第6話
これからはカズキにとっても、それを支える者にとっても負担の大きい旅になるだろう。だが、それでも。それを押してでもカズキを連れて行きたい。行かなければならない、そんな気がするのだ。クラウドは譲れない心を繋ぎ止めるように拳を握った。
「クラウドが謝ることないよ」
三人の、誰でもない声が突然部屋に響く。
開け放たれた扉の前には少年が一人立っていた。クラウドが一瞬誰だか判断できなかったほど、カズキの纏う雰囲気が変わっている。その瞳には生きる力。本当に昨日まで死にたがっていた少年だろうか。
「誰に何と言われても、ボクはクラウドと旅がしたいよ」
カズキらしく、露出の多い踊り子のような服だ。彼と同じ背丈の杖を手に部屋に入ったカズキは、ライシュルトの前で一旦止まると、口元に笑みを浮かべた。
「ボクは、自分の身は自分で護れる。だから……あんたに護ってもらう気なんて毛頭無いよ」
「何をぅっ」
「まぁまぁ二人とも。カズキ、紹介するよ。そっちにいる銀髪の彼がソギ、今話をしたのがライシュルトだ」
「ふぅん。よろしくね」
カズキがクラウドの傍に寄り二人に軽く頭を下げた。
その後、遅い昼食を食べに行こうということになり、四人は食堂に向かう。途中ライシュルトがソギに耳打ちした。
「なぁなぁ、オレ達はカズキに嫌われているのか?」
「心を許したクラウドさん以外素直になれないだけだと思うけど……。う~ん、そう思いたいね」
前を歩く二人の姿を見て、ソギは思わず苦笑いをして肩を竦めた。
そして昼食を取りながら、荒廃状況の情報収集と今後の予定について話し合う。
「んで、これからどうすんだ?」
「まずはこの付近で、一番荒廃が進んでいる場所に行ってみようかと思っているよ」
「りょうかーい。したらクラウド、地図持ってるか?」
「ああ。ピエール様に頂いた」
クラウドが地図を広げると、青白い光がザーニアの上に現れた。これが現在地なのだろう。これならば迷うことはなさそうだ。
「へーすげーな。そうするとココがザーニアか」
ライシュルトが指先で青白い光を指差し、そのまま下へずらす。
「ザーニア周辺は、最近魔物が活発化しているらしい。特に酷いのがココ。この街は向こう見ずの奴らが集まっているから、徒党を組んで見に行ったら、植物が魔物化してもそもそ歩いていたらしいぞ」
「あ、ここ『迷いの杜』って言われている場所だよ。魔物を倒したって、ボクの客が自慢げに話してたんだ」
「何で迷いの杜って言うんだ~?」
「知らない」
「うぅ、冷たい。とにかく迷いの杜とやらに行ってみるか?」
「そうだな。また魔物が出るかもしれないから、装備はしっかり整えておこう。それとソギ、杜までの距離と道のりを動物に聞けるかい? なるべくなら足場のいい道を頼む」
「うん。鳥が適役かな」
その言葉にカズキが不思議そうな顔をした。クラウドはそっと耳元で囁く。
「ソギは動物と会話ができるんだ」
「そんなこと本当に出来るの?」
「あはは、大概の人は信じてくれないけどね。でも僕達に心があるように動物達にも心がある。言葉は違えど気持ちは通じるんだよ」
「ふぅん。でもクラウドがそう言うなら信じてもいいかな」
「ソギの周りに動物が集まっていくのは凄いんだぞ~」
「確かに忘れられないな」
話の流れで、動物との対話を見に行こうということになった。カズキはあまり乗り気ではなさそうだが、クラウドとライシュルトは、あの眺めが好きだった。ソギが初めて仲間になった時の、鮮烈な印象は忘れられない。四人は鳥が集まっていそうな街の広場へと足を運んだ。