表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/101

第62話

 空が茜に染まる頃、騎士団の試合が始まった。従騎士、騎士、聖騎士の鍛練場を使い、試合はトーナメント形式で行われる。持ち時間は五分。それで勝負が決まらなければ両者とも失格となる。


 奇しくもライシュルトとは決勝でしか当たらなかったが、クラウドは順調に勝ち抜き、決勝までこぎつけた。


「クラウドと手合わせするの久しぶりだな」


「ああ。迷いの杜以来か。ライは意識なかったけど強かったよ。今回はカズキが観ていてくれているから負けられないよ。約束したしね」


 控室代わりの食堂でクラウドは体を伸ばす。決勝を行う鍛練場には貴賓席が設けられ、ピエールの隣にカズキの姿が見えた。


 クラウドの姿に気づいたカズキが手を振ってくる。通りかかった聖騎士が身を乗り出して納得したように頷いた。


「クラウド、あのお嬢ちゃんが噂の召喚士か? 今朝の食堂でのこと噂になってるぞー」


「お、お嬢ちゃん……」


 横ではライシュルトが笑いを堪える。最早ユーライだけの話ではないらしい。クラウドもあまりの動揺に、カズキが男だと否定するのも忘れて、思わず惚気てしまった。


 聖騎士が去った後もライシュルトは笑っている。


「ライ、笑いすぎ」


「悪い悪い、朝のカズキのキスは衝撃的だったもんなー。みんな興味津々だな」


「そろそろ時間だ、行こうライ」


「照れるなって」


 陽は暮れて夜空には丸い月。松明の光で鍛練場が赤く染まっている。


 設えられた壇上に立ち、互いに剣先を当てた。二人の闘志に辺りが静まり返る。


 一手。互いに剣を弾き、間合いを取った。


 ぴんと張る空気。クラウドは小さく息を吐いた。


 二手。ライシュルトが動いた。


 剣を受けたがバランスを崩してしまった。彼の素早い動きに気を取られて足払いをかけられたようだ。だが後方へ倒れながらも体勢を整え、ライシュルトの腹へと脚を蹴り上げる。


 三手。三たび剣を合わせた。息をつく間もない攻防と響く剣戟。


 四手。勝負が着いた。


 ライシュルトの剣線が弧を描き、その後の下段からの攻撃を受け切れなかったのだ。首筋に切っ先が当てられる。


「勝負あり、だな」


「参った。やはり強いな、ライ。また手合わせをお願いするよ」


「おう、お相手しましょー」


 差し出されたライシュルトの手を取り立ち上がる。歓声を送ってくれる観衆の中、ただ一人カズキだけが不機嫌そうだった。


「ライシュルトっ、次はボクが相手だっ!」


「はいはい。つーか、騎士団の規律で他流試合できないっての」


「いいじゃないですか。やっちゃいなさいな」


「へっ?」


 立ち上がったピエールが髭を撫でながらにこりと笑う。クラウドとライシュルトは顔を見合わせた。


「第二位階として許可します。たまにはこんな余興もいいじゃないですか。ねぇ、皆さん」


「マジ?」


「持ち時間は同じく五分。カズキ君は中心に位置してライシュルトを檀上から落とすか、ライシュルトがカズキ君に触れたら試合終了としましょう」


「ピエール殿、それはどうかと……」


 聖騎士団長であるセディアが渋ったが、ピエールだけではなく既に観衆も盛り上がっている。止めても無駄だろう。


「え? マジで? やるの?」


「何だかやるしかなさそうだぞ。まぁ、折角の機会だ。カズキに胸を貸してやってくれよ」


「クラウドまで~」


「ほら、今までは叉胤(ざいん)が相手をしてくれていたけど、カズキはいつも本気じゃなかった。けれどライなら、あの子も本気を出せると思うんだ。いい意味でライには素直だろ」


 感情を包み隠さないのは、逆に言えば心を許している証拠でもある。クラウド自身も羨ましくなるほどだ。


「……は~、仕方ねぇなぁ。出来の悪い兄ちゃんとして可愛い弟の頼みを聞いてあげるか」


「はは、お手柔らかに頼むよ」


 ピエールに呼ばれたクラウドは貴賓席へ入る。そしてカズキの傍にしゃがんで頭を撫でた。


「クラウド……」


「腕試しにやるだけやってごらん。見てて分かったろうけど、ライは強いからいい経験になるはずだ」


「クラウドもここで観戦しなさいな。聖騎士団長、カズキ君を頼みますよ」


「団長、お願いします」


「ああ。行こうか、カズキ君」


「行ってくるね」


 セディアに連れられて、少しだけ不安そうに檀上へ向かうカズキを見送り、ピエールに勧められた席へ腰を下ろす。


「さて、カズキ君はどんな戦いを見せてくれますかね」


「ピエール様、何かお考えが?」


「ただの好奇心ですよ。クラウドも肩の力抜かないと凝っちゃいますよ」


 その笑顔の裏には何かありそうな気もするが、カズキの無事を祈りつつ、クラウドは檀上へ視線を向けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ