第61話
次の日、心地好く眠りから覚めたカズキは、ベッドから身を起こした。隣にはクラウドが眠っている。ピエールの計らいで、団員以外は入れない騎士団寮へ入ることを許可してくれたのだ。
カーテンの隙間から朝陽が漏れ、カズキの瞳を照らす。
ここはクラウドの部屋。整然と並べられた家具や制服。それなのに棚の本は、種類や巻数が適当に詰め込まれている。彼の私生活が見られてちょっぴり嬉しくなった。
「ふふっ、ボクのことになるとまめなのに、自分のことは案外気にしないんだなぁ」
何だか楽しくなって笑ってしまう。幸せ、なんだろうなと思う。とても。
「クラウドに会えて本当に良かったと思ってる。ボクにこれからを乗り切る勇気をちょうだい?」
カズキはクラウドの下唇に口づけ、そっと身を寄せた。
幸せ。だけれど、これからどうなるのかを考えると不安なのだ。皆に期待されることの重圧もある。
「ボクのこの手で、どれくらいの人を助けることができるんだろう?」
独りごちて、天井へ伸ばした自分の両手を見つめた。それが大きな手に優しく包まれる。大好きな手だ。
「クラウド」
「俺の手もあるよ。カズキが取り零してしまったら俺の手が受け止める。だから、お前はお前のできることをやればいいんだよ。カズキの傍には俺もいるし、ライや叉胤、たくさんの仲間がいるから」
「……うん」
「憂いているカズキも好きなのだが、笑ってる顔が一番好きだ。笑ってくれるかい?」
「クラウドは優しいね」
カズキは笑う。急に曇ってしまった心は、クラウドのおかげですっかり晴れた。
「いい笑顔だ。さぁ、食堂に行こうか」
「うん。でも聖騎士じゃないボクが行っても平気かな」
「大丈夫」
軽く身支度を整えクラウドと一緒に食堂に入ると、多くの人々が朝食をとっていた。それこそ小さな子供から聖騎士まで色々だ。
空いている席に座らせてもらい、辺りを見渡した。
「うわぁ、いっぱいいるね。聖騎士の人しかいないもんかと思ってたよ」
「寮や鍛練場は分かれているけど、食堂は階級関係なく集まれるんだ。まだ見習いだった頃、聖騎士を見て憧れていたものだよ」
「じゃあ今は憧れられる立場だね。ふふっ、でも、誰にもクラウドは渡さないんだから」
カズキはクラウドを呼ぶと胸倉を掴んで引き寄せ、噛みつくようにキスをする。周りがやや静まり返ったがお構いなし。
「か、カズ……」
「お腹空いちゃったよ、クラウド」
「カズキには負けるね。今何か持ってくるから待ってなさい」
「はーい」
クラウドを見送り、喉で小さく笑う。
「小悪魔だのーカズキ」
「その声はライシュルトっ」
「よ、おはよー。昨日は幸せに過ごせたようだな」
「はぁ?」
隣に座ったライシュルトが首筋を指差した。多分キスマークが付いているのだろう。
「クラウドとえっちしたからね。凄かったよ。何なら体も見る?」
見せつけようと胸元のボタンを外そうとしたが、顔を赤くしたライシュルトに必死で止められた。
「うわぁ、明け透けにまぁ~この子は……こっちが恥ずかしくなるよー」
「聞かれたから答えただけじゃん」
「へいへい。あ、そうだった。なぁ、お前クラウドの戦ってる姿カッコイイと思うか?」
「うん、カッコイイ」
「じゃあ今日の夜、団長が迎えに行くから一緒に来いよ」
「はぁ? 意味分かんない」
「祭の前夜祭として、騎士団で武術大会と言う名の腕試しがあるんだよ。従騎士から聖騎士まで全員参加ってやつ。クラウドの姿観たくねぇ?」
「うん。クラウドも出るなら観に行ってもいいよ」
「よしよし。んじゃ、クラウドに、夕方に聖騎士鍛練場集合って伝えといてくれ。また後でなー」
手をひらひらと振りながらライシュルトが去る。入れ違いでクラウドが朝食を運んできてくれた。
「今のライか? 何だって?」
「今日の夜に騎士団の武術大会があるから観に来いってさ」
「なるほど。つまりは俺も強制参加ってことだな。カズキが観に来てくれるなら手は抜けないね」
「頑張ってねー。でも何で合同なの? 従騎士と聖騎士じゃ、素人目から見ても実力の差がありすぎだと思うけど」
「これも訓練の一環なんだよ。従騎士は、騎士や聖騎士と手合わせのできるいい機会だ。逆に俺達は、相手に傷を負わせることなく勝負をつけなければならない。倒すだけが勝負ではないという考えだね。もちろん真剣を使うから気が抜けないよ」
「あれ? そういえば背中の傷……腕試しの時って」
カズキはクラウドの傷を思い出す。あまり危険なことはして欲しくないけれど。余程不安そうな顔をしていたのだろうか、クラウドが優しく頬を撫でてくれた。
「大丈夫だよ。あの時と立場は違うし、俺も成長したから」
「ん、そっか。ねぇクラウド、ライシュルトだけには負けないでね」
「ライは本気出すと強いからなぁ」
「あー、もう負け腰っ?」
「そうだな、それならば――」
クラウドが耳元で囁く。
「約束だ」
「もうっ、クラウドったら」
カズキは『それ』が恥ずかしかったが、身を縮めて小さく頷いた。




