第33話
朝陽が昇る。柔らかな陽の光が優しくカズキを包んだ。
サキチカが姿を消し、どれくらいその場にいたのか。涙は涸れ、サキチカと交わした約束だけが残された。
「……行こう」
防人の一人にクラウドの待つ宿へ連れていってもらう。
宿の入口では、クラウドが寝ずに待っていたのだろう、少し窶れたような面持ちでカズキを出迎えた。
「お帰り」
「うん」
クラウドの優しい腕に包まれると疲れも吹き飛ぶ。癒されぬのは悲しみのみ。
「よく頑張ったな。カズキならやれると信じていたよ」
「ねぇ、クラウド……」
「ん?」
カズキは山でのことをクラウドに話した。牙煌や魔族のこと。クラウドの命が狙われていること。
そして――サキチカのことも。
「ねぇ、ボクはサキチカの為に何をしてあげれば良いのかな? ミツチカになんて言えば……。怖いよ、クラウド。これ以上、人が死んじゃうのは嫌だよ……」
「カズキ、こういう感情はお前自身で整理し、お前自身で答えを見つけなければならないんだよ。ゆっくり考えなさい。大事なのは先だよ」
「?」
「今は、少し眠るといい。起きたら一緒にミツチカ様のところへ行こう」
「うん」
カズキが目を閉じ、腕の中で静かな寝息を立てる。クラウドはカズキの肩に手を当てて傷を治し、頬に流れた涙を親指で拭った。
部屋に戻り、皆に事情を話す。
「サキチカが……」
「カズキが起きたら、ミツチカ様のところへ行って事情を話してくるよ。皆は出発の準備を頼む」
「クラウドさん、オレもミツチカのところに行かせて。今度はオレがミツチカの傍にいてあげたいんだ。サキチカのこと、独りで堪えるには辛すぎる」
「ああ。頼むよ叉胤」
「うん。それにしても牙煌か……厄介だな」
「知ってるのか?」
「直接的な関わりはなかったけどね。魔界では有名な術士だ。王家への忠誠心が並外れて高いって聞いたから、与えられた任務は必ず熟そうとしてくるだろうね。クラウドさん、気をつけて」
「極力気をつけよう。魔族にとって、大事な人に誰か心当たりはあるか?」
「霧生も牙煌も王宮で働くほどの実力者。霙颯様まで動いている。王族が動くほどだ、いずれにせよ、かなり高貴な人だろうね」
「あちらの世界はどのような体制で国を治めているんだ?」
「国王が中心で、それを護る四天王と親衛隊。その下に王族直属の、術士、竜騎士、魔獣遣い、医術部隊と四つの隊がある。四天王はそれらの監督も兼ねてるよ。因みに霧生は医術員、牙煌は術士隊長だ。二人とも腕は確かだよ」
叉胤は何かを思い出してしまったようで、唇を引き締めた。
ヨハンが見て取り、話題を変える。
「それにしても、なんか良く分からねーな。人間を糧にしたいなら何で聖獣に手を出す必要があるんだ。自然を乱したら人間だって死ぬだろ」
「――扉か?」
クラウドは自分の首筋を撫でた。
「どういうことだクラウド」
「斎様の護る扉を開きたいのかと思ってな。人間を魔界に連れて行くにしろ、彼らにとって大切な者を連れて来るにしろ、邪魔なのは二つの世界を繋ぐ扉だ。治安を悪化させて教会の力を分散、同時にピエール様の護衛の力を削ぐ。それなら攻め取りやすい。後は聖獣の力を戻せば世界は安定する。あくまでも俺の推測だが」
「教会に伝えた方が良いかもな」
「僕が伝えておくよ。クラウドさん、カズキ君も帰って来たことだし、少し休んで」
「だな。奴ら余計な人間を巻き込まないようだし、俺達が見張ってるから安心しろ」
「ああ、お言葉に甘えさせてもらうよ。ありがとう」
皆に感謝しつつ、クラウドはカズキを腕に抱き体を休めることにする。たった二日ではあったが、カズキのいない夜は寂しく、とても長い。愛しい者を腕に抱き、仲間に護られて、ゆっくりと眠れる時間は、何よりも幸せなことのように思えた。




