな」
「ああ、叉胤は昔召喚士と戦ったんだったな……と、すまない」
「いや、もう大丈夫。カズキ君には引け目があったんだけど、一族のことなんて興味ないから気にするなって言われたよ。救われた気がした」
「カズキがそんなことを……」
「クラウドさん、カズキ君とここの護りをお願いできるかな? オレはライシュルトさんにかけられた術を解くよ」
「ああ、任せてくれ。団長からも要請があった」
「お願――」
叉胤は言葉を切る。クラウドもそれに気づいて剣を手に腰を落とした。
「――クラウド。そうか、お前が」
そう口にしたのは未だに目を覚まさぬライシュルト。だが、声はライシュルトのそれと違う。立ち昇る黒い煙が集まり、やがてヒトの形を成していった。
白い肌。対象的な黒色の髪。そして誰よりも強大な魔力。
「そうか、オレが弾き返されるわけだな」
「叉胤、知っているのか?」
「ああ。四天王が一人、魔術部隊を束ねる鴟窺様だ。どうやってここに……」
完全なヒト型となった鴟窺がライシュルトを指差す。
「次期番人。扉を閉じることができるならば、また開くこともできる。召喚士の複製を媒介に私の力を植えつけた」
今度はクラウドに向けて指を差した。
「少し時は早いが、好機だ。クラウド、お前を消す為のな」
「!!」
その指先から白い光熱が放たれ、クラウドの左肩を貫き、余りある力は背後の壁をも粉砕した。
「急所と利き腕は外したか。良い反応だ」
「クラウドさん!」
「……ッッ、やってくれる」
口角を上げた鴟窺が両手を広げる。そして蜃気楼のように揺らめいたかと思うと、その姿は二人に増えた。
「な……」
「「さて、どう戦う?」」
「鴟窺様」
叉胤は翼を広げる。
ライシュルトを囲うように数枚の羽根を床に刺し、そして立ち上がると足の裏で地面を叩いた。羽根が呼応し、ライシュルトの姿もろとも消え失せる。
「叉胤、ライは……」
「安全なところへ一時的に送った。今は鴟窺様を倒さないとどうにもならないからね。クラウドさん、おそらくあれは鴟窺様の本体ではない。それでも手は抜けない相手だよ」
クラウドへ近づき、肩に手を置いて止血と痛み止めの処置を施した。
「承知」
頷いたクラウドが叉胤の前に立ち、右手に紋章剣を、左手に細身の剣を持つ。叉胤には、その背中がいつも以上に大きく感じられた。




