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第31話

 洞窟の中は、外からは想像できないほど広い空間だった。中央には大きな穴が開いていて底が見えないほど深い。そして底へ向かって何本もの石造りの階段が、クモの巣のように伸びている。正しい階段を辿らないとどこへ行ってしまうか、サキチカにも分からないそうだ。


 その階段を気が遠くなるほど下りて、しばらく平坦な道を歩くとようやく円形の空間に出た。


 明かり取りから漏れる月明かりと、壁に等間隔に並ぶ五つの松明のおかげでかなり明るい。思った以上に広く二十人ほどが入れる空間だ。地の聖獣がいた祭壇と少し似ていると思った。


「ねぇ、なんであんなに下りたのに、こんなに月明かりがあるの? 地下じゃこんなに光は届かないよね」


「ああ、実はこの場所は洞窟を入ってすぐのところにあるんだ。そこの出口を出ればすぐに外へ出られる」


 サキチカが今まで歩いてきた道を指差した。


 カズキは首を傾げる。道は消え、自分たちが入ってきた洞窟の入口が静かに口を開けているのだ。


「さて、ここに山の神を奉った祠があるのだが……」


 入り口から丁度正面の壁には、木造の祠が――あった。それは、燃やされたように崩れ落ち、燃やされたばかりなのか未だ炎と煙が燻っている。


「っっ……一体何が! 昨日の夜は何ともなかったぞ!」


「あの炎……」


 微かだが聖獣の力が感じられた。


 何が何だか分からない。聖獣が祠を燃やしたのか。しかしそうする必要性もなく、明確な理由も見当たらない。


 そう考えると一番可能性の高いのは人為的な行為。正直魔族と対峙したくはなかったが、そうも言ってられないようだ。


 カズキは背に括りつけておいた杖を手に取った。武器ではなく、聖獣との接触の為の道具だと言い張って持ち込んだのだ。聖獣のことになると不思議と考えるより先に体が動く。杖の先端で地面に触れて力の源を辿った。


「…………」


 崩れた祠に、聖獣の力と底知れぬ魔力が混ざり合っているのが感じられる。その魔力が聖獣の力を抑制しているようだ。


「誰かいる」


 祠に目を凝らすと、燻っていた炎が黒く色を変えて燃え上がり、炎の中から赤い服を纏った男が現れた。黒い炎に金色の髪が映える。


「オレの姿を見破るとはね。召喚士か」


「あんたは魔族?」


「ああ、名は牙煌(がえん)。聖獣を探しに来たのだろう? 残念だけど、炎の力はオレがいただいているよ。聖獣の力を奪うことがオレに与えられた使命だ」


「どういうことだ? 貴様は何者だ!」


 サキチカがカズキを庇うように二人の間に割って入った。


「さすがは聖獣の力だ。奪っても奪っても力が溢れてくる」


 牙煌(がえん)が喋りながらサキチカに手を翳す。そして表情を何一つ変えずに高熱を発すると、彼の利き腕である右腕と右脚を焼いてしまった。


「みー!」


 反撃しようとしたナシュマも、熱風に煽られて洞窟の外まで吹き飛ばされる。


「うるさい人間。オレは召喚士と話をしているんだ。でしゃばるんじゃあない」


「ぐっ……」


 サキチカが低く呻いて膝を着いた。火傷の範囲は狭いが、赤く爛れ、見ているだけで痛々しい。


「なにか冷やすもの……」


「その程度の火傷ごときでは死なないから放っておきなよ。人間は、ある方の大事な食料だから特定の人間以外は殺さないよ」


「そういえば霙颯(ようぜん)って人も目的の為って……なんなの?」


「ああ、霙颯(ようぜん)様にお会いしてたのか。今、魔族にとって大切な方が死に瀕している。人間の寿命をいただく為に、この世界を掌握するのが我々の目的だ」


「そんなにべらべら喋っちゃって良いの? 霙颯(ようぜん)って人も言えなかったことなのに」


「人間ごときに何ができるわけでもないからね。何かするなら殺すまでだ。もっとも、君は処分しなければならない対象だよ」


 牙煌(がえん)から燃えるように熱い殺気が放たれた。


 戦わねば、殺される――。


 咄嗟にそう思い、カズキは杖の底で地面を叩いた。黄色い光と共に聖獣が召喚される。


「サキチカ、見なかったことにして。でも、ボクはちゃんとサキチカを護るよ。クラウドだったらこうすると思うんだ」


 サキチカが壁に凭れて天井を仰ぎ見た。


「状況が状況だ。術を許可しよう」


「うん」


 カズキは杖を握る手に力を込める。汗がじっとりと出ているのが分かった。一人での戦いは初めてなのだ。緊張する。


「その動かない脚でやる気か召喚士!」


 牙煌(がえん)がカズキに向かって炎を放ってくる。カズキは寸でで聖獣に砂の膜を張らせてどうにか防いだ。


「へぇ、上手い具合に聖獣を操るんだね。でも防ぐだけじゃ何もできないよ」


「…………」


 ――何故、召喚士ではない牙煌(がえん)が聖獣の力を使うことができるのだろう? 何か秘密があるはずだ。それが分かれば……。


 考えろ。


 考えろ。


 牙煌(がえん)からの攻撃を防ぎながらカズキは必死に考えた。


 彼が聖獣と契約しているのであれば、牙煌(がえん)から聖獣の気配が感じられるはず。けれども、聖獣の気配は祠があった壁の向こう側にある。そして牙煌(がえん)は壁の前から一歩も動こうとしない。


「まさか……」


 思い当たったカズキは、試しに聖獣の力で石の粒を作り出すと、牙煌(がえん)へ投げつけた。


「何をしても無駄だよ」


 牙煌(がえん)が飛んでくる石に手を翳す。すると石が手に吸い込まれるように消えた。そして次の瞬間には、炎で焼けた石がカズキへと返される。


 その反撃は防ぎ切れず、カズキの肩に何発か食い込んだ。反動で後ろに傾いた体を、サキチカが左腕で支えてくれた。


「……ぅ」


「大丈夫か? ……一体どういうことだ」


「アイツは力を吸収して自分のものにできるみたいだ。聖獣の力もああやって吸い取ってるんだろうね。だからボクが聖獣と契約しちゃえば、アイツの力を抑えることができる、かな。その為には牙煌(がえん)を壁の前から退かさないと」


「ならば俺に任せろ」


「え……?」


 止める間もなくサキチカが牙煌(がえん)へ駆け出した。脚と腕に傷を負っているとは思えないほど俊敏な動きだ。


 彼の体術は見事なもので、牙煌(がえん)が壁から身を離した。その瞬間、聖獣の力がカズキを呼んだ。


「行け、カズキ!」


 カズキは聖獣に祠の前まで運ばせて壁に手をつける。その体は吸い込まれるようにして壁の中へ消えた。


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