第62話
空が茜に染まる頃、騎士団の試合が始まった。従騎士、騎士、聖騎士の鍛練場を使い、試合はトーナメント形式で行われる。持ち時間は五分。それで勝負が決まらなければ両者とも失格となる。
奇しくもライシュルトとは決勝でしか当たらなかったが、クラウドは順調に勝ち抜き、決勝までこぎつけた。
「クラウドと手合わせするの久しぶりだな」
「ああ。迷いの杜以来か。ライは意識なかったけど強かったよ。今回はカズキが観ていてくれているから負けられないよ。約束したしね」
控室代わりの食堂でクラウドは体を伸ばす。決勝を行う鍛練場には貴賓席が設けられ、ピエールの隣にカズキの姿が見えた。
クラウドの姿に気づいたカズキが手を振ってくる。通りかかった聖騎士が身を乗り出して納得したように頷いた。
「クラウド、あのお嬢ちゃんが噂の召喚士か? 今朝の食堂でのこと噂になってるぞー」
「お、お嬢ちゃん……」
横ではライシュルトが笑いを堪える。最早ユーライだけの話ではないらしい。クラウドもあまりの動揺に、カズキが男だと否定するのも忘れて、思わず惚気てしまった。
聖騎士が去った後もライシュルトは笑っている。
「ライ、笑いすぎ」
「悪い悪い、朝のカズキのキスは衝撃的だったもんなー。みんな興味津々だな」
「そろそろ時間だ、行こうライ」
「照れるなって」
陽は暮れて夜空には丸い月。松明の光で鍛練場が赤く染まっている。
設えられた壇上に立ち、互いに剣先を当てた。二人の闘志に辺りが静まり返る。
一手。互いに剣を弾き、間合いを取った。
ぴんと張る空気。クラウドは小さく息を吐いた。
二手。ライシュルトが動いた。
剣を受けたがバランスを崩してしまった。彼の素早い動きに気を取られて足払いをかけられたようだ。だが後方へ倒れながらも体勢を整え、ライシュルトの腹へと脚を蹴り上げる。
三手。三たび剣を合わせた。息をつく間もない攻防と響く剣戟。
四手。勝負が着いた。
ライシュルトの剣線が弧を描き、その後の下段からの攻撃を受け切れなかったのだ。首筋に切っ先が当てられる。
「勝負あり、だな」
「参った。やはり強いな、ライ。また手合わせをお願いするよ」
「おう、お相手しましょー」
差し出されたライシュルトの手を取り立ち上がる。歓声を送ってくれる観衆の中、ただ一人カズキだけが不機嫌そうだった。
「ライシュルトっ、次はボクが相手だっ!」
「はいはい。つーか、騎士団の規律で他流試合できないっての」
「いいじゃないですか。やっちゃいなさいな」
「へっ?」
立ち上がったピエールが髭を撫でながらにこりと笑う。クラウドとライシュルトは顔を見合わせた。
「第二位階として許可します。たまにはこんな余興もいいじゃないですか。ねぇ、皆さん」
「マジ?」
「持ち時間は同じく五分。カズキ君は中心に位置してライシュルトを檀上から落とすか、ライシュルトがカズキ君に触れたら試合終了としましょう」
「ピエール殿、それはどうかと……」
聖騎士団長であるセディアが渋ったが、ピエールだけではなく既に観衆も盛り上がっている。止めても無駄だろう。
「え? マジで? やるの?」
「何だかやるしかなさそうだぞ。まぁ、折角の機会だ。カズキに胸を貸してやってくれよ」
「クラウドまで~」
「ほら、今までは叉胤が相手をしてくれていたけど、カズキはいつも本気じゃなかった。けれどライなら、あの子も本気を出せると思うんだ。いい意味でライには素直だろ」
感情を包み隠さないのは、逆に言えば心を許している証拠でもある。クラウド自身も羨ましくなるほどだ。
「……は~、仕方ねぇなぁ。出来の悪い兄ちゃんとして可愛い弟の頼みを聞いてあげるか」
「はは、お手柔らかに頼むよ」
ピエールに呼ばれたクラウドは貴賓席へ入る。そしてカズキの傍にしゃがんで頭を撫でた。
「クラウド……」
「腕試しにやるだけやってごらん。見てて分かったろうけど、ライは強いからいい経験になるはずだ」
「クラウドもここで観戦しなさいな。聖騎士団長、カズキ君を頼みますよ」
「団長、お願いします」
「ああ。行こうか、カズキ君」
「行ってくるね」
セディアに連れられて、少しだけ不安そうに檀上へ向かうカズキを見送り、ピエールに勧められた席へ腰を下ろす。
「さて、カズキ君はどんな戦いを見せてくれますかね」
「ピエール様、何かお考えが?」
「ただの好奇心ですよ。クラウドも肩の力抜かないと凝っちゃいますよ」
その笑顔の裏には何かありそうな気もするが、カズキの無事を祈りつつ、クラウドは檀上へ視線を向けた。




