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第19話

 そして数日後、クラウドたちは定期船に乗る為に、港町ナルシスへ向った。だが定期船は港に停泊しているものの、運航している様子がない。それどころか港に人影すらなかった。


 事情を聞く為教会へ足を運ぶが、教会があったであろうその場所には、見るも無惨に焼け焦げた柱だけが残されている。


 叉胤(ざいん)いわく付近に魔力の残滓があり、おそらく結界を張った後なのだろうとの見立てだった。しかも、中に閉じ込め外へ出さない為の結界。ただの火事ではないのは明らかだ。


「なんだよ、コレ」


「誰がこんな……」


 クラウドとライシュルトは、腹の底から込み上げてくる怒りを抑える為に拳を握った。やり場のない感情が全身を蝕む。


 息を大きく吸い込んだ叉胤(ざいん)が言葉を零した。


「人の焼けた臭いがする。言いにくいけど生き残りはいないだろうね」


「……そうか」


「ねぇクラウド……」


 カズキが呼びかけ、背伸びをして小さな手でクラウドの頭を撫でた。


「どうした?」


「クラウド、ボクに言ってくれたよね。楽しい時は笑って、悲しい時は泣けばいいって……あの、だから、無理、しないでね」


「カズキ……ありがとう」


 その後、町の様子を見つつ、彼らは宿に腰を落ち着けた。


「どいつもこいつもシケた面してやがるな。港町だからもっと活気があるものかと思ってたぜ」


「オレが前に来た時はもっと活気があったんだけどなぁ」


「それに港があるのに動物がいないんだこの町。海鳥すら飛んでない。教会のことといい、何か事情がありそうだね」


 窓を開けて皆一様に空を眺める。細い月が空に浮かんでいた。新月が近い。


「ねぇクラウド、あれ何?」


 カズキが指差した先、崖の上には大きな館が見える。


「あれは領主の館さ」


 丁度食事を運んで来た宿屋の主人が、皿を置きながら言った。その表情は暗く陰欝だ。


「旅の人、あそこには近づいちゃあならない。魔物に食われちまうよ」


「魔物?」


「ああ二ヶ月ほど前、あの館に魔物が住み着いてな。それ以来海が不定期に荒れるもんだから、船が出せやしない。そして領主も領主だ。町を守る為だと新月のたび町の女を差し出すなど! 確かに町は無事だが……しかし。すまん、あんた達には関係のない話だったな、忘れてくれ」


「そんなことが……。ご主人、もう一つ教えていただきたい。この町に教会の者が派遣されているはずですが、一向に連絡が取れません。教会は焼けていますし、彼らについて何かご存知ありませんか?」


「……っっ、その剣……あんたたち聖騎士か。すまない、俺達のせいで!」


 眉間を寄せ、悲しみに満ちた彼の表情から読み取れることは少なくない。おそらく魔物に差し出す娘を拒み、見せしめとして教会を潰滅させられたのだろう。連絡がないわけだ。こちらからの使者の行方が途切れることには腑に落ちぬが。


 主人が頭を下げて部屋を出て行く。


「当然、敵を取りに行くんだろ」


 ヨハンが親指で高台を示した。だがクラウドは首を横に振る。


「俺達騎士には『私怨私欲で剣を抜くことなかれ。復讐の連鎖は自ら断ち切り、己も切り捨てよ』とある。騎士団の規律の中で、もっとも重要であり最優先すべき事だ」


「何があっても復讐心だけには支配されるなってな。悔しいは悔しいけれど、それで剣を抜くことは許されない」


「だからってよー」


「いいんだ。後はピエール様に報告するだけだよ」


 ライシュルトが両腕を上げて体を伸ばす。


「ん~。さて、と。クラウド、オレ主人の様子見てくるわ。もう少し情報も欲しいし」


「ああ、頼む」


「み」


「ナシュマも一緒に行くか?」


「僕も行くよ」


 ライシュルトたちが出て行き、しばらくすると急に外が騒がしくなった。


 窓辺に近づけば百はいるであろう蝙蝠の群。道行く人々へ威嚇をするように飛び、その後ろからは黒い服に身を包んだ男が悠然と歩いてくる。


「あ……」


 叉胤(ざいん)が何かを見つけて目を凝らした。何も見えぬが、魔族は人間よりも視力が良いようだ。


「あの男、元は人間だったみたい。首に吸血痕がある。新月が近いし、死の口づけをしに来たんだろう」


「なんだそれ?」


「餌とし得る人間の身体に噛みついて印を付けるんだ。新月の朝、その身体は仮死状態となり、逃げることは叶わない」


 男が宿屋の前で止まるとクラウドたちを見上げてきた。


 新月が近く辺りが薄暗いにも関わらず、髪に隠された男の右目が青白く光る。


「不気味な奴だな」


「あれは魔族が食糧調達をさせる下僕に与える瞳だよ。あれで人間を物色するんだ。その魔族にとって必要なものが見える」


 男が宿屋に入ったのを見届け、クラウドたちはライシュルトからの情報を待った。だが彼らに誤算があった。少し、他人事のように思っていたのかもしれない。


 供物に選ばれるのは女性のみ――そう思い込んでいたのだ。蒼白な顔をしたソギを抱えてライシュルトが戻ってきたのは、男が宿屋に入ってすぐのことだった。


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