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第1話

 セントラルクルス大聖堂の一角に騎士団の宿舎がある。昼食時の話題の種は、今朝かかった招集の会議内容についてだ。皆色々な憶測を言い合いながら楽しんでいた。


「なー会議って何の会議だろうな。珍しく全階級の代表が集められたらしいぜ」


「へぇ、珍しいな。三十年前の(いつき)様着任以来じゃないか? 誰かの退任か昇任か、そんなところか。おい、クラウドお前どう思う?」


 聖騎士の一人が、窓辺に立って鍛練場を眺めていた金髪の青年に声をかける。首の後ろに手を当てた彼は、少し考えてから静かに答えた。


「そうだな……ここ最近風が変わったから、そのことについて、かな」


「あー世界が荒廃に向かってるってやつかー。実際コル湖の水が干上がったって噂だぜ。それに今回の招集はピエール様直々だからな。何か夢見があったのか?」


「今は会議の報告待ちだな。……?」


 ちりん――とクラウドの耳に鈴の音が聞こえた。


「またか……」


「どした? また何か聞こえたのか?」


「あぁ。疲れてるのか、俺」


 クラウドは小さく笑う。一ヶ月ほど前から、自分にだけ鈴の音が聞こえるのだ。不思議な、何かを語りかけてくるような音だった。


「まぁ、そう気にしない方がイイさ。折角明日も非番だし、今日の会議報告終わったら、久々に街で飲もうぜ」


「いいね。私も連れて行ってくれよ、ライシュルト」


「ぉわっ、団長!?」


 ライシュルトと呼ばれた青年は、驚いたのか椅子から落ちる。クラウドは気遣いながらも、聖騎士団長に問いかけた。


「会議は終了したのですか?」


「いや、もう少し時間がかかるな。ピエール殿が夢見に入られたので今は各自休憩だ」


「この時分に夢見とは。何か重要なことがあったのですね」


「ああ。世界が荒廃しているという噂は、お前達も聞いているだろう。それを再興に導く者がこの騎士団にいる、と予見されてな。誰だかは断定できないそうだが、少しでも情報を得る為、夢見に入っておられる」


「そうですか。ところでライ、大丈夫か?」


 ライシュルトが腰を摩りながら答えた。頷きに合わせて茶色い髪がふわりと揺れる。


「おう、とりあえずは~。しかしオレ達の中にそんな奴がいるとはねー。選ばれた者って意外にクラウドだったりして。ほら、オレ達に聞こえない何かが聞こえたりするだろ。何か運命的なものがあるのかなーなんて」


「クラウド、何かあったのか?」


「いえ、たいしたことでは。俺だけに鈴の音が聞こえることがあるのです。いつも聞こえるわけではないのに、不思議と心に残ります」


「お前だけに聞こえる鈴の音か……ふむ、心に留めておこう。あぁ、そうだお前達、すまないが、非番の団員を鍛練場へ集めてくれ。会議報告もあるが、ピエール殿が今いる団員だけでも見定めたいそうだ」


「諒解いたしました」


「オレ、団長の命令だったら何だってやりますよ~っ」


 そして皆が鍛練場へ集まったのは、陽が沈みかけた黄昏時である。壇上に聖騎士団長とピエールが上がり、その下には大司聖が続く。


「皆、忙しい中よく集まってくれた。今日の会議は、世界中で起きている自然荒廃の対応についてだ。騎士団は……」


 良く通る声で聖騎士団長が話をする中、再びクラウドの耳に鈴の音が聞こえてくる。


 ……――て。


「?」


 たす……け…て。


(――助けて? 何をすればいい? お前は、どこにいるんだ?)


 ちりん――と鳴ると、鈴の音は聞こえなくなった。


 クラウドは視線を感じ、ピエールを見る。彼は、こちらをじっと凝視していた。そして聖騎士団長が話を終えたと同時に耳打ちする。


「やはりそうですか。ではそのように。聖騎士クラウド=ネオバルディア、及び聖騎士ライシュルト=クレイマー、お前達はこの後ピエール殿のところへ行け。以上、解散!」


「へ? オレも~?」


「ライ、今日は飲みに行けなくなったな」


 二人は聖騎士団長と共にピエールの私室へ通された。


「お座りなさい。ここに呼ばれた大方の予想はついていると思います。単刀直入に申し上げます。クラウド、荒廃の原因追求及び、世界再興の旅に出ていただけませんか」


「夢見に何が見えたのですか?」


「太陽と月の紋章剣を所持した青年が、闇に立ち向かう姿が見えました。彼を取り巻く一人から澄んだ鈴の音が」


 クラウドは思わず立ち上がる。ピエールに理由を問われ、鈴の音のこと、そして助けを求める声が聞こえたことを話した。


「話は聖騎士団長に聞かせていただきました。それであなたを選んだのですよ。あなたが聞いた鈴の音の主が夢見と関わる者ならば、ゆっくりとしていられませんね。明日にでも出発できますか」


「はっ。身命を賭して使命を全ういたします」


 クラウドは姿勢を正し、深く頭を下げる。第二位階から直命を受けるなど、そうあることではない。ありがたいと思うと同時に、気が引き締まる。気になっていた鈴の音の意味も分かるのだ。断る理由は何一つなかった。


「ありがとうございます。そして教会側から、クラウドを補佐する人物を一人選びました。ライシュルトやってくれますね?」


「は、はい! 私でよければ!」


 そう言ってライシュルトも姿勢を正した。


「いいお返事感謝します。ではお話はこれで終わりです。急な決定ですが、今日はゆっくり身体を休めて下さい」


「はい。では失礼いたします」


 二人が去った後、聖騎士団長が頭を下げる。ピエールが優しく声をかけた。


「これで良かったのですね?」


「はい。ご助力感謝に絶えません。このままライシュルトが騎士団にいれば……」


「聖騎士団長――いえ、セディア。これは友人としての言葉です。私の夢見とて絶対ではありません。運命を変えるのは自分自身ですよ」


 セディアはもう一度頭を下げ、その場を後にした。


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