第56話
カズキが扉の向こうに姿を消して数時間。クラウドはただ一人扉の前でカズキを待っていた。
扉の中へ消えた時には空高くあった太陽が、今では地に消えかけている。聖獣の契約の時よりも時間がかかっていることが、心配でならなかった。
「クラウド、まだか?」
「ライか。ああ、まだだね」
「そっか。ほい、ひと休憩しろよ。ソギが鳥使って水と食い物見つけてくれたぜ」
「ありがとう」
ライシュルトが木の筒に入った水と、拳ほどの赤い果実をクラウドの前に置いた。水を飲み甘い果実を囓れば焦りも和らぐ。
「今回はえらく時間がかかってるな」
「ああ。カズキの負担になっていなければいいのだが」
「番人の数膨大だから、目的の記憶見つけるのだけでも大変なんだろうな。しかし記憶の間ねー。番人の記憶が留められてるって、やっぱ不思議だわ。形のないものなのにどうやって見るんだろうな。そんで個人的に物凄く気になるのは斎様の記憶だ」
「ああ確かに。少し興味があるね」
ピエールと同僚でもあったセディアからは、斎とピエールは強い心の絆で結ばれていると聞いた。どのように出会い、番人になったのか興味がある。
「お互いに未だ想い合うことができるなんて素晴らしいことだね」
「だな。あ、そうだクラウド、頼みがあるんだけど、セントラルクルス戻ったら、契約前に一日でいいから団長と会う時間欲しいんだ。なんか色々話したくて。つか、戻れるって思ったら急に会いたくなっちゃったー」
照れ臭そうに頬を掻きながらライシュルトが言った。二十も年上だが、彼にとって大切な人。いつも一緒にいられる自分たちと違って、会いたいという気持ちも人一倍強いだろう。
クラウドは頷いて快諾した。
「勿論だ。ザーニア以来会ってないだろ。久しぶりに団長とゆっくり過ごせよ」
「ありがとー。この先今まで以上に会う時間なくなるかもしれないしなー。お言葉に甘えさせてもらうよ」
「ライ、ご両親のことは……」
「ああ、うん――」
ライシュルトが答えようとしたところで、鴎伐が部屋へ入ってくる。
「クラウド、ちょっといいか?」
「? ああ……ライ、悪いがここを頼むよ」
「おう、任せとけ」
部屋を出て、右手五つ目の竜の壁画で鴎伐は足を止めた。そこはジュリアスからも聞いていた召喚士一族の宝物庫への入口だ。
「ここがどうかしたのか?」
「お前まだ宝物庫入ってないだろ。俺達は見てきたからよ、案内してやろうと思って」
「他の皆はどうしたんだ?」
「あー、叉胤とナシュマは神殿の屋根の上で二人の世界に入ってて、ソギとヨハンは近くの森に消えたぜ」
「つまり暇なんだな」
「的確な答えをありがとう。ま、お前とサシで話してみたかったのも事実だ」
「ふふっ。ならば、そういうことにしておこうか」
一見壁のように見えるそこは通り抜けることができた。中には細く長い階段が地下へと続く。鴎伐が作り出した光を頼りに階段を下り、ようやく鉄でできた重厚な扉へと到達した。
扉からは微かに光が漏れている。
「ここか?」
「ああ。すっごいぜ、中。入ってみろ」
彼の言葉通り促されて入った宝物庫は、倉庫などという想像を、一瞬に打ち砕いてくれるほど美しい景色が広がっていた。
空は青く、どこまでも続く白い岩壁から流れ落ちる水が、光を反射して昼間のように辺りを明るくする。木々が溢れ、足元には彩色鮮やかな草花が風に揺れているのだ。
「凄い……」
「な。驚いただろ」
「ああ。ん、あれは……」
中央の噴水を囲うように建てられた祠には、虹色に輝く拳ほどの宝石や、小さな金の杯などが浮いていた。何もない祠には、カズキの杖やピエールの持ってきた月の雫があったのだろう。
クラウドは何気なく、金色の杯を手に取った。
「これは……」
その装飾には太陽と月の紋章。
「――ッッ?」
ほんの一瞬、酷い頭痛に襲われて頭を抱える。
「クラウドっ?」
「……すまない、大丈夫だ」
「大丈夫って顔じゃねぇだろ」
鴎伐が杯を元の場所に戻し、噴水の縁に寝かせてくれた。
クラウドは大きく息を吸い込む。頭痛の折りに意識に掠めた一つの光景。眩しいほどの白い光の中に二人の人物が姿を消した。それが脳裏に焼きついて離れない。忘れようと、頭を振って瞳を閉じた。




