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第21話

 つめたい。


 くらい。


 ここは、どこだろう?


 目を覚ましたカズキは、辺りを見渡す。周りは暗く、自分の姿を捉えられる程度の明るさだった。気配を探しても冷たい無機質な地面が感じられるだけで、温かな人の気配はない。


「……っっ。どう、しよう」


 脚を動かした途端、痺れるような痛みに顔を歪める。膝を擦り剥き、足首にも違和感があった。落ちた衝撃で脚を痛めてしまったようだ。ただでさえ自由に動かぬ脚を、更に痛めた己に腹が立つ。


 全てを投げ出したい気持ちになったが、カズキは心で懸命に頭を振った。ここで諦めるわけにはいかない。生きなければ。そう、約束したから。


 セディアとの鍛練は主に集中力を養うものだったが、それとは別に『生きる』ことを諦めてはいけないと何度も説かれた。おそらく彼は、自暴自棄となる性格を見抜き、しつこいほどに諭したのだろう。


「生きることに貪欲になれ、だよね。クラウドとも約束したし」


 カズキは短剣で指先を切り、自分の血で地面に陣を描くと聖獣を召喚する。まずは杖を探してもらい、次いで聖獣の力を借りて地面から流れる皆の足音を聞き取った。


 自分から一番近いのはクラウドのようだ。聖獣を飛ばしてクラウドの許へ遣わすと、彼はすぐに来てくれた。


「カズキ! 良かった、怪我はないか?」


「うん、少し脚を痛めちゃったけど大丈夫だよ」


 カズキは杖を頼りに元気に立ち上がってみせる。だが余りの痛みに膝を着いてしまった。


「イタタ……情けないなぁ」


「見せてみろ」


 温かなクラウドの掌が足首に触れる。


「……あれ?」


 ただ、それだけだったのに痛みが消えた。


「どうした?」


「何で?? ……んーまぁいいや」


 難しく考えたところで答えは出ぬ。カズキは礼を言って再び立ち上がった。


「カズキ、痛く、ないのか?」


「うん。何でかな、クラウドが触ってくれたら痛みが消えたんだ。クラウドはボクの身体も心も助けてくれる特効薬だね。ありがとう」


「俺の手がお前の痛みを消したのか……? そうか」


 クラウドが自分の掌を見つめる。僅かに唇を緩めて、優しい顔になっている。


「クラウド? 皆を探して合流しよ」


 カズキは地面に耳を当てて目を閉じる。ライシュルトとヨハン、そして叉胤(ざいん)の足音がまとまって聞こえた。あちらも合流して捜しているようだ。


「ここから二階下に皆がいる。更に下の階に、何だろう、すごく気持ち悪い気配がするよ」


「ここより地下があるとはな。道案内頼めるか」


 クラウドがカズキの手を握り、眉を寄せる。


「カズキ、指先も怪我してないか?」


「あ、うん。聖獣喚ぶのにね。この杖があれば自由に喚び出せるんだけど、喚ぶ時は持ってなかったから」


「やはり不思議な杖だな。お前が霧生(きりゅう)に掠われた時も、居場所をずっと指し示していたんだ。ここも触って治ればいいな」


 そう言って掌で包み込むように指を握ると、やはり傷口が塞がった。


「なおったね」


「……深く考えるのはよそうか」


「うん」


 二人は苦笑し共に歩みを進めた。


 クラウドたちが落とされた地下は意外に広く、皆に合流したのは、それから二十分ほどが経過していた。


 この階は蝋燭の光で明るい。そしてカズキの言っていたように、肌の下を虫が這いずり回るような不快が足元から伝わってきた。階段を探して更に下りると、殊更禍々しい気配が肌に直接感じられる。


 最深部には、燭台に飾られた数百にのぼる蝋燭の炎が揺れ、周りは地下水に囲われている。そしてその奥、霞むように彼の『主』がいた。ビロード地の大きなソファーに身を横たえ、少年のような面持ちの彼は、じっと大きな瞳でクラウドたちを見つめている。


「ようこそ」


 ソファーの後ろからワン・アイが待ち兼ねたように出てきた。


夏斐(かい)、先ほど話した人間だ。町の人間ではないから遠慮はしなくていいのだぞ?」


「食べていいの?」


「勿論。さぁ、主の為そいつを渡してくれぬか」


「……悪いが、断る」


 全員がソギを中心に囲い、庇うような陣形を取る。


 ワン・アイが眉根を寄せた。明らかに不快感が表に出ている。


「俺達は喰わせる為ではなく、ソギを助ける方法を聞きに来たんだ」


「助け――」


「!!」


 彼の言葉はそれ以上続かなかった。ソファーに横たわっている夏斐(かい)が身じろいだ、そう思った時には、ワン・アイの首筋に彼の牙が突き刺さっていたのだ。


「な……」


 血を啜る音が地下を支配する。誰もが見ていることしか出来ず、数分後ワン・アイの身体が地下水の中へと消えた。


「これで助けられないよ。餌にする為に仮死状態にした者を助ける為には、ワン・アイの血が必要だから。でもその為の血はボクが飲み干した」


「貴様……」


 背筋が寒くなるような笑顔で夏斐(かい)が笑った。


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