表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/101

第48話

 その頃のカズキとライシュルトは、神殿へ向かう階段を下り続けていた。足元ではさらさらと水が流れる音。周りには暗い空間に浮き上がるように、音もなく滝が水を落とす。静かな、世界。


 カズキは命還泉(めいかんせん)に空気が似ていると思った。ユーライでのことを思い返すと、急にクラウドに会いたくなってしまう。風の里で別れてからどれくらい経つのか。


 会ったらどうしよう。会ったら何を言おう。


「浮かない顔だな、カズキ。寂しくなったのか?」


「うるさいっ。さっさと進んでよ。契約済ませてクラウドに会いに行くんだから」


「はいはい。それにしても神殿にはまだ着かないのか?」


 螺旋状に伸びる階段の下を眺めながら、ライシュルトが溜め息を吐いた。そして一瞬だけ眉をしかめる。


「ん? おぉー、懐かしい~」


「どうしたの?」


「あー何でもない。で、カズキ、聖獣の神殿まで後どれくらいかかりそうなんだ?」


「そうだなぁ」


 カズキは海底に杖を向けた。既に水の力の中には入っているのに、神殿が見えないのが不思議だ。


 この感じは前にも。


「あ、もしかして……。ライシュルト、聖獣召喚するから下ろして」


 カズキは召喚し、聖獣の口から眩しいほどの光を放つ。


「うわっ」


 聖獣が消えればカズキの予想通り、石造りの大きな神殿が現れた。白く艶めく柱に魚や珊瑚の装飾。柱の向こうには本物の魚や海獣が優雅に泳ぐ。


「やっぱり」


「なんだぁっ?」


「何って、水の聖獣の神殿だけど?」


「いや、それは分かるけど。何したんだ、お前」


「炎の聖獣のところに行く時もこんな感じだったんだ。聖獣のとこまで別の空間が繋がっててさ。今回も結構歩いたのに着かないから同じかもって思って」


「へー。聖獣の力がなくても道ができたから、素直に行けるかと思ったら、やっぱり力は必要だったんだなー」


「迷い込んでも神殿には辿り着けないようになってたんだね。道案内するから、さっさと契約しに行くよ」


 これが終わればクラウドに会える。カズキは意気揚々とライシュルトを契約の間へと案内した。


 水でできた祭壇に青く大きな球体が浮いている。触ると波紋が広がり、指先が水に濡れた。球体の中心に力の塊を感じた。どこからか自分を呼ぶ声がする。


「行ってくるね」


「ああ。気をつけてなー」


 カズキは両手を球体に当てて目を閉じた。するりと体が吸い込まれる。そして、力の塊が体の中に入ってきた。


「?」


 いつも感じる痛みは、ない。代わりに感じるのは途方もない快感。激しくはない、優しい愛撫を体中に施されているようだった。


 頭の芯が痺れる。


「…………」


 クラウドに抱かれる幻想を思い浮かべた。寂しいのは心だけではないようだ。


 カズキは腕を伸ばして目の前のクラウドに口づける。


「クラウド……」


「カズキ、聖獣契約を見事に果たしたようだな、おめでとう。良くやったな」


「――え?」


 最初は、理解できなかった。それは幻覚などではなく、確かな温かみ。腹に浮き出た水飛沫のような痣を撫でる優しい手は、本物だ。


「クラウド?」


「ただいま。置いていってすまなかった」


 優しく見つめてくる碧い瞳。申し訳なさそうに謝る低めの声。


 本物のクラウドだ。


「ホント?」


「ああ」


 掌がカズキの頬に当てられる。カズキは無意識に抱きついていた。力の限り抱きしめる。


「何でここにいるんだろうとか、もうそんなのどうでもいい!」


「カズキ……」


「クラウドがここにいてくれる事実だけで満足だよ」


「俺はここにいるよ」


 濡れた体を暖めるようにクラウドが抱きしめてくれた。


 ドクンと胸が高鳴った。首筋の後ろがぞくりとする。自分がどう思ったのか、クラウドはすぐに分かったのだろう。


 そして、互いの熱い吐息が重なった――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ