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第71話

「一つ、教えてくれないかい? 君がここにいる理由だ。誰かの命令なのか、君の意思なのか」


 少年が立ち上がり、ふて腐れたように地面を蹴った。操った空気を刃に手首の紐を切る。


「どっちもかな。ここへ来てボクの好きにすれば、クラウドの傍にずっといられるから行きなさいって言われたんだ。だから、ボクとクラウドの間にいるライシュルトは邪魔なんだよ」


「!!」


 召喚された聖獣によって屋根が剥がされ、大きな爪がライシュルトに襲いかかった。クラウドはライシュルトを庇いながら、転がるように外へ出る。


「大丈夫か、ライっ」


「イテテ、なんとかな。それにしても……」


 ライシュルトが言葉を詰まらせ空を見上げた。空に浮かぶ聖獣は黒く硬い毛に覆われ、赤い瞳が不規則に揺れ動く。カズキと初めて出会った時の魔獣に似ていると、クラウドは思った。


 追って出た少年がそれを呼びつけて頭を撫でる。


「ふふっ、懐かしいでしょうクラウド? この子がいなかったらクラウドに助けられることはなかった。だからね、ボクは感謝してるんだ」


「…………」


 哀れな、子だ。クラウドは抜いた剣をライシュルトに握らせた。


「おいクラウド! この非常時に何してんだ!」


「ライ、ここは俺に任せてくれ」


 無邪気に笑う少年に歩み寄り、小さな体を抱きしめる。


「ザーニアの林で初めて会った時のことを、知っているかい?」


「うん。こうやって抱きしめてくれたね。でも……」


「……ッッ!」


 クラウドの背中に魔獣の爪が食い込んだ。ライシュルトが助けに入ろうとしたが、クラウドは制止する。


「ほら、あの時とおんなじ。クラウド、ボクを庇って怪我したからね。懐かしいなぁ」


 痛みを堪えながら、抱きしめる腕に力を込めた。


「力を収めなさい。君がしているのは悪いことだ。やっては、いけないことだよ」


「悪いこと?」


「自分のしたいことをするのは、決して悪いことではないよ。けれどね、それだけでは、やがて独りになってしまう。大好きな人だっていなくなってしまうんだよ」


 少年の小さな体がピクリと動いた。


「独りの辛さは、君の記憶が一番よく知っているはずだ」


「…………」


「頼む、もうこんな争いは止めよう」


「――うるさい」


 額に手を当てて少年が低く呟いた。


「君……」


「ボクはクラウドと一緒にいたいんだ! いられないなら、クラウドも、全部全部消えちゃえ!!」


「クラウド!」


 ライシュルトから投げ渡された剣を手に、クラウドは襲い来る聖獣を一刀のもとに斬り伏せる。そして返し刃で少年の喉元へ切っ先を突きつけた。


「殺すの? ボクは、クラウドが大好きなのに、なんで、なんで……振り向いてくれないの?」


「すまない……俺は、あの子を護りたいんだ。君ではなく、カズキを」


「――そう、ボクはいらないんだね」


「違う!! いらない子など、この世にいない!」


「だってボクの世界はクラウドだけだ! クラウドがボクを拒絶するなら、ボクの居場所はどこにもないよ! クラウドがいなきゃ、ボクは何の為に造られたのっ? 真っ暗で何もない怖いところから生まれて、クラウドが大好きだって記憶だけでここに来たのに! ボクは……ッッ?」


 少年の足元に草花が咲き乱れ、そして散った。空に浮かぶ月が水面の月のごとく歪む。


「これは……」


「うぅ……なに、コレ」


 自らの異常を察したのか、少年が辛そうに膝を着いて拳を握り締めた。力の暴走だ。放っておけば自己破滅をして命を落としかねない。


「落ち着きなさい」


 クラウドは少年の瞳に掌を置きながら耳元で囁いた。頭を包むように抱き、少年の耳を自分の左胸につける。


「君の気持ちには応えられないが、今こうして抱きしめることはできる。君の傍にいることはできる。目を閉じてヒトの温もりと鼓動を感じなさい。怖いものはいないよ」


「……助け、て」


 少年の周りの空気が敵と化し、クラウドの皮膚が弾けるように裂けた。


「ボク……」


「全てを忘れて眠りなさい」


 何度も、何度も暗示をかける。どうか、言の葉が心の奥底に響きますように。彼を苦しみから救えますように。


「眠りなさい」


 少年が服の裾を握ってきたが、やがて力無く腕を落とす。腕の中の小さな体は軽い。


 月は元の形に戻り、花も散ることなく咲き誇っていた。


「良かった……」


「どーにかなったみたいだな」


「ああ。ライ、傷は大丈夫か?」


「オレは自分で止血できたからどうにかな。それより、お前なんでこの子に剣を向けなかった?」


「この子は魔族の都合だけで造られた子だ。やはり人間の都合で人生を終わらせてしまうのは、忍びないと思ったんだ。まだ善悪の区別がつかないからこそ、いいこと悪いことはこれから知ることもできるし、楽しいことも苦しいこともたくさん経験できるはずだ。それに……いや、これは独りよがりだな」


「何だ?」


「造られたヒトといっても、この体にはカズキと同じ血が流れている。あの子には肉親がいないから、同じ血というのは本当の兄弟のようなものかと思ってな」


「どう思うかは本人次第だろうがな。クラウド、お前この子どうするつもりなんだ?」


「教会の孤児院に預けようかと思っているよ。あそこならしっかり教えてくれるし、有事の時も対応してくれる。押しつけるようで申し訳ないけれどね」


「孤児院か。懐かしいなー」


 番人についての話はうやむやになってしまったが、二人は報告を兼ねて傷の手当てをする為に教会へと戻った。


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