第32話
――真っ白だ。けれど赤く、そして熱い。
聖獣とどうやって契約しているのか、実はボク自身にも分からない。杖の水晶を通して大きな力が体に入ってきたかと思うと、ボクの中にある『何か』を喰われる。そして体の中から破壊されていく痛み。
覚えているのはそれだけで、いつか、ちゃんと分かる日が来るのかな。
「ッ!」
カズキは地面に叩きつけられる感覚に目を覚ました。
自分と、使役している聖獣の右腕には、大きな炎を象った赤い痣が浮き出ている。どうにか契約は成功したらしい。
「カズキ!」
サキチカが牙煌から身を離してカズキの傍に寄って来た。牙煌から攻撃を受けたのだろう、火傷の範囲が広がっている。これで平気な顔をしているのが不思議だ。
「良くやったな」
「サキチカのおかげだよ。これでクラウドにも褒めてもらえるかな」
「……ああ、そうだった。カズキ、君より怖い存在がいたね」
「え?」
「君をやる気にさせる男、クラウドの存在を忘れていたよ。あいつの命を奪わなくてはならないな」
牙煌が思い出したように頷き、火柱を上げるとその身を投じて姿を消してしまった。
「今、何て?」
クラウドの命を奪う?
「カズキ、クラウドには仲間もいるし、聖騎士が簡単にヤラれるとは思わないが、急いで山を下りよう」
「う、うん」
クラウドがいなくなる、そんなのは絶対に嫌だ。クラウドがいるから頑張れる。どんなに苦しい時だって耐えられる。
サキチカに背負われ山を下りた。街に近づくごとに、じわりと背中に汗が伝う。クラウドに早く会いたいという焦燥感、そして――。
結界の境目には全ての防人が待機していた。
「カズキを頼む。クラウドの許へ連れていってくれ」
サキチカが、自分の首にかけていた首飾りをカズキの手に握らせ、結界の外へ出した。
首飾りは、小さな雫型の石が、美しい水色の光を放っている。命還泉を思い出させるような清廉な光だ。
「それを……ミツチカに渡してくれ」
「サキチカ?」
何を、言っているのだろう。何故、結界から出ようとしないのだろう。
山を下りている時にも感じた嫌な、予感。自分でも驚くほどドクンと心臓が鳴った。
「ここでお別れだ、カズキ」
「サキチカ、意味が分からないよ……。お別れなんて」
カズキは言葉を耳から出そうと頭を振った。そんな言葉は聞きたくない。
「俺の傷は思ったより深かったということだ」
「だったら、治療すればいい! 誰かサキチカを助けてあげてよ!」
「無駄だよ、カズキ。俺は、本当ならもう……」
サキチカの手が結界から抜け出てカズキの頬に触れた。
熱い掌だった。その手が、砂の城のように崩れ落ちた。
「……っっ!」
「結界の中で山の神が力をくれた。お前を護る力を。防人としてお前を護れたこと誇りに思うぞ。俺は、これからも山からお前を見護ろう」
「サキチカ、嫌だ――!」
「行け、カズキ。お前にはまだやるべきことがある」
サキチカがカズキから背を向ける。その瞬間、防人の全員がサキチカへ敬礼をした。
「皆、後を頼むぞ。ミツチカをよく助けてやってくれ」
「はっ」
「…………」
カズキは言葉を詰まらせた。サキチカにかける言葉が見つからない。やがて山も、周りの景色も、サキチカの背中も、涙に滲んで何も見えなくなった。




