表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/101

第26話

 そしてディーラたちに別れを告げ、ヨミ村を後にした。数日をかけて街道筋を進んで行けば、やがて霊山とも言われるポントス山が見えてくる。その麓に広がる街がユーライだ。


 セントラルクルスとは建物の造りも、着ている服も違っている。セントラルクルスでは建物が石造りなのに対し、ユーライは木や土壁で建物が形成されている。着ているものもキモノという民族衣装で、これは普段寝る時に着る肌着を豪華にしたような服だった。全ての造りが自然に近い、ソギ好みの街である。


「ねーココくさいよー。腐った卵の臭いがする~」


「この地の温泉の独特な臭いだよ。最初は慣れないかもしれないけどその内慣れるよ。それにねカズキ君……」


 叉胤(ざいん)が、鼻を摘んでいるカズキの耳元で何かを囁いた。その途端にカズキが表情を明るくし、嬉しそうに笑った。


「そんな効能があるなら仕方ないよね。後でいっぱい浸かろうっと。クラウド、早く温泉宿に行こうよ!」


叉胤(ざいん)、何言ったんだ?」


「秘密ー」


 街の探索は後にして、手初めに叉胤(ざいん)が世話になったという宿へ向かった。お礼を改めて言いたいと言った叉胤(ざいん)は、どこか緊張した面持ちで扉を開ける。


 木造の建物の中は柔らかい空気だ。数人の従業員が忙しなく働き、クラウドたちに気づいた恰幅の良い中年の女性が駆け寄ってきた。


「いらっしゃいませー。あれ? お客さん前にも……」


「お世話になりました、叉胤(ざいん)です」


「あー覚えてますよ! 良かった、元気になったようで! 傷が癒えてないのに、急に姿を消したから心配したよ」


 彼女は、からからと笑いながら叉胤(ざいん)の背中を叩いた。


「あの時はありがとうございます」


「礼なんていいんだよ。こうやってまた叉胤(ざいん)ちゃんが元気な顔を見せてくれただけで十分だ。それよりお友達かい? 泊まるなら部屋空いとるから、温泉でも浸かってゆっくりしておいで」


 その後部屋に案内されたのだが、部屋に入る前に靴を脱ぐという行為に、叉胤(ざいん)以外の全員が驚いた。部屋には足の短い机と、それを囲むようにクッションを潰したものが置いてある。どうやらこれが椅子と机の代わりらしい。床に座るという文化を持ち合わせていなかったクラウドたちは、戸惑いながらも腰を落ち着けた。


 宿の女将が小さなコップに湯気の立つ緑色の液体を注ぎ、皆の前に置く。草の匂いがするが、これも伝統的な飲物らしい。


「良く来たねー。叉胤(ざいん)ちゃんのお友達はどこから来たんだい?」


「セントラルクルスとザーニアですよ。女将さん、最近ユーライで変わったことありませんか」


「あらまぁ、随分遠いところから来たねぇ。ああ、最近湯が突然涸れたり、水に変わったりしてるけど、ユーライにゃ山の神様がついてるからね。何かあったら御領主様がきちんと手を打って下さるし、私らあまり気にしてないよ」


「そうですか。よい御領主様ですね」


「ポントス山に並ぶユーライの自慢の一つさね。もし時間があるならお城に行くといいよ。皆に開かれてるから、外せない用事がなければ御領主様も会って下さる。叉胤(ざいん)ちゃん場所分かるね? ――それと叉胤(ざいん)ちゃん、ミツチカ様も叉胤(ざいん)ちゃんのこと気にかけておられたよ。あの方に元気な顔を見せておあげ」


「うん……」


 叉胤(ざいん)が少し気まずそうに頷いた。


「そういやそっちのお嬢ちゃんは細っこいねぇ。ちゃんと食べてんのかい」


「お嬢、ちゃん……?」


 誰のことかと思えば、女将の視線はカズキを捉えている。笑ってはいけないと思いつつも皆肩を震わせた。


「笑うなライシュルトっ。ってクラウドもっ?」


「す、すまんカズキ……」


「ボクは男だよ!」


「あらまぁ、こんなに可愛い男の子がいるなんて! 向こうの大陸は凄いねぇ」


「何が凄いのか分からないよっ」


「ま、夕餉に栄養あるものたんと拵えておくから皆とお食べ。それじゃ、何かあったら遠慮なく言うんだよ」


「聞いてないし……」


 女将が去り、急に部屋が静かになった気がする。


 カズキですらたじろぐ女将の迫力に、誰もついていけなかった。療養中もあの調子だったのだろうから、それに耐えた叉胤(ざいん)は凄いとクラウドは思う。


「嵐のような女性だな」


「そうだね。でも凄く気の利く優しい人なんだ。怪我のせいで高熱出した時も寝ないで看病してくれたんだよ」


「でもお嬢ちゃんは酷いよー」


「上手いと思うけどなー」


 ライシュルトがぽつりと言い、茶を一口飲む。その瞬間眉を寄せた。


「ぅわっ、苦っ!! なんだコレ!」


「罰が当たったんだよーだ」


 そう言いながらカズキも一口飲んで同じく眉を寄せる。


「うぅ……ホントに苦い……。ライシュルトのバカっ」


「なんでっ?」


「僕は美味しいと思うけど」


「そうだな。渋味の中の甘みが美味い」


「香りがいいよなっ」


「皆の味覚がおかしいんだよっ。うーまだ口の中が苦いや」


 どうやらライシュルトとカズキの味覚には合わなかったらしく、二人とも机の上にあった菓子で口直しをした。


「そういえば叉胤(ざいん)、ミツチカって?」


「この街の領主だよ。オレが魔界から追放された時落とされたのが、彼の城の庭だったんだ。相当に驚いたんだろうけど、すぐに手当をして、この宿まで運んでくれた。オレにとっては何にも変えられない命の恩人だよ」


「それが何でまだ黙って出てっちまったんだ?」


「オレがここにいると迷惑がかかると思ったんだ。追放された身だから、もう干渉されないはずだけど、気が弱ってたんだろうね」


「み」


 ヨハンの懐からナシュマが顔を出し、慰めるように叉胤(ざいん)に擦り寄った。


叉胤(ざいん)、明日城に行こう」


「いいの?」


「ああ、女将に言われた時、気まずそうにしていたのは、俺達の旅の進行を気にしたんだろう? 情報も集めなくてはならないし、しばらくはユーライに留まるから気にしなくていいぞ」


「ありがとう、クラウドさん!」


 叉胤(ざいん)が嬉しそうに頷いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ