第23話
風を受け、船は順風満帆の言葉通り走り続けている。このままならば、明日の昼にはヨミに着けそうだ。
カズキは甲板の木箱に座り、何もない水平線を無気力な瞳で眺めた。時折小さな溜め息が漏れる。
――大丈夫。
あの時そう言って笑ったが、大きな力を行使した代償か、脚が完全に動かなくなっていたのだ。クラウドが献身的に周辺の世話をしてくれるが、それが申し訳なく心苦しい。彼にだけは気苦労をかけたくなかった。
「……ズキ、カズキ」
「えっ?」
名前を呼ばれてふと現実に戻される。目の前にはライシュルトがしゃがんでいた。カズキは眉を寄せてあからさまに不機嫌な顔をする。
「なんだライシュルトか。何か用?」
「クラウドじゃなくて悪かったな。飯だってさー。ここ最近あんまり食ってないだろ。お前の分だけはクラウドが作ってくれたから食えよー」
「……そう」
興味なく視線を外すと頭をぐしゃぐしゃと撫でられた。
「な、何するんだよ!!」
「そうそう、その意気。あのな、クラウドいないから言うけど……笑え。クラウドに心配かけたくないんだろう。 だったら普通に笑ってろ。初めて会った時のお前に戻ったみたいだって心配してたぞ。色々世話焼くのもな、アイツはお前の笑顔が見たいだけなんだと思うぜ」
「…………」
「それとな、これは苦言に聞こえるかもしれねぇけど、世界の荒廃を救うとクラウドやピエール様に約束したんだろ。こんなことで躓いてる場合じゃないぜ。苦しくても前に進まなければならない時もある。勿論、オレ達だって協力するぜ」
「だって。だって、分からないんだよ、どうしていいか! クラウドの生きる世界を護りたい気持ちと、クラウドに心配をかけたくない気持ちと……二つがごちゃごちゃになって分からないんだ!」
「なぁ、カズキ」
ライシュルトがカズキの横に座った。
「カズキ……お前、クラウドのこと好きか?」
「……うん」
「クラウドの悲しい顔とか困った顔見たいと思うか?」
「は?」
「どうだ?」
「見たいわけないよ。クラウドには、いつも笑ってて欲しいんだ」
「一緒だよ、カズキ」
「……ぁ」
「分かったろ? クラウドも同じ気持ちだ。好きな奴に世話を焼きたいのは当たり前な気持ちなんだし、お前が気に悩むことはないんだ。お前はお前の目的にだけ集中すればいい」
カズキは下を向いて肩を震わせて小さく笑った。よりによってライシュルトに諭されるとは思わなかったのだ。それが可笑しくてたまらない。
「おい、カズキ?」
「ボク兄弟いないから分からないけど、ライシュルトってさ、デキの悪い兄貴みたいだ」
「酷っ。デキが悪いはないだろー。まぁいいや。飯食うだろ? クラウドも待ってるから行くぞ」
「早く連れていってよ」
「はいはい」
カズキは食堂で席に着くと、横にいるクラウドの腰に腕を回した。クラウドから漂う優しい香りを胸いっぱいに吸い込む。そして顔を上げて笑った。
「心配かけてゴメン。でも、もう大丈夫。元気出たよ!」
「カズキ……?」
あまりの変わりように、何かしたのかとクラウドはライシュルトを見るが、彼は素知らぬ顔で何を食べようか吟味しているだけだった。
「ライ」
「オレは知らないぞー」
「……ありがとう。カズキ、お前の元気が出て良かった。不都合があったらすぐに言うんだぞ?」
「うん。そうだ、クラウド。ご飯食べたら甲板に出ようよ。今日は暖かいし、風も気持ち良いよ!」
「ライもどうだ?」
「オレは遠慮しておくよ。二人でまったりしてくれ」
カズキからの冷たい視線を感じ、ライシュルトは苦笑しつつ辞退した。




