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第40話

 一方、風の里では、皆でカズキの契約終了を待っていた。そしてクラウドの姿を見送った半刻後、テントの中に風が渦巻き、ライシュルトは、落ちてきたカズキをギリギリで受け止める。


「おっ、危ねー」


「クラウド……」


 縋るように抱きつこうとしたカズキだったが、薄く開いた瞳でライシュルトの姿を捉え、嫌なものを見てしまったと不快な表情を浮かべた。


「…………」


「よ、お帰りー」


「うわ、最悪……。なんでライシュルト。クラウドは?」


「ん~、残念ながらここにいません」


「はぁ?」


「所用があってセントラルクルスに戻ったんだよ」


「召喚士にはワシから話そうかの」


 カズキは老人からの話を関心なく聞いた。誰の話だろうと聞く耳を持てない。置いて行かれたことよりも、自分に黙って姿を消されたことが悲しかった。


 悲しいと思ったら溢れるように涙が出る。涙を見られたくなくてライシュルトのマントで顔を隠した。


「カズキ、泣くなよ。クラウド大好きなのは分かってるから」


「泣いてないよっ」


「はいはい、好きなだけ泣け。んで、次会った時クラウドを無言で一発殴ってやりゃいい」


「は? なんだよそれー」


 理論も何もあったものではない、ライシュルトの無茶苦茶な考え方に思わず笑ってしまう。


「悲しいなら怒りに変えて、次進む時のエネルギーにしちまった方が楽じゃねぇか?」


「それって前向きか後ろ向きか分からない考え方だよ。んーでも、ちょっと元気出たっ」


 カズキはライシュルトに下ろしてもらうと、老人に向き直った。左腕には翡翠色の流れるような曲線の痣。


「こうして無事に風の聖獣とも契約したよ。お爺さんは他の聖獣の場所知ってるの?」


「うむ。銀の海の深き場所。海底神殿に水の力が眠っておる」


「海底っ?」


「いかにも。その神殿の中へ入らねばならぬな」


「いやいやいや、ムリだろ」


「確かに、ただの人間ならば近づくことすらできん。だが……」


 老人がカズキの腕の痣を指差す。


「あぁ、聖獣の力か」


「うむ。水の聖獣と契約した頃には、クラウド殿の用事も終わろう。契約の後、セントラルクルスのクラウド殿と合流するが良い。残りの聖獣については彼が知っておる。そして、銀の海の地は雪と氷の世界じゃ。そのまま踏み入れれば命が危うい。十分に装備を整えてから銀の海へ向かうのじゃよ」


「うん」


 老人に別れを告げ、皆は何の疑いもなく銀の海へ向けて出発をした。


 最寄りの港へ寄り、銀の海の情報を各自で集める。


「やっぱり海凍っちまってるようだな。しかもこんな状況だから定期船も出てないのが痛い。こうなったら船盗むか」


「ライシュルトって時々ほんと馬鹿だよね。聖騎士のくせに」


「いや、冗談だって……」


「馬鹿なこと言ってないで酒場行くよ」


「へいへい」


 カズキとライシュルトが待ち合わせの酒場に入った時、大きな歓声が聞こえてきた。カウンター近くの机で、厳つい風体の男とソギが対峙している。机の上にはいくつもの空の酒瓶と小さなグラス。


「何やってるの?」


「ありゃ飲み競べだな。どっちかが潰れるまで酒を飲み続けるんだが……ま、勝負はあったようだ」


「え?」


 その瞬間、男が机に突っ伏すように倒れた。


「おぉー! すげーな兄ちゃん!」


「あいつが飲み負けるなんてなぁ」


「さて、約束だよ。銀の海までの船と人足、装備品一式の用意お願いね」


「う~、男に二言はねぇ……」


 眠ってしまった男を横目に、二人の存在に気づいたソギが手を振ってくる。


「来てたんだ」


「ソギ、何を?」


「銀の海がある大陸までの交通手段の確保をね。ついでに防寒服とかの用意もお願いしたんだ。飲み競べに勝てたらタダでやってくれるって言うからさ」


「それだけの条件よくあちらさんも飲んだな」


「うん、僕自身の身柄を賭けたんだ」


「おいおい……」


「だって負ける気なんて全くなかったし。負ける要素が一つでもあるなら勝負なんてしないよ」


「お前の底無しっぷりはザーニアで体験済だが……何杯飲んだ?」


「さぁ?」


 にこやかに笑うソギにはまだ余裕がありそうだ。


「ソギって凄いね」


 カズキはライシュルトに頼み、ソギの横に座らせてもらう。そして二人が話している隙にそっとグラスを手に取った。ソギが水のように飲んでいる酒は、一体どんな味なのか興味が出てしまい、一気に飲み干してみる。


「う……」


 焼けるように喉が熱く、脳に血が集まる重たさを感じたかと思うと、急に頭がふわふわする。


「ちょっ、カズキっ!」


「これ強いお酒だけど……大丈夫?」


「んー、ふわふわする」


 そこでカズキは記憶をなくし、見事な二日酔いになったのは言うまでもない。


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