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第22話

 クラウドとライシュルトは剣を抜いた。夏斐(かい)から僅かな殺気を感じた為だ。


「お前、何が目的だ?」


「仕方ないなぁ。本当は召喚士の足止めだよ。だけどその為に、大好きなワン・アイを殺す羽目になるとは思わなかった。非常に残念だよ」


 夏斐(かい)が視線だけをワン・アイの沈んだ水面へ送った。その瞳から一粒だけ涙が落ちる。彼を好きだと言った気持ちは本物だったようだ。


「この町の現状はお前が一端を握っているんだな?」


「そうだと言ったらボクを倒す? ああ、そうだよね。そもそもお前達のせいでワン・アイを殺してしまったんだ。その罪を、命で贖ってもらおう」


 夏斐(かい)の身から、今度は肌に突き刺さるような殺気が発せられた。全員が武器を構え、カズキが杖の先で地面を叩く。眩しいほどの黄色い光と共に小さな聖獣が召喚された。


「ふん……それが聖獣ね。脆弱だ」


 夏斐(かい)が鼻で笑うと聖獣へ雷をけしかける。カズキが回避させ、聖獣から石の矢を作り出して反撃に転じた。


 矢が夏斐(かい)の腕に突き刺さり、傷からは魔族特有の透明な体液が流れ出た。


「やるね。聖獣との連携が見事だ。だけど、一つ教えてあげるよ召喚士」


 自分の血を舐め取っていた夏斐(かい)が、気づけばカズキの目の前に立っている。


「うわっ……」


「聖獣を操ることに集中しすぎると自分の身を破滅させるよ?」


 パキパキと音を立てながら夏斐(かい)の爪が延び硬化していく。それがカズキへ振り下ろされた。だが二人の間に身を滑り込ませたクラウドによって事なきを得る。


 爪と剣の鍔ぜり合いはクラウドが勝利した。


「カズキには指一本触れさせない」


「さすがは聖騎士様だ。反応が早いね。腹が立つよ……」


 そう言った夏斐(かい)の背から、大きな蝙蝠のような翼が生え出た。顔付きも少年から青年へと変貌し、口の端から牙が覗く。


 彼は翼をはためかせて天井まで飛んだ。


「消えてしまうがいい」


 大気が震えた。大地からも早く低い振動が伝わってくる。このままでは建物が耐えられず倒壊するだろう。


「この屋敷をお前達の墓標にしてやろう」


 夏斐(かい)が腕を天に上げた。耳を劈くような音が轟き、天井の一部に穴が開く。


「今度こそ、永遠にさようなら」


 憐れみの目線を残し、夏斐(かい)は天に吸い込まれるように姿を消していった。


 同時に地下室が炎に包まれる。地上への階段もたちまち炎に飲み込まれてしまった。


「まずいな、クラウド」


「ああ……」


 クラウドとライシュルトは限られた時間の中で脱出路を探す。階段は炎が天井まで及び、地下水脈は逃げ込んでもどこへ出るか、出口があるかも分からない。


「くそっ、焼かれるか潰されるか溺れるか、好きなの選べってか。ふざけんじゃねぇぞ」


「みー……」


 ナシュマが心配そうにヨハンの周りを飛んだ。


「!!」


 それを見たカズキが思い至ったように天井を見上げる。


「ねぇクラウド、後で傷を治してね」


「カズキ?」


「剣を借りるよ!」


 カズキは掌をクラウドの剣で切った。赤い血が床に滴り落ちる。痛みなど感じない。流れ出る血を地面につけた。


「ッ、クラウド、絶対に助けるからね。聖獣、ボクの血を使っていい。だから――」


 黄色く淡い光が聖獣を包む。それが次第に大きくなり、目も開けていられぬほど強い光となった。


「お願い! 助けて!」


 光の衣を纏った聖獣の咆哮が一帯に響き、クラウドたちは光に飲み込まれた。


 その後のことは皆うろ覚えだった。気がつけば全員が倒壊した屋敷の外にいたのだ。皆に大きな怪我はなかったが、カズキが意識を失っていた。


 宿屋に戻り休息を取らせる間、クラウドを残して、ライシュルトたちが呪いを解く方法を探しに行く。


 カズキが目を覚ましたのは陽が傾き始める頃だった。辺りを見渡し、クラウドの姿を見てほっとした顔を見せる。


「クラウド……無事だったんだね、良かった」


「ああ、カズキのおかげで皆無事だよ。ありがとう、カズキ」


「うん」


 クラウドに頭を撫でられカズキが満足そうに微笑んだ。


「ソギは?」


「まだ意識が戻らないけれど、今皆が手を尽くして考えているよ。それと、夏斐(かい)がこの町から去ったのか、海が穏やかになったそうだよ」


 クラウドはカズキの掌に触れて傷を治した。


「痛くないか?」


「うん、もう平気だよ、ありがとう」


「お前はどんどん強くなっていくな」


「まだまだだよ。大きな力を出す為に代償が必要だ。今回も……」


「クラウド、手懸かりがあったぞ!」


 クラウドはカズキの様子がおかしいと思ったが、部屋に戻ってきたライシュルトたちの情報を聞いて、意識がそちらにいってしまった。


「手懸かりが見つかったって?」


「ああ、ユーライに行く途中にヨミって小さな村がある。そこの医者が呪いについて詳しいんだってさ。何か分かるかもしれないし、行ってみようぜ。旅の支度は整えてある。カズキの具合が良ければ明日にでも出発できるぞ」


「ボクの体調は大丈夫だよ」


 そう言ってカズキが笑った。胸に秘めた思いを隠しながら。


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