第24話
カズキの脚やソギのこともあり、港からは貸し馬で行くことにした。借りた馬の世話をすることが条件だが、大陸を移動するには強力な足となる。
休憩を挟みつつ馬を走らせ、四時間ほどでヨミ村の入口が見えて来た。
しかし村は閑散とし、あちこちに壊れた家、焼けた家、そして出来たばかりの墓が目立つ。村というよりも墓場に近い感じだ。狙ったかのように降ってきた雨が、更に鬱蒼とした雰囲気を演出した。
そんな中、五歳くらいの少年が墓の前で膝を抱えて座り込んでいた。
「誰?」
クラウドたちの存在に気づいた少年が、不安げな瞳を投げかけてくる。
「オレが行ってくるわ」
ライシュルトはクラウドに剣を預け、少年の身体にマントを掛けた。横に座り、目線の高さを合わせる。
「驚かせちゃったな。何してるんだ?」
「……ママとお話してたの。あのね、急に騒がしくなってパパとママが隠れてなさいって……そしたらママがいなくなってて、パパがここにママがいるって……。何でママ土の中にいるの?」
少年の手を取って彼の胸に当てる。
「土の中にいる理由、今は意味が分からないかもしれないけど、君の心の中にいるママを忘れないであげるんだよ? そうじゃないとここにいる君のママも、君の心の中にいるママも悲しんでしまうから」
「えっと、良く分からないけど、ママが悲しむのは嫌だな」
少年が小さく頷いた。
「オレはライシュルトだ。君は?」
「ミサキ。お兄ちゃん達は何しにきたの?」
「大切な人の為にお医者さんを捜しに来たんだよ。ここにいるらしいけど、ミサキ君は知ってるかな?」
「お医者さん捜してるの? それなら僕のパパがお医者さんだよ。強くてかっこいくて、皆に頼られてて僕の自慢のパパなんだっ」
「ミサキはパパのことが好きなんだな」
「うん、大好き! ……あ、パパだー!」
遠くから歩いてくる人影に向かって元気良く走ったミサキは、男を伴ってクラウドたちのところへ戻ってくる。
白衣を着込んだ男がミサキを抱き上げ、軽く頭を下げた。
「息子の相手をしてくれていたそうだな、礼を言う」
そう言った男の右目には、できたばかりの傷がある。体は見た目で分かるほど鍛えられ、年若いが威厳のある風格を既に持ち合わせる彼は、ただの医者には見えなかった。
「あのね、ライシュルトお兄ちゃん達、パパを捜してたんだって」
「だろうな。その銀髪の男、呪いをかけられている」
「分かるんですか?」
「ああ。もう陽も暮れるな。宿屋は焼かれたから家へ来るといい。その方がミサキも喜ぶだろうしな」
言葉に甘え男の家に招かれた。夕飯も馳走になり、スープとパンだけという質素なものではあったが、家庭的な優しさが滲み出た味だ。久々にゆっくりと味わうことができた気がする。
「ごちそーさまでした!」
「ミサキ、洗い物頼めるか? 俺はこいつらと話があるから」
「うん、いいよー」
ミサキの姿が台所へ消えるのを見届けて、男が一言断り机の上にあった葉巻に火を点けた。
「紹介がまだだったな。俺はディーラ、この村で医師をしている。お前達のことは知り合いの司祭に聞いているよ。荒廃を救う旅に出ているそうだな。すると脚の動かない少年が召喚士のカズキか。話では歩けないほどではないと聞いていたが」
「色々とありまして……ディーラさん、失礼ですが、この村で何があったのですか?」
「ああ、二日ほど前に賊が村を急襲してな。金品や食い物を奪って行った。その時村人も半数以上殺されたよ。アイツの母親、つまり俺の妻もな。俺の目もその時にやられた。失明しない程度の浅手だったのが不幸中の幸いだな」
思い出して腹が立ったのか、ディーラは舌打ちをして葉巻を揉み消す。
「ここ最近、気候が安定しないから作物がろくに育たない。その分失業する奴も増えるし民の心も荒んでくる。今回もそういう奴らが暴れたんだろう」
「……申し訳ありません」
クラウドとライシュルトは立ち上がって深く頭を下げた。
「あなたの奥様も、そしてこの村も護りきれず、教会に代わりましてお詫び申し上げます」
「顔をあげろ。妻のことは残念だったが、騒ぎがあってすぐに教会の奴らが来てくれなかったら、被害はもっと甚大だったろう。こちらが感謝する謂れはあっても、お前達が謝る謂れはない。気にするな」
「しかし……」
「しかしもかかしもない。お前達にはまだまだやるべきことがあるだろう。荒廃を救うことが俺達への最大の礼だと思ってくれ。さぁこの話は終いだ」
ディーラは二人の肩を軽く叩き、ミサキを呼んだ。膝の上に乗ったミサキが視線を叉胤に向ける。
「叉胤お兄ちゃんは僕とおんなじなの?」
「え?」
「遠くから来た人?」
「……ディーラさん、ミサキ君は」
「お前もそうなのか?」
「はい」
叉胤はミサキの前にしゃがみ、手を重ねて頷いた。
「同じだよ、ミサキ君。君と同じく遠いところから来たんだ」
「叉胤?」
「この子、魔族だよ。純粋なね。オレ達魔族は同族には敏感なんだ」
ミサキが、今度はライシュルトに視線を向ける。
「じゃあ、ライシュルトお兄ちゃんも?」
「え?」
「ライシュルトお兄ちゃんも半分だけ、僕と同じだね!」
そう言ってミサキは無邪気に笑ったが、その場にいた殆どの者が驚きを隠せないでいた。




