第59話
セントラルクルスに近い森の中、湖の辺にソギが暮らしていた二階建ての小屋があった。木々を鳥が行き交い、湖では大小様々な生き物が静かに水を飲む。自然や動物が一体となった彼らしい住まいだった。
立地条件が良い待機場所ということでソギが提案をし、召喚士の都から地の聖獣の神殿を経由して、カズキの聖獣で森まで運んでもらったのだ。
ヨハンは初めて訪れるソギの家に胸が高鳴った。
「ここがソギの家か~。ユーライでも思ったが、木で造られてる家具っていいな。あったかい感じがするぜ」
「うん。でも少し埃っぽくてごめんね。掃除してくるから、ヨハンは寛いでてね」
「あ、俺も手伝うぜ。一人でやるの大変だろ」
「ありがとう。じゃぁお言葉に甘えちゃおうかな」
「お安いご用だ」
ヨハンはソギと共に二階の客室の掃除から始める。
換気の為に窓を開けると、どこから飛んできたのか花を咥えた数羽の鳥が縁に止まった。
「お、鳥だ」
「あ、みんな、ただいま!」
ソギが顔を出せば鳥たちが嬉しそうに飛び回る。生き物と仲良くなれるのは正直羨ましい。
「は~。すげーな、ソギ。鳥もお前が帰ってきてくれて嬉しいんだろうな」
すると一羽の小鳥が部屋に入り、ヨハンの手に花を乗せて周りを飛び回る。
「なんだっ?」
「ふふっ、お花あげるって。この子、ヨハンが気に入ったみたい」
「おぉ、鳥に好かれたのなんて初めてだ。嬉しいもんだな」
心底嬉しくてヨハンは指先で鳥の頭を撫でた。そして貰った花の茎の先を折り曲げてソギにかざす。銀色の髪には瞳と同じ薄水色の花。
「うん、似合う」
「ありがとう」
見詰め合う二人の唇が重なった。
ヨハンは、ソギの服の中に潜り込ませた手を背筋に沿って滑らせた。ソギの唇から熱い吐息が漏れる。
愛しくてたまらない。部屋には二人きり。
「いいか?」
「ヨハン……」
ソギは迷ったようだが、やがて静かに頷いてくれた。ヨハンは首筋に舌を這わせる。やんわりとした肌質に残る二つの傷痕。ナルシスで付けられたそれを癒すように舌で撫でた。
「……ッッ!」
びくりとソギが反応する。小さく漏れた喘ぎ声が耳朶を擽られるように心地好い。
「ここ、弱いんだな」
「ちょっ、ヨハン……ぁっ」
攻め立てるとソギは更に身悶える。
ヨハンは我慢できずにソギをベッドへ押し倒した。衣擦れの音と二人の吐息が部屋を満たす。
「ふ……ぁっ……」
互いに欲望という抗い難い感情に支配され、あとは理性という枷を外すだけ――だった。
「よー、ソギ! ここにいた……って、おぃ」
「あ」
ライシュルトが勢いよく扉を開けてきたものの、二人の姿を見て動揺を隠せずに佇んでいる。乱れた服を整えながら気恥ずかしそうにソギが用件を聞いた。
「あーその、カズキに邪魔だから手伝ってこいって言われて来てみたんだが……すまねぇ、こっちでも邪魔したみたいだ」
「そ……そっか。じゃあライシュルトさんには隣の部屋をお願いしようかな」
「お、おぅ。任せとけっ」
不自然な動きでライシュルトが出て行き、二人は顔を見合わせて思わず笑ってしまう。
「びっくりしたぁ」
「ホントになー。でも、いいところでっ」
「ふふ、またの機会にお預けだね。確かにお掃除の途中だし」
「ちぇー」
その後各自が落ち着いた頃、ソギが私室へと招き入れてくれた。窓際に置いた花瓶には、先程の水色の花が風に揺れている。
ヨハンはベッドへ腰かけ、体を伸ばした。
「ちゃんとした部屋でゆっくりするのも久しぶりだな。最近野宿が続いたからなぁ」
「そうだね。せめて鴎伐さんから連絡があるまでは、ゆっくりしていってね」
少し弾んだソギの声。何かいいことでもあったのか。
「なんか嬉しそうだな、ソギ」
「あ、うん。久しぶりに帰ってきたし、ここには僕の思い出がたくさんあるからね。ヨハンもいてくれる。それが嬉しくて」
そう言ったソギが屈託なく笑い、ヨハンの隣に腰かけて手を握ってきた。
「あの、ね。今日の夜、一緒に出かけない? ヨハンに見せたいものがあるんだ。僕の秘密の場所。一緒に行こう」
「秘密の場所? おう、なんか楽しそうだな。楽しみにしてるぜ」
「うんっ」
そして二人は皆が寝静まった頃、そっと家を抜け出した。
空には闇の中に宝石。地にはほのかに明るい花の道。手を繋ぎ、二人は進む。
やがて見える七色に輝く小さな泉。ソギに促されて地面に寝転べば、木々の隙間から見える夜空に虹がかかる。何とも不思議な光景だ。
「こりゃ凄ぇ」
「ここね、昼は普通の泉なのに、夜はこうやって光るんだよ。小さい頃に道に迷ってこの泉に出会ったんだ。それ以来僕だけのお気に入りの場所だったんだけど、僕の大切な人になら……ヨハンになら教えてもいいなって」
「ん、ありがとな。夜に虹が見られるなんて思わなかった。また来たい」
「うん。次も一緒に来ようね」
月明かりに反射したソギの肌が抜けるように白く見えた。素直に綺麗だと思う。景色も。ソギも。
ヨハンは腕を回して腰を引き寄せた。二人の視線が甘く絡まる。
「あったかい……ねぇヨハン、僕……少し、寒い。温めて、くれる?」
耳元で囁かれる誘惑。その答えは一つだ。
「熱いほどに」
「うん」
そしてこの夜、二人は初めて肌を重ねたのだった。




