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第29話

 次の日は朝から暑いほどに太陽が出ていた。今日は良い天気になりそうだ。


 街の中心を貫く大通りを抜け、堀にかかる橋を渡ると、白い土壁と五層の天守閣が美しいユーライの城がある。門番にサキチカの名を告げると、すぐに案内人を名乗る老人が現れる。にこやかに微笑んだ彼はカズキを見遣った。


「お元気になられたようで何よりです」


「もしや、あなたは昨日の……」


 ただの案内人にしては隙がない。謎は深まったが、叉胤(ざいん)が答えを出してくれた。彼らは治安維持の為、日々秘密裏に街中を見回っているそうだ。


「弱っている者を助けるのも我らの役目。茶屋の主人から話を聞きました。そちらのお客人には少々効果が出過ぎてしまったようで……驚かせて申し訳ございませぬ」


 クラウドは納得し、腕にいるカズキの頭を引き寄せて撫でる。


「少々驚きましたが、この子を気遣って下さいまして、ありがとうございます」


「……あなたは広い心をお持ちですね。さて、ご案内いたしまする。こちらへ」


 謁見の間に着くと、老人が深々と頭を下げた。


「申し訳ありませんが、部屋へ入る前に武器は全てお預かりいたします。何卒ご理解を」


「どうしてもですか?」


「参ったなー」


 クラウドとライシュルトは目を合わせる。騎士にとって剣は誇りであり、騎士団員以外の者に剣を預けることは禁じられているのだ。


「ん~、じゃあ部屋の入口でなら待たせてもらえる?」


「はい。それでしたら」


「じゃクラウド、オレここで待ってるわ」


「あ、じゃあナシュマもお願い」


「みぎ~!」


 ライシュルトは、叉胤(ざいん)から受け取ったナシュマを他人に見られないように懐に詰め込み、訝しむクラウドに耳打ちする。


「この部屋、強力過ぎる結界が張ってあって些か居心地が悪い。叉胤(ざいん)は何故か平気そうだが、ナシュマは耐えられないだろうから置いて行け」


「そうか。頼む」


 武器を預け、謁見の間に入ると腰を下ろした。


 部屋は大人十人の背丈ほどの広さである。左右の床の間に飾られている花瓶に、淡く白い花が活けられている以外飾り気がない。ユーライの民は簡素を好むようだ。


「ただ今主人が参ります故、しばしお待ちを」


 案内人が席を外し、しばらく経つとサキチカと見知らぬ男が現れる。正面の一段高い床に男が座り、その少し手前にサキチカが座した。


 男は女性かと見紛うほど端正な顔立ちだが、サキチカと同じく眼光鋭い瞳をしていた。紫紺の飾り気のない服を着ているものの、地味に見えないのは背筋が伸び姿勢が良いからだろう。


「俺はユーライの城主ミツチカだ。皆、我が街へ良く参られた」


「お目にかかれまして光栄です」


 クラウドは頭を下げる。この街の長まで出てくるとは、ポントス山へ登るのも簡単にはいかなそうだ。


 ミツチカが叉胤(ざいん)の姿を見つけると、懐かしそうに微笑む。


叉胤(ざいん)、息災であったか。心配をしたぞ」


「ミツチカ……うん、もう大丈夫。黙って出ていってゴメン」


「いや、元気そうで何よりだ。観光でお前達が来たわけではないことはサキチカから聞いているよ」


「本題に入ろうか」


 クラウドたちは居住まいを正した。


「改めてお願い申し上げます。我々は世界の荒廃を止める旅をしております。その鍵となる聖獣がポントス山にあり、この街の荒廃とも関わりがあるやもしれないのです。我々の入山を許可してはいただけませんか?」


「殿」


「うむ。お前達の言い分は分かった。世界の荒廃を止めるということは何とも高尚な目的だ。教会からもピエール殿直々の要請が来ている故、ユーライの民としても協力せねばなるまい」


「では……」


「だが条件がある。サキチカ、説明を」


「はっ。入山許可出来るのは一名のみ。山では防人である俺と常に行動を共にしてもらう。そして武器の持ち込み、術の発動の禁止が条件だ」


 聖獣との契約がある為、カズキが行かなければならないだろうが、魔族がいた場合対処できない。厳しい条件だ、誰しもがそう思った。


「クラウド、カズキ以外の奴が様子を見に行って、その後のことはまた考えようぜ。危険過ぎる」


「うん。僕もそう思うよ」


「…………」


 だがクラウドは首を縦に振らなかった。確かにヨハンたちの意見も一理ある。しかしポントス山には無理を言って入らせてもらうのだ。ピエールからの要請があってもこの条件だ。今回が最大最後の譲歩であろう。無茶なこともしなければならない。


 クラウドはカズキの頭を撫でた。


「カズキ、行けるね?」


「クラウド!」


「俺達の目的はなんだっ」


 ヨハンの言葉を遮るようにクラウドは一喝した。


「カズキが聖獣と契約し、その力を安定させることだろう」


「クラウド……」


 カズキも不安そうにクラウドを見てくる。


「カズキ、不安だろうし怖い気持ちも良く解る。でもこれはお前以外にできないことだ。やってくれるね? カズキならやり遂げられると俺は信じているよ」


 カズキの頭を撫でる自分の手が、微かに震えていた。クラウドとてカズキを行かせることは本望ではないのだ。カズキがそれを感じ取り、心配させまいと笑顔を見せながら頷いた。


「――少し怖いけど、クラウドのお願いなら頑張るよ!」


「話は纏まったようだな」


「ではすぐにカズキには禊ぎをしてもらう。出発は明朝だ」


「カズキをよろしくお願いします」


「任せな」


「行ってくるね、クラウド!」


 カズキとサキチカが席を外し、叉胤(ざいん)を残してクラウドたちも帰路に着く。そして、それぞれが明日のことを思いながら夜が空けた。


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