第41話
「うー、頭痛くて気持ち悪い……」
「そりゃ二日酔いだからな。水いっぱい飲め」
カズキはヨハンから渡された水を飲み干し、気持ちの悪さに再びベッドへ倒れ込む。
「二日酔いって辛いよな。俺も経験あるぜ」
「ヨハンはソギと仲良しだよね。あんなに飲んでいつもソギは平気なのー?」
「顔色変えずに飲んでるな。どこに吸収されてるんだか」
「お酒は懲り懲りだよ。こんなに気持ち悪くなるなんて」
「酒は楽しく程々にだな。つーか、お前にゃまだ早い」
「子供扱いするなよー。ボクだって飲める年だい」
「ま、船の支度が整うまでゆっくり休んでろ。今日は出航日和だぞ」
ヨハンが窓を全開にした。開け放たれた窓から差し込む太陽の光が眩しくて、カズキは目を細め、外へ行きたいと願った。折角の快晴、ここにいるよりも外に出た方が気分的に晴れる。
港まで行こうと下の階へ下りたところで、宿の主人に呼び止められた。
「預かり物?」
「へぇ、クラウドって金髪の聖騎士から、これをあんたに渡すようにって」
「クラウドからっ?」
主人が青い布に包まれた細長い物をカズキに渡してきた。布はクラウドのマントであり、その中身はクラウドが牙煌との戦いの時に使用した細身の剣だった。正式な紋章剣でないにしろ、聖騎士が所有する剣だ。クラウドからのそれなりの気持ちが窺い知れる。
「必ずまた会おうって、会えるってことだよね」
「だな」
カズキは剣を背中に括りつけてもらった。クラウドの物を身につけているだけで、一緒にいる気分になれるから不思議だ。
外は思った以上に天気が良く、風に乗って海鳥が空を翔ける。港には他の大陸を繋ぐ定期船や漁船が並び、積み荷の上げ下ろしが忙しい。
その中の一艘に、昨日の男が船上で指揮を取っているのが見えた。こちらに気づいた男が縄ばしごを伝って下りてくる。
「お、ソギ兄さんのお仲間だな! 大陸の奴は気が早いようだが、出航までもう少し待ってくれ」
「それは構わんが、本当にあんた達に甘えちまって良いのか?」
「なに、気にするこたぁねぇ。あれからソギ兄さんと飲み直したんだが、ありゃ良い男だね。見た目可愛い顔して男気たっぷり! いやー惚れちまったね」
「た、確かにソギは魅力的だが……いや、だけど……」
「何動揺してんの、ヨハン」
「船室で休んでてくれよ。ソギ兄さんもいるぜ」
「行く」
即答したヨハンが生き生きと船室へ向かう。
「ヨハンってソギ好きでしょ」
「ん~。まーな。一目惚れってやつだ。ソギがザーニアの噴水で動物集めてただろ、あれ見かけてなー。で、迷いの杜でまた出会えて、運命かと思ったぜ」
「ふーん。ソギにはどう思われてるの? それとなく聞いてあげようか」
「はは、じゃあ気が向いたらお願いするよ」
そして船室へ入ればソギの他、ライシュルトと叉胤も寛いでいた。カズキも中央のテーブルに着き、ソギに渡された飲み物を飲む。
「……うぇっ、これ何っ? まずっ」
「僕の特製、二日酔いに効く薬草ドリンクだよ」
ユーライで飲んだ時よりも青臭い味に、思わず吐き出してしまいそうになったが、飲みきってみると、胸辺りの気持ちの悪さがすっかり取れてしまった。
「もう平気でしょ?」
「うん、凄いなぁ。あ、あのさ、ソギ」
「ん?」
「ソギはヨハンのこと好き? ちゅーとか出来る? ヨハンはソギが好きなんだって」
「えぇっ?」
カズキのいきなり過ぎる質問は、その場にいた全員を飲み込んだ。
「ちょ、待て待て待て待て! 色々待て!」
「なんで?」
「それとなくって言ってただろっ」
「うん。それとなく聞いたよ。とりあえずキスくらいで」
「天然か……この悪魔っ子め。もう破れかぶれだ!」
意を決したヨハンが事情を説明しようとしたが、部屋の中にソギの姿が見当たらない。
「ソギならフラフラしながら出て行ったけど」
「追いかければ?」
「う~、ちくしょー」
涙目になりながらもヨハンが船室を出て行く。
「軽い修羅場? びっくりしたー」
「ま、カズキが引っ掻き回してどうなることやらだな」
「なんだよー」
叉胤と笑い合うライシュルトが、カズキの背にある剣を目に止めた。
「お? その剣……」
「クラウドからの預かり物だよ。聖騎士の紋章剣じゃなければ平気なんでしょ?」
「ん~、いやはや、なんて言うか……カズキ愛されてんなー」
ライシュルトが照れたように頬を掻いた。
「なにー?」
「あのな、オレ達聖騎士は、紋章剣の他に、自分なりに使いやすい剣を持ってる。で、剣は聖騎士にとって魂そのもの。紋章剣を聖騎士以外に渡せないから、代わりに大切な人へもう一本の剣を贈るわけだ」
「うん。で?」
「つまりだ、オレ達の中では、相手に剣を渡すって行為はプロポーズってこと。一生を共にしてくれってな。まぁ誰に決められたわけでもない、聖騎士の中での暗黙のルールなんだが」
「クラウド、そのことは……」
「勿論知ってるぜ」
「…………」
顔が熱い。自分が思っていた以上に想われていたようだ。気恥ずかしいやら嬉しいやら。
カズキの気持ちがようやく落ち着いた頃、ソギとヨハンが何事もなかったかのように戻ってくる。二人の仲がどうなったのか分からないほど、いつもと変わらぬ雰囲気だった。
「出航するってさ」
「うん」
「なぁ叉胤……何で二人はあんなに普通なんだ?」
「不思議だね」
ライシュルトが複雑な表情を浮かべ、叉胤も苦笑する。様々な思いを乗せ、やがて船は出航した。




