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第66話

 その後、消耗した精神状態を気にかけてくれ、ライシュルトはバスウンから私室でセディアを待つよう促された。


 寮へ繋がる渡り廊下で足を止める。


 空を見上げた。未だにすっきりとしない心とは違い、暗色の空には、澄んだ月色と星の煌めきが広がっている。


「答えは二つか」


 ライシュルトは、寮へ繋がる渡り廊下から中庭へと足を踏み入れ、その中心で剣の柄に手を当てて目を閉じた。こういう時は体を動かすに限る。


 風が吹き、花びらが空に舞う。


「…………」


 瞳を閉じたまま、空気の揺らめきのみを頼りに花びらを斬った。


 一枚、二枚、三枚。


 心を二つに分けたピンク色の花びらが、廊下で佇むその男の許へと届けられる。会いたくなかった、それでも逢いたかった人。


「団長……」


「見事な動きだ」


 セディアがライシュルトに近づき剣を引き抜く。


 鞘から出された剣が鳴いた。


「一手、お相手願えるか?」


「はい」


 剣先を合わせた。遠くで聞こえた夜鳴鳥の声を合図に、互いに一歩引いて剣を再び合わせる。


 セディアからの一撃は腹に響くように重たく、そして、優しい。


「団長……」


 気づいていますか?


 剣を合わせるたびに、ライシュルトは心で笑ってしまった。本気は出しているけれど、クラウドや他の団員と手合わせしている時とは違う、傷つけまいと、誰にも気づかれない、自分でも気づかないほど力を制御してくれていることに。


 剣を合わせることでセディアの変わらぬ想いが伝わってくる。変わらず愛してくれている。


「団長、ありがとうございます」


 ならば自分も返さなければならないだろう。想いを勝利と変えて。


「いきます」


 ライシュルトは剣筋を先読みして懐へ潜り込んだ。避けきれなかった剣先が頬を掠めて血が流れ出る。血に動揺したのだろうセディアの動きがほんの一時止まり、ライシュルトはその隙を見て剣を弾き飛ばした。


「勝負ありです」


「強くなったな、ライシュルト」


 セディアの大きな手に薄茶の髪が搦め捕られる。


「あの、団長。オレ……昔の話を聞いて正直複雑な思いがあります」


 ライシュルトは剣を拾ってセディアに渡すと、腕を掴んでおおよそ人目につかぬ木立へと連れ込んだ。耳に顔を寄せて囁くように語る。


「でも、どう考えても団長を嫌いになれないんです。オレは団長が好きだから」


 厚い胸板に腕を回した。


「オレを拾って保護してくれたのは団長だって、バスウン様から聞きました。オレが団長を好きになって告白したのも、オレには思い出せない記憶があったからかもしれません」


「私は……」


「団長、両親を手にかけてしまったことを悔やんでいるなら、彼らの息子としてあなたに願います」


 唇を触れ合わせ、両の掌で頬を包んだ。


「生きて下さい。オレと一緒に――」


「…………」


「オレを傍に置いて、罪から目を逸らさないで下さい」


「ライ……」


 どこからか吹いた甘い花の香りを含んだ風が二人を包む。


 セディアが腰の紋章剣を外して片膝を着いた。そして両手で剣を横に持ち、掲げるように差し出してくる。


「我が魂にかけて」


 ライシュルトは頷き、右手を胸に頭を下げるとセディアの剣を取った。代わりに自分の紋章剣をその手に乗せて、額へと口づける。


 騎士の誓いの儀礼。剣の交換は、すなわち命の交わりと同じことであり、互いの命を介して決して反古にはしないという強い意味合いを持つ。


「私は、この先お前がどのような選択をしようともそれに従おう。だから怖がるな。私が傍にいる」


 ライシュルトは力強いセディアの腕に包まれる。


 そう遠くない未来の自分は果たしてどのような選択をするのか。けれども、どのような選択をしようとも傍らにはセディアがいてくれる。答えはすぐ近くにあるような気がした。


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