第25話
「ミサキっ」
咄嗟に空気を読んだディーラが咎めようとしたが、ライシュルトはそれを止め、黙って首を横に振った。
「ライシュルト、だが様子から察するに知られてはいけないことだったのだろう」
「いいんですよ。いつかは分かることですから。ミサキ君は悪くないんで叱らないであげて下さいね」
「ああ、すまない……。俺達は少し席を外そう。その間にソギの治療に当たらせてもらう。体を休ませるなら二階に客間があるからそこを使え」
「ありがとうございます。ソギをお願いします」
「任せろ。必ず治してやるさ」
ディーラがソギを連れて部屋を出ていき、ライシュルトは皆に向き直ると大きく呼吸をする。その間にクラウドが周りに誰もいないことを確認していた。
「ライ、大丈夫だ。気配はない」
「ありがとう。皆、折角の機会だから話しておくけど、オレは人間と魔族との混血なんだ。これは皆の心の中にだけ留めておいてほしい」
「何で?」
カズキが不思議そうに問いかけ、クラウドは膝を着いて手を握った。
「カズキ、教会には色々な考えの者がいるんだ。扉は閉じられているし、実害はないから口には出さないけれど、魔族は人間に害を成す悪だと、そう思っているの者が殆どだよ。教会でもそう説いている。残念なことだけどね。だから魔族の血を引いているなんて言ってしまえば、どんな目に遭うかは想像に難くない」
「ふーん。霧生みたいなヤな奴もいるけど、叉胤みたいにいい人もいるのにね。叉胤は、いっぱい、いっぱいクラウドを助けてくれたからいい人だよ」
「み~」
叉胤の肩に乗っていたナシュマが、カズキの頬に擦り寄る。
「うわっ、何?」
「あーお礼言ってるみたいだな。兄貴、叉胤大好きだから嬉しかったんだと思うぞ」
「分かったから離れてよ。毛がもしゃもしゃして擽ったいよ」
「ははっ。ライシュルト、秘密は必ず守る。安心しろ」
「うん。ザーニアで教会に行く前に話してくれたけど、オレにも分からなかったくらいだ。それに、ちょっと嬉しいな」
「皆、ありがとな。さーて、オレ達も少し休ませてもらおうぜー」
そう言ったライシュルトが、照れ臭そうに笑いながら頬を掻く。ソギが助かる見込みもあってか、この日の夜は皆、深い眠りにつくことができたのだった。
次の朝、誰よりも早く目を覚ましたのはヨハンだった。リビングでは、既に朝食の支度が始められている。
「あ、ヨハンお兄ちゃん、おはよう!」
「おはよう」
「眠れたか?」
「はい、ぐっすりと」
「良かったねヨハンさん」
ミサキと共に皿を運ぶディーラに混じって、誰よりも待ち望んだ姿に気づくまで時間を要した。あまりの自然な姿に理解が出来なかったのだ。
「ソギ……」
「おはよう、ヨハンさん」
変わらぬ身のこなし。変わらぬ姿。変わらぬ笑顔。頭で思うより先に身体が動いていた。ソギを抱きしめ、彼がここにあるという実感を体に刻む。彼の身体は温かく、当たり前だが生きている。
「良かった……ソギ」
「あのね、意識を失っている間もずっとヨハンさんの声が聞こえてたよ。……ありがとう。ヨハンさんのおかげで僕は頑張れたんだ」
「あハグいいなー。パパ、後で僕にもしてー」
「分かったから、俺達は支度をするぞ」
ディーラが少し焦りながらミサキを連れて台所へ姿を消した。
やがて他の者も現れ、ソギの姿に目を奪われた。
「ソギ! 心配したよ」
「もう動いて平気なのか?」
「うん。心配かけてごめんなさい。でももう大丈夫」
「ディーラさん、本当にありがとうございます」
「礼ならミサキに言ってくれ。お前達だから言うが、ソギの呪いを解いたのはミサキの血だ。理由は分からないが、コイツの血は全てを浄化するからな。俺は目覚めた後の手助けをする程度だよ。それを言わないのはライシュルトと同じ理由だ」
「ソギお兄ちゃん元気になって良かったね!」
「ああ、ありがとう。ミサキ君のおかげだよ。ディーラさん、これは我々からの気持ちです。もし受け取れないとおっしゃるのであれば、村の復興資金にして下さい」
クラウドは革袋に入れた金貨を机の上に置いた。一年過ごせるほどの大量の金貨だが、ソギの命に比べたら安いものだ。
「すまんな、村のことまで気にかけてくれて礼を言う」
「あ、そうだ」
カズキはクラウドに耳打ちした。召喚士として何かできないかと考えていたのだ。
「うん、それは良い考えだね」
クラウドも賛成してくれ、彼らは朝食をとって旅の支度を整えると、墓場へ足を運ぶ。
カズキはいつものように聖獣を召喚した。ナルシスでの戦いを境に少し大きくなった聖獣は、墓場の上を旋回するように飛び、やがて墓場の中心の大地へとその身を沈ませた。
次の瞬間、緑が一斉に芽吹き、墓場一帯が色とりどりの花で埋め尽くされる。
「うわぁ、すごい!!」
「これが召喚士の力か。見事なものだな。皆、喜ぶだろう」
「少しでも慰めになってくれれば……」
「ありがとう、カズキお兄ちゃん!」
「……なんか擽ったいな」
「良かったな、カズキ」
「う、うん」
カズキは照れながら笑い、頷いた。




