第18話
クラウドは昼食を終えた後、ライシュルトの様子を窺いにセディアの部屋を訪れた。中へ入ると、ベッドに横にならず、セディアの肩に寄りかかりながらライシュルトが眠っている。安心しきったような寝顔でこちらまで癒された。
「どうですか?」
「先ほど眠ったところだ。大分無理をしたようだが三日も休めば大丈夫だろう。急ぐ旅だろうが出発はしばらく待ってもらえるか」
「勿論です」
セディアがライシュルトを起こさぬようベッドへ寝かせ、剣を手に取った。
「クラウド、久々に手合わせしないか? お前の腕を見てみたい」
「はぁ」
「気のない返事だな。ああ、ライシュルトなら大丈夫だぞ。こういう寝顔の時は熟睡しているからな。しばらくは何をしても起きない」
「ふふっ、そういうことでしたら……こちらこそ、よろしくお願い致します」
「うむ」
そして教会の裏手にある鍛練場で剣を合わせたが、やはり、強い。一太刀が重く気を抜いたらまともに食らってしまいそうだ。
しばらくの間は辛うじて切り結んでいたが、柄を握り直そうとした一瞬の隙を突かれ、剣を後方に飛ばされてしまった。首筋に刃先が突きつけられる。
「お見事です」
クラウドが降参の意を伝えようと両手を上げた。
次の瞬間、セディアの足元から数本の先の尖った岩が突出してくる。岩は彼だけを狙っているようで、セディアは身を翻し避けるが頬と腕を掠めてしまう。
「団長!!」
「騒ぐな、大事ない」
「クラウドに何するんだよ!!」
そう叫んだのは目に涙を溜めたカズキ。クラウドの危機と勘違いをして攻撃したようだ。カズキの傍には両手で抱えられるほどの、竜に似た生き物がいた。その脚には彼と同じ痣がある。これが聖獣なのだろう。
「クラウド大丈夫? 怪我とかしてない?」
「ああ。カズキ、助けてくれようとしたのは有り難いんだが……状況を見なさい」
「え? 危なかったんじゃないの?」
「真剣を使ってはいたが寸止めだから大丈夫だよ」
「え、あ……そうなんだ……団長さん、ごめんなさい」
カズキはセディアの前で頭を下げる。怒られると思ったが、彼は宥めるように頭を撫でてきた。
「クラウドを護ろうと必死だったんだな。君は優しい子だね。……クラウドどうだろう? お前達が出発するまでの間、この子を私に預けてくれないか?」
「は?」
「カズキ君、クラウドを護れるようになりたいだろう?」
「うん! ボクはその為だったら何だってするよ」
セディアは、意味が汲み取れず眉を寄せたクラウドの横に立ち、声を殺して呟いた。
「このままで良いと思うな。力の使い方を間違えて傷つくのはカズキだぞ。気持ちだけではどうにもならん。これはピエール殿の意向でもある」
「…………」
確かにこのままでは気持ちばかりが焦って、取り返しのつかない過ちを犯してしまうかもしれない。聖獣という大きな力を手に入れたならば尚更だ。ここはセディアに全てを任せるのが得策だろう。
「私に任せろ。悪いようにはせんよ」
「はい。カズキ、団長は厳しいが、間違ったことは絶対に言わない方だ。彼を信じて頑張りなさい」
「うん!」
「ああクラウド、この後予定がなければ、ソギ君を連れてピエール殿のところへ行けるか。二人に話があるそうだ」
「はっ、諒解いたしました」
二人を見送った後、すぐにソギと合流してピエールの許へ向かうと、彼は部屋から東の空を眺めていた。個別に話とはいかなる用件なのか。ソギは少し緊張しているようだ。
「ああ、来てくれましたか。早速なのですが、ユーライへ行く途中、港町ナルシスの様子を見てきていただけませんか?」
「えぇ、あそこからは東の大陸へ行く定期船が出ていますから、問題ございません。何かあったのですか?」
「おそらく。あの町の教会から定期報告がこの二ヶ月ほど滞っておりまして……こちらから使節や鳥を飛ばしても帰って来ないのです」
「かしこまりました。到着し次第すぐに調べ、ご報告いたします」
「ありがとうございます。そしてソギ、あなたを呼んだのは他でもなくお願いがあるのです。教会との繋ぎ役として、鳥や動物に協力を仰げないでしょうか。お恥ずかしい話、今回のことで伝書役が足りなくなってしまいまして……」
「えっと……できるかどうかはあの子達次第なんですけど、お願いしてみますね」
中庭に降り立ったソギが鳥を呼び集める姿は、ピエールに感銘を与えたようだ。彼は目を細めて楽しそうに眺めていた。
「彼は素敵な能力を持っていますね」
「私も初めて見た時は驚きました。彼には幾度となく助けられています。ソギがいなければ旅の道行は困難となるでしょう」
「あなたは良い仲間を見つけましたね」
「はい」
話が終わったのか、鳥が一斉に飛び立った。ソギは鳥に手を振り終えると、首から下げていた小さな笛をピエールに手渡す。
「これは?」
「鳥寄せの笛です。その笛で呼んだ時は協力をしてくれるそうですよ」
「有り難くお借りしますが、あなたは大丈夫なのですか?」
「はい、僕は指笛でも呼べますから」
「重ね重ねお礼を言いますよ、ソギ。あなたに祝福を」
ピエールは片膝を着いてソギの手の甲に唇を当てた。




