第17話
「おそらく、魔族によって聖獣の力の干渉が妨げられている故、自然が荒廃していったと思われます。――以上が旅の報告です」
「ふむ、おおよそのことは理解しました。召喚士と聖獣の話などお伽話かと思っていましたが、そうではないのですねぇ。そしてカズキ君、その召喚士の末裔があなただったとは驚きましたよ」
「うん。まだ見習いみたいなものだけどね」
「具体的にはどのように荒廃を食い止められるのでしょう?」
「えっと……聖獣の力をボクが仲介して枯れた湖に水を与えたり、淀んだ風を戻したり、かな。それには各聖獣の力が必要なんだけど。今のボクは、大地の力を少し扱えるだけだよ」
「水を注すようだが、全ての聖獣を解放すりゃ自然は元に戻るんだろ。それに解放しなければ、召喚士がいかに荒廃を食い止めたって繰り返しじゃねぇか」
ジュリアスがテーブルに肘をつきながら言う。品性の欠片も見えないが、不快感を与えないのが不思議だ。
カズキの代わりに叉胤が口を開いた。
「確かに聖獣を解放して均衡を保てない限り、付け焼き刃に成り兼ねない。しかしやらなければ荒廃する一方だし、均衡を取り戻したとしても、荒廃した自然が自力で元に戻るには、気が遠くなるほどの年月が必要だ。そして今回のように封じられた聖獣の力を解放できるのは召喚士だけだよ」
「はんっ、なるほどね。ご苦労なことだ」
ジュリアスが肩を竦めて天井を仰ぎ見る。
「理解しましたかバカ息子。さてこれからクラウド達が向かうべき道は、ジュリアスに示してもらいましょう。この子は無駄に世界を旅していますので、中々有益な情報を持っているのですよ」
「バカと無駄は余計だクソ親父。まぁ良い。クラウド、昨日の続きといこう。地図を出せ」
長テーブルの中央に地図を広げると、ジュリアスが羽ペンで印をつけた。
温泉地と雄々しい火山で名高いユーライ。
鏡のごとく美しい海面を持つ銀の海。
「俺の見解だが、お前らの話を聞いて、聖獣のいそうな場所に当たりをつけた。ユーライのポントス火山は、炎の神が住むと昔からユーライの民の信仰対象だ。現在も人の立ち入りを禁じている。銀の海だが、こっちは全て凍っちまったって噂だぜ。海がだ。おそらく荒廃してるだけじゃねぇ、他者の力の介入が考えられる。あくまで噂だが、火のないところに煙は立たないってね」
「なるほど。叉胤、聖獣の力は六種類と言っていたな」
「ああ、『地水火風』の四属性に、セントラルクルス教会の紋章でもある『太陽と月』で六種類だよ。そこには火と水の聖獣がいそうだな」
「教会と召喚士に関わりがあったのでしょうかねぇ。こちらも調べてみることにしましょう」
「助かります」
「では出発は、二、三日体を休めてからになさい。そのまま旅に出れば足手纏いにしかなりませんよ。ねぇライシュルト」
「……ライ?」
ライシュルトは、聖獣の居場所などを書き綴っていた本を静かに閉じて、ペンを置いた。
「あなたに隠し事はできませんね」
「聖騎士団長、私の護衛はジュリアスにやらせますから、ライシュルトを部屋で休ませてあげなさい。後ほど食事も運ばせます」
彼は頷き、鎧を着たライシュルトを軽々と抱き上げる。
「逞しいー」
「団長っ、歩けますからっ」
「無理をするな。これ以上皆に心配をかけるんじゃない」
「……ごめんなさい」
「ではピエール殿、我々は失礼を」
「はい、ゆっくりなさいね」
二人が去り、カズキがクラウドにそっと問うた。
「アイツどうしたの?」
「使い過ぎた魔力がまだ戻ってなかったようだな。魔力が空になると、しばらく術の行使ができないんだ。術者には間々あることだよ」
「そっか……」
カズキは瞳を伏せる。
迷いの杜での魔術防壁とクラウドの治療。どちらも自分が原因だ。少しだけ、申し訳ない気がした。
「カズキ、気にするな。しばらく休めば大丈夫だから」
「うん。これからはボクも頑張って、クラウドの役に立つからね!」
「期待しているよ」
「んふふ、頼もしい子ですねぇ。さぁ食事の支度もできる頃です。何品か私が作ったので、どうぞご賞味下さいね」
「わーい! お腹ペコペコだよー」
「喜んで食べてくれる方がいると嬉しいですねぇ」
ピエールが髭をひと撫でし、昔を懐かしむように目を細めた。




