第43話
そして冷たい朝陽が柔らかな陽射しに変わる頃、船がゆっくりと接岸をして碇が下ろされた。
「着いたの?」
「ソギ兄さん、とりあえずはここまでだ。銀の海はこの陸の対岸にある。いかんせん凍っちまってるから、直接銀の海には出られないんだ。俺達はここで待ってるから、悪いが歩いて行ってくれ」
「分かった。船長、ありがとう。助かったよ」
「なーに! いい船旅だったぜ。船員達も肝っ玉強くなっただろ。叉胤兄さん、あん時は腰抜け船員がすまなかったな。召喚士サマといい、あんたいい仲間に恵まれてるね」
「ああ、それはそう思うよ」
叉胤が笑顔で頷いた。人間の姿に戻っているが、魔族の姿が背後にある故か、以前よりも精悍さを感じる。
「そうそう、銀の海の近くにツバキって小さい集落がある。海が凍ってから音信不通になってるが、寄ってみたらどうだい。今から行けば陽が沈む前には着けるだろう。ところで、召喚士サマはそんな格好をして平気なのかい」
「うん」
クラウドのマントを羽織ってはいるが、カズキの姿は露出の多い布服一枚という、北国では考えられない服装だ。
船の上で聖獣を喚び出してから、何故か寒さを感じなくなったのだ。感じられるのは風の優しさと炎の温かさ。聖獣の力が護ってくれているのだろうと思う。
船長と別れ、氷の大地に降り立った。たまに走り去る強い吹雪が視界を遮り、方向感覚を失ってしまいそうだ。ヨハンがソギに寄り添いながら身震いをした。
「うおっ、こりゃ野宿は無理だな。寒さで死ぬっ。早くツバキってとこ行こうぜー。で、どっちの方向だ?」
「ちょっと待ってて。誰かに聞いてみるよ」
そう言ってソギが動物を集める。どこへ行くにも道に迷わないのはソギのおかげだ。彼がいなければ旅はここまで順調ではなかっただろう。
「ソギって凄いよねー」
「…………」
カズキは、背負ってくれているライシュルトに話しかけたのだが、反応がない。
「ちょっと、無視っ?」
少しだけ腹が立って、持っていた杖で頭を叩いた。
「イテッ! な、何すんだよ、カズキっ」
「だって話しかけたのにボーっとしてるんだもん」
「あー、悪い悪い。あまりの寒さに意識が遠退いてたわ。じゃ、出発しようか」
「あのさー、ライシュルト……馬鹿?」
カズキは呆れて溜め息を吐き、ソギを指差した。
「今、道を調べてるんだよ。勝手に出発してもいいけどさ、一人で行ってよね」
「あ、そうだったか」
「もーしっかりしてよっ、なんなのっ?」
ぷりぷりとカズキは怒りながらもソギを見守る。世の中、クラウド以外に好きなものはあまりないが、ソギの動物集めは数少ない好きなものの一つだ。
「お願いします」
ソギが頭を下げた相手は、全身が白い毛に覆われた白熊と呼ばれる生き物だった。
「うわー、熊なのに毛が真っ白だよ!」
「カズキ君」
ライシュルトの背中から口を開けて見上げるカズキに、ソギが声をかけた。
「この白熊さんが背中に乗せてくれるって」
「乗っていいの?」
「優しい感じがするから一緒にいたいんだって。カズキ君から感じられる聖獣の気配かな?」
「そっかぁ。ライシュルト、早く早く」
「はいはい」
わくわくしながら乗った白熊の背中は、思ったより毛が硬かったものの乗り心地は良い。
「おっ、なんかカッコイイなカズキ」
「そう? さーて、出発ー! 白熊さん、お願いね!」
白熊が相槌を打つようにグルリと鳴く。そして、それぞれ逸れぬように手を握り、白銀の世界に足を踏み入れた。




