第27話
そして、街に出ようと宿を出たところでソギが立ち止まり、空を見上げた。
鳥が一羽。
「どうした?」
「僕達を捜してる」
ソギが指笛を吹くと、鳥はクラウドの肩に止まった。
鳥の脚には書簡が付けられ、筒を見る限りどうやら教会からの使者らしい。書簡に目を通せば、聖獣のことで話があるので教会へとのことだった。
聖騎士二人とカズキが教会へ、その他の者は街の探索に回ることにする。
教会へ向かう途中、カズキがポントス山を見上げて呟いた。
「ねぇクラウド。あの山に聖獣がいるの?」
「おそらくね。何か感じるか?」
「ううん、その逆で何も感じないんだ。全く力が感じられないっていうのかな。あの山だけぽっかり空洞になってるみたいな。だから上手く力が流れないのかも」
「ふむ。やはり聖獣の可能性が高いな。このタイミングだ、誰かが聖獣の気配を断っているのだろう」
「だなー。じゃ、とっとと教会行って話聞いてくるか」
教会へ向かう街並みは活気に溢れ、道を挟むように建てられた建物では、軒を連ねてこの地名産の野菜や菓子やらが所狭しと売られている。変わったところはなさそうだが、詳しいことはソギたちに聞けば分かるはずだ。
店も疎らになった頃、爽やかとは言えない風がクラウドたちの前から吹きつけた。その途端、クラウドの背に体を預けていたカズキから力が抜ける。
「カズキっ?」
背後に感じた僅かな気配。
「ライ、屋根の上だ!」
落ちゆくカズキを辛うじて受け止めながら、クラウドは後方の屋根へ視線を向ける。だが姿を捉えられぬほど素早く動いた黒い気配は、ライシュルトが放った風と共に姿を消した。
「ちっ……逃したか」
「カズキ、しっかりしろっ」
数人の街人が騒ぎを聞きつけて集まってくる。事情を話すと茶屋の主人が軒先を貸してくれた。
紅い布が敷かれた椅子にカズキの体を横たわらせる。呼吸はしているので生きてはいるが、目を覚ます兆候は見られなかった。外傷も全くなく、ライシュルトが見た限り術をかけられたようでもない。
店の主人が、焦る二人を宥めるように声をかけてきた。
「安心しなされ。この子寝てるだけだよ」
「どういうことです」
「詳しくは言えんが、奴は敵ではないさね。この子だいぶ疲れが溜まっていたようだから、体力回復薬を入れたんだろう。すぐに目を覚ますだろうから、それまでうちで休んでおゆき」
果たしてこの主人を信用するべきなのか、クラウドは判断に迷う。だがカズキの顔色は良く、脈拍も安定している。確かに眠っているだけなのだろう。
「ご主人、ありがとうございます。んじゃ、クラウド、お前はカズキの傍にいてやれよ。オレが教会へ行ってくる」
「……ああ」
「それと! あんま自分を責めるなよ。カズキは無事だったんだ」
「……すまん」
クラウドは小さく息を吐いて頭を振る。今回は大事に至らなかったものの、あれが敵の攻撃だったらと背筋が凍る思いがしたのだ。
「いつも冷静なお前が、カズキのことになると熱くなったり、落ち込んだり。中々見物だ」
「俺は、心が弱いな。すぐに取り乱す」
ライシュルトがいつもの仕返しとばかりに、カズキの鼻を摘みながら言った。
「クラウド、本気で大切な奴が出来たら大概そんなもんだと思うぜ。オレだって団長があんな目にあったら取り乱すさ」
「ライ……」
「それじゃ行ってくるなー」
背を見せながら手を振るライシュルトに、クラウドは心の中で頭を垂れる。
心情を読み先手を打てるのは、仲間の中でも多分ライシュルトだけだ。ピエールやセディアも、それを見越して旅の仲間に入れたのではないかと思う。彼の他人を見る目は、この先も自分のみならず多くの人を助けてくれるだろう。
無防備に眠り続けるカズキを眺めた。無事で何よりだと心底から思う。
店の主人が菓子と茶をクラウドの横に置いた。
「良かったらお食べ。お代なんていらないよ」
「お心遣い感謝します」
それからどれほど時間が経っただろう。目を擦りながらカズキがむくりと起き上がる。
「んぅー? ぅ?」
「おや、お目覚めのようだね」
「あれ?」
状況把握ができないカズキは、起き上がって周りをきょろきょろと見た。クラウドがいることに安心をし、ほっとした表情の彼をじっと見つめる。
「どうしたの? 変な顔してる」
「カズキ、何ともないのか?」
「え、うん。なんかさっきよりも体が軽いんだ。ボク寝ちゃってたの?」
「兄さん、だから言ったろ。この子寝てるだけだって」
「ええ」
カズキが目覚めてくれたおかげで胸のつかえも取れ、クラウドは口角を上げた。
「嬢ちゃんも団子食うかい」
「じょ、嬢ちゃんっ?」
「諦めろカズキ」
この国の人には、彼がどうにも女に見えるらしく、そのたびにカズキが頬を膨らませながら反論したが、やがて諦めたのだった。




