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第63話

 カズキは檀上の中央で緊張していた。でも大好きな人が見てくれているから、やるしかない。それに相手はライシュルトだ、遠慮することもなかろう。


 カズキは喉で笑うと杖の先で地面を突いた。


 小さな地鳴り。天に響く咆哮。闇夜に映える白き聖獣がそこに舞い降りた。初めて聖獣を目の当たりにした騎士たちがどよめく。


「…………」


 カズキは辺りを見渡した。会場と聖獣の大きさを考えると、派手に動けば観衆のみならずクラウドまでも巻き込んでしまいそうだ。他はどうでもいいがクラウドだけは傷つけたくない。


「――あ、そうだ」


 自らが具現化させているならば、物質に変換するのではなく力だけを自分の中に取り込めないだろうか。力を矛とし、聖獣を盾に。


 カズキは聖獣に杖を向けた。


「力を貸して」


 黄の光。赤の光。緑の光。青の光。


 聖獣から放たれた光が杖の先の水晶に吸い込まれていく。力を分け与え、座るカズキと同じ身の丈ほどになった聖獣が小さく鳴いた。同時に、とてつもない力の波がカズキの体の中身に押し寄せる。力が、溢れた。


 それまで飄々としていたライシュルトが、真面目な面持ちで剣を構える。


 昂る気持ち。カズキは掌を地面につけ、地中に力を流してライシュルトの足元を崩した。そのまま落としてやるつもりだったが、ライシュルトは見事な身のこなしで檀上へと着地してしまう。


「お前なぁ、会場壊すなよ」


「あんたが負ければ早いよ」


「誰が」


 カズキはライシュルトへ向けて風を放ち、そして気流を一気に天へ押し上げた。


「あれ?」


 少し体を浮かせたものの、ライシュルトが動じずに半歩近づき、そしてすり足で横へと動いた――ように見えた。


「?」


 瞬き一つで目の前からライシュルトが消え失せる。


 けれど。


「……見つけた」


 聖獣によって研ぎ澄まされた感覚が、気配の動きを教えてくれた。杖を天に上げる。そして上空からのライシュルトの攻撃を聖獣で受け止めた。


「へぇ、やるなぁカズキ」


 意外だとでも言うようにライシュルトが笑い、数歩後ろへ下がった。


「その笑顔むかつくっ」


「感心してるんだって」


「上から目線じゃん」


 杖を右手に、左手へ冷気を集め、ライシュルトへ放った。ライシュルトも掌をこちらへ向けて術を発動させる。


 二つの冷気が二人の間でぶつかり合い、人ほどもある氷の柱を作り出した。


「う~」


 このままでは埒が明かない。カズキは聖獣に命じて上空から炎を吐かせて氷を溶かす。熱気に煽られた氷から水蒸気が発生し、辺りを包んだ。視界は悪いがライシュルトの気配は把握できている。目くらましがある分、自分が有利だ。


 ここで勝負を決めようと再び聖獣の力を自らの器から聖獣へと転換させた。


「……え?」


 その僅かな時間だった。首筋に当たる冷たい刃。煙が晴れ、背後にいたのはライシュルト。


「はい、終了ー」


「なんで……」


「お疲れ~。結構楽しかったぜ、カズキ。ほら、皆に挨拶挨拶」


 肩に乗せられて歓声を雨のように浴びる。クラウドも惜しみない拍手を送ってくれていた。


「ま、いっかぁ」


 彼が喜んでくれているなら、理由はどうでもよくなってしまう。喜んでくれたという事実の方が大きいから。


 その後、セディアによって閉会の辞があり、クラウドとは食堂で落ち合った。


「カズキ君、雪辱は晴らせなかったようですが、いい試合でしたよ」


「うん、ライシュルト相手だったから変な気負いもなかったしね」


「酷っ」


「はは。まぁ本当に頑張ったな、カズキ。ピエール様からお伺いしたが、聖獣の力を自分に取り込むなんて正直驚いたよ」


「うん。聖獣って大きいから、戦いに巻き込んでクラウド傷つけちゃうのは嫌だったんだ」


「そうか、優しいね」


 嬉しそうにクラウドが笑う。


「さてこの後は舞踏会ですねぇ。お二人は参加しますか?」


「行くかい?」


「え、別に参加しなくても」


「そうですか?」


 ピエールが近寄り、耳元で囁いてきた。


「団員は騎士団の正装を着用するんです。クラウドは、とても似合うと思うのですがねぇ」


「やっぱり行く」


 素直に見てみたい。


「カズキ?」


「はい、決定ですね。クラウドも着替えていらっしゃいな。カズキ君も着替えさせて会場へ連れて行きますから」


「はぁ、分かりました」


「クラウド、また後でね!」


「さ、行きましょう」


 クラウドと別れ、カズキはピエールの私室へ招かれた。


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