第57話
一方、クラウドが出て行き、やることもなくなったライシュルトは壁画を見上げる。
「記憶の間か……番人になったら、オレの記憶もここに遺されるのかな。オレは、番人なんてやりたくないのに」
独りごちて額を壁に当てた。皆に、クラウドには言えないことがあった。
出発前にピエールによって、次の番人の夢見が行われたことは勿論だが、日を追うごとにライシュルト自身、番人としての役割が鮮明になっていくのだ。これはもう遠くない未来、自分が番人になるという逃れられない現実なのだと思う。
「ただ団長と一緒にいたいだけなんだけどなぁ」
「ちょっとライシュルト、何ぼけっとしてるんだよ!」
「へ?」
振り向けば、記憶の間から戻っていたカズキが腰を摩りながら睨んでいる。そしてクラウドがいないことに気づき、辺りを見回してから不安そうに首を傾げた。そういう素直な表情は可愛いと思う。
「ねぇ、クラウドは?」
「大丈夫ー。あいつなら鴎伐に呼ばれて席外してるだけだよー。代わりにオレが残った」
「もうっ、それならちゃんと受け止めてよ。腰打っちゃったじゃん。ボクを傷モノにしたってクラウドに言いつけてやるっ」
「ゴメンナサイだよー。ま、とりあえず」
ライシュルトは苦笑しながら、カズキの前に座り込んだ。
「おかえり」
「――うん」
意外にも素直に頷いたカズキが、大きな瞳でじっと見つめてくる。
「どした?」
「記憶、見た」
「そうか。で、どうだった? 斎様助ける手立ては見つかったか?」
「違うよっ!」
カズキがライシュルトの手を払い退け、片眉を上げた。
「ボクの言ってるのはライシュルトの記憶だよっ。何であんたの記憶があるんだよっ? まだ番人やるか決まってないんでしょ?」
「オレの、記憶があったのか……?」
ライシュルトは瞳を閉じる。やはり番人という鎖からは逃れられないようだ。諦めという感情が、心の底に芽を擡げた。
「やっぱりか」
「はぁ?」
「見たなら隠してても仕方ないな。クラウドにも言ってないんだが、実は、出発前にはもうピエール様の夢見で決定してたんだ、オレが番人になるってこと」
「え?」
驚いたカズキが瞠目する。
「斎様との契約の話を聞いて、それが番人になる時なんだなって思った。記憶の間にオレの記憶があるってことで現実味増したな」
「ライシュルト……」
「斎様のついでにオレも助かったらいいなーと思ってたけど、そう上手くはいかないな」
本当に。少し期待してたのに。
物思いに耽り床へ視線を落としたその刹那、カズキに横っ面を叩かれた。あまりの突然の出来事に、ライシュルトは何が起きたか分からずに呆然としてしまう。
「何す――」
「この……バカライシュルト!」
カズキの頬には、涙が一筋。
「なんで諦めた顔してるのっ? クラウドが一生懸命になって斎って人もピエールさんも、それにライシュルトも助けようとしてるのに! 助けられる方が諦めてどうするんだよっ。クラウドの気持ち無駄にするなぁ!」
そして今度は胸倉を掴まれた。どこにそんな力があるのかと思うほどの力だ。感情の抑制が上手くいかないのであろう。
「クラウドが悲しむのは嫌だ! だからクラウドの為にボクがライシュルトを助ける! だけど、あんたが諦めたらその努力が無駄になるし、クラウドだって悲しむんだ。分かったか!」
「――はい」
カズキの気迫に思わず頷いてしまう。いつの間にか諦めの感情など吹き飛んでいた。『助ける』と言ってくれたのだ。カズキに人生の道筋を決めてもらってもいいだろう。自分はそれに従うまでだ。
「約束してよ」
「ああ。ありがとな」
「ふん。約束破ったら聖獣けしかけてやるんだから」
「それは怖いな。精々努力するよ」
「うん。じゃぁ、これから話すこと聞いても諦めるのはダメだからね」
「? どういうことだ?」
「皆が揃ったら言うよ。早く集めて来て」
一瞬辛そうな表情をしたことが気になったが、ライシュルトは皆を呼びに部屋を出た。




