第16話
そして、たまたま一緒になったライシュルトとセディアを加え、皆で酒を酌み交わす。彼らもクラウドの少し後、店に来ていたらしい。
「っで、ヨハンとソギ、どっちが武術大会で優勝したんだ? 意外性をついてソギかー?」
「僕には無理だよー」
ソギが苦笑し、グラスに残った酒を一気に呷った。
「じゃあヨハン? やっぱりあの剣術はハッタリじゃないわけだ」
「伊達に傭兵業熟してねぇさ」
「ほぉ、ザーニアの武術大会のレベルは高いと聞く。その中での優勝とはたいしたものだな」
「聖騎士団長に褒められるとは恐縮だ。しかし毎年苦労させられるのがいてなー。今日は来てるかな?」
ヨハンは辺りを見渡し、一人の男を目に止めて名を呼びかける。
「ジュリアス!」
カウンターで一人酒を飲んでいた男が振り向き、近づいて来た。体躯逞しく、その雰囲気は若々しいが誰かに似ている。
一瞬セディアが眉を寄せた。
「ヨハン、帰ってきてたのか。見慣れた顔もあるが……また今日は綺麗どころな取り巻きだな。特にこちらの美人は俺好みだ」
ジュリアスがにやりと笑い、ソギの頤に指をかけて一瞬にして唇を奪った。
「ふん、まぁまぁだ。開発し甲斐がある」
「…………」
「ジュリアス、お前なぁ」
状況把握をした瞬間、ソギが酒を注いで再び一気に呷り、怒りを込めた長い息を吐く。
「大丈夫か? まぁ、変な奴だが武術大会での俺のライバルだ」
「あ! 誰に似てるか分かった!」
「あ?」
カズキが一人納得したように頷く。
「誰かと似てるなーと思ってたんだ。この軽さ、教会にいた髭のオジサンと同じだねー。ピエールさんだっけ?」
「おっ、お前も親父の知り合いか?」
「……オヤ」
「ジ?」
クラウドとライシュルトは我が耳を疑い、セディアが溜め息を吐いた。
ジュリアスが我が物顔でカズキの隣に座る。
「酒臭い、あっち行け」
「相変わらず可愛いげないな、お前」
「あんたに可愛いと思われたって嬉しくないよ」
「はいはい」
軽い返事で肩を竦め、懲りずにカズキの腰に手を回して引き寄せた。
「だ、だ、団長?」
「ジュリアス=スターク。正真正銘ピエール殿の御子息だ」
「はー、あの人自由そうだから、てっきり独り身かと思ってたよー」
「驚いたな……」
晴天の霹靂。驚きを隠せないまま、クラウドは思わずまじまじと見てしまった。
「俺の存在知ってるのは極僅かな奴だけだからな。まぁ普通に接してくれ。ところでヨハン、敵は見つかったのか?」
「いや、だが大きな手懸かりが見つかった。それで今はコイツらと旅をしている途中だよ。お前はどうしてたんだ?」
「大会も終わったからな、ユーライの温泉で骨休めをしていたさ。だが、あそこも様子が最近おかしいらしい。昨日まで温かかった温泉が一夜にして水になったり、な」
ジュリアスが酒を一口飲むと、クラウドに視線を合わせて口角を上げる。何か含みのある言い方だ。
「クラウド」
「ああ、可能性はあるな。ジュリアス、詳しく教えてくれないか?」
「ま、詳しいことは明日ってことで。俺も親父に呼ばれてるからよ」
じゃあな、そう言いながら片腕を上げてジュリアスが去った。
そしてそれぞれの思いを秘めたまま翌日教会へ向かう。教会の前で足を止めてしまったのは叉胤だ。下を向き耐えるように拳を握る。
「……オレやっぱり入れないよ。それに会う人って第二位階の人だよね」
「み」
「魔族とか人間だとかこの際関係ないと思うぞ? クラウドの仲間として行くんだし」
「……叉胤、ちょっといいか?」
「おい、ライ!」
「いいんだ」
ライシュルトが叉胤を呼び皆から距離をおいた。何かを真剣に話しているが会話までは聞き取れない。クラウドだけが切なそうにライシュルトを見つめていた。
「どうしたのクラウド?」
「あ……いや。気にしないでくれ」
すぐに二人が戻り、叉胤は教会へ行く意志を固めたようだ。ライシュルトは話をしていた時の真剣さはどこへやら、といった様子で飄々としている。
「行こうぜ。早くしないとピエール様をお待たせしちまう」
教会に入るとセディアに会議室へと案内された。中には既にピエールとジュリアスが席に着いている。
長テーブルの端に座るピエールの前まで進むと、クラウドとライシュルトは片膝を着いた。
「遅くなりまして申し訳ございません」
「やっと来たかお前ら」
「おや、既に顔見知っていましたか。ではこちらからの紹介は必要ありませんね」
「昨日会ったんだ。ああ、適当に座れよ。銀髪美人は俺の隣なー」
ジュリアスがわざわざ椅子を引き寄せる。
「……ヨハンさん、次の大会でコイツ瞬殺して。すっごく腹立つ」
思い切り不機嫌そうにソギが言った。ヨハンは苦笑しジュリアスとソギを隔てるように座る。
「ヨハン、貴様」
「悪いなジュリアス」
「ああ、バカ息子が既にご迷惑をかけたようで申し訳ありません。あなたお名前は?」
「あ……ソギと申します。ご縁がありまして、クラウドさん達と旅をさせていただいております」
「そうですか」
ピエールが立ち上がり握手を求めてきた。ソギは両手で返す。それは優しい手だった。温かく安心する。
「これからもクラウド達をよろしくお願いしますね、ソギ」
「は、はい」
ピエールは目を細めて微笑むと、視線をヨハンへずらした。
「あなたは?」
「ヨハンです。この街で傭兵を。今はそちらにいる叉胤の護衛をしております」
「ふむ……」
髭を撫で、鋭く叉胤を見つめる。
「あなた、魔族ですね。職業柄魔族の匂いには敏感でしてね。……聖騎士団長、辺りの人払いをお願いします」
それが済むと、ピエールは気配を柔らかく変えて叉胤の傍に歩み寄った。
「ご安心なさい。あなたが魔族であろうと気にしません。ここだけの話、歴代の第一位階も皆魔族との混血です。第三位階以上の者しか知らないことですが。彼らは皮肉なことに自分の故郷を封じているのですよ」
「やはり……事実でしたか」
「知っていましたか」
「ピエール様、ご報告を。俄かには信じられぬと思いますが、これは全て我々が見聞きしました事実でございます」
クラウドは、ライシュルトの書いた本を合わせて旅の詳細を話す。
世界の荒廃状況。聖獣と召喚士。そして魔族の侵略。
ピエールは席に戻り、静かに耳を傾けた。




