第58話
カズキが戻ってきたということで、皆が記憶の間へ集まった。
「お帰り、カズキ」
「ただいま、クラウド」
大好きなクラウドに抱き包まれると、これから話す辛い答えにも耐えられそうだ。
「話を聞かせてくれるかい?」
「うん。番人が第二位階から聞いたことなんだけど」
各々が座るのを見届け、カズキは横に座したクラウドの手を握る。
「あのね、まず三十五代目の番人は、やっぱりいなかったそうだよ。夢見だっけ? それもなかったんだって。今回みたいに番人が現れなかったんだ」
だけど、それは偽り。本当は、ライシュルトのように番人がいた。彼を助けようと教会ぐるみで奮闘したのは今と同じだ。
「それでね、番人がいないのは困るから、教会は人工的に番人を作り上げることにしたみたい」
「そんなことが可能だったのか」
「教会が作った杯を番人の代わりにしたそうだよ」
「杯、か」
カズキは一呼吸置いてのち、ライシュルトとクラウドを交互に見遣った。
「どうした?」
「その、クラウドとライシュルトは落ち着いて聞いて欲しいんだけど」
彼らにとって辛い事だろうから。
「話してくれ」
「うん……番人って人間と魔族の混血でしょ? だからその杯の中にね、人間と魔族の血と魂を封じ込めたんだって」
「血と魂ってことは」
「それって生贄――そんなことできるかよっ」
「ライシュルト、約束!」
ライシュルトが肩を落とし、握っているクラウドの手が震えた。
「あの光景はこういうことだったのか……。なぁカズキ、その杯はどんな形だったんだい?」
「色は金色で、これくらいだったよ。あとクラウドの剣と同じ紋様がくっついてた」
大きさを手で示せば、クラウドと鴎伐が納得した表情で頷く。
「宝物庫にあったアレか。中身はともかく、とりあえず取ってくるかな。叉胤、一緒に来い」
「え……あ、はい」
「おい、鴎伐っ」
「お前さっき倒れただろ。休んどけ」
鴎伐と叉胤が出て行き、カズキは手を伸ばしてクラウドの額に触れた。
「倒れたって大丈夫?」
「ああ、たいしたことないよ。カズキの話に出た杯が宝物庫にあってね、それを手にした時に一瞬眩暈を起こしたんだ。でもすぐに良くなったから」
「良かったぁ。ねぇクラウド、さっき言ってたあの光景って?」
「眩暈を起こした時にね、二人の人物が光に消えていく姿が見えたんだ。お前の話からすると、贄となった人間と魔族の魂の欠片を見たのかもしれないね」
「こんな結果でごめんなさい」
「カズキが謝る必要はないよ。しかし鴎伐が杯を取って来ても中身が使えないんじゃ――」
「えっ? 何でだっ!」
ナシュマが突然立ち上がる。
「叉胤の気配が消えた……っ!」
そう言って部屋を飛び出したナシュマについて行くと、彼は宝物庫へと向かった。
その中では、噴水に体を預けるように叉胤が気を失っている。すぐさまナシュマが抱き起こした。
「叉胤、しっかりしろ!」
「ぅ……ナシュマ」
「大丈夫か? 怪我はっ?」
「平気。それより鴎伐様は?」
頭を抱えながら叉胤が問う。件の鴎伐とは、すれ違いもしなかった。
「姿が見当たらないが」
「ねぇクラウドさん、杯がないよっ」
ソギが示した祠の中から杯がなくなっている。持ち出したのは鴎伐であろう。
その目的は。
「叉胤、鴎伐と何があったんだ?」
「……カズキ君の話を聞いて、犠牲者を出さずに杯を使えるようにできるかもしれないから、それまで教会近くで待てって。反論の余地なく気絶させられたんだ、ゴメン」
「何考えてんだ、アイツっ」
「犠牲者出さずにって、確かにそんなことができるならありがたいけど……」
カズキは、疑わしさを口にする皆を眺めた。
確かに鴎伐の言葉に保証はない。それでも、鴎伐の言葉が今のところ一番の最善策だと思う。ライシュルトに諦めるなと言ったのは自分。ならば僅かな可能性も信じなければ。
「鴎伐に任せてみようよ」
「えっ?」
クラウドまでが驚いたような顔をする。カズキはクラウドの袖を握った。
「あ……えっとね、全部を信用できないけどさ、元々ボクが見て来た方法じゃダメでしょ。だから本当でも嘘でも、そっちは鴎伐に任せてもいいんじゃないかなって、そう思って……」
クラウドに不思議そうに見つめられ、やがて微笑みながら髪を撫でられた。
「クラウド?」
「いや。カズキの言うことは、もっともだな。少しくらいアイツを信用してみよう」
「うん」
「そだなー。鴎伐も仲間だしな! たまにはいい事言うなーカズキ」
「たまにもいい事言わないよねーライシュルト」
「えっ? 言ってねぇ?」
「べーっだ」
カズキは舌を出して皮肉っぽく笑った。心では、上手く事が進むことを祈って。




