第15話
そしてカズキが目を覚ますのを待って、セントラルクルスへ出発した。
途中ザーニアで一度宿をとり、クラウドとライシュルトは小さな教会へ足を運ぶ。予めピエールのいるセントラルクルス教会の総本山へ、大まかな真相を伝える為だ。
用事が済んだ頃には陽がすっかりと沈み、頭上には満月が街を優しく照らしていた。
教会を出ようと廊下を歩けば、広い部屋の中で一人鍛練に励む男の姿が目に入る。それにいち早く気づいたのはライシュルトだ。
「おぁー! 団長ーっ!」
「ライシュルトっ?」
セディアが驚いたような、それでいて嬉しそうな表情で二人を見てきた。
「お久しぶりです。団長は何故こちらに?」
「ピエール殿の護衛でな。今回に限って、急にザーニアへ絶対に行くと言い張られたかと思えば。ふふ……人が悪いな、あの方は。まさかお前達がいるとは思わなんだ」
ライシュルトとクラウドは、互いに頷き合った。
「団長、オレ達ピエール様に旅の報告をと、セントラルクルスに戻る途中だったんです。お目通り願えませんか?」
「ふむ。だが今日はもう遅い。お前達のことは伝えておくから、また明日来なさい。それと……あの子供は何だ、知り合いか?」
顎で示された窓の外にはカズキの姿があった。隠れているつもりだろうが頭も杖も丸見えだ。
「物凄くオレに対して殺気を感じるんだが……。まぁアイツが宿で寝ちまった隙に出てきたし、この街でお前と離れるのは嫌なんだろうな。クラウド、行ってやれよ」
「すまんなライ。では団長、失礼いたします」
クラウドは頭を下げて教会を後にした。
外からカズキがいた窓辺に行くと、彼はいまだに教会内を窺っている。クラウドの姿が見えなくなったのが不安なのか、背伸びをしたり周りをキョロキョロと見渡たしたり。
そして、その横には初老の髭の男。まさかとも思ったが見間違いではなさそうだ。
「ピエール、様??」
「おや」
「あ、クラウド! このオジサン何なの? 急に話しかけられたんだけど」
「オジ……申し訳ございませんっピエール様!! ……カズキあのな、この方は教会の頂点に立つお方だぞ」
「えー。こんなオジサンがそうなの? 全然偉そうじゃないねー。偉そうなのは髭だけだね」
「カズキっ」
髭を撫でながら可笑しそうにピエールが笑う。
「んふふ、元気で結構。教会の者以外にとっては、私もタダの中年ジジイです。それに男の子は、ちょっと口が悪いくらいが可愛いですよ」
「何ソレ、口説いてんの?」
「か、カズ……」
もはや止めても無駄か。
「そうですねぇ。こんな可愛い子を口説けるとは嬉しいのですが……生憎と間に合っておりますので」
手を胸に、背筋も折らず会釈をする姿は何とも紳士的だ。
「クラウド、話は明日聞きますよ。そうですね、お昼を一緒に食べましょう。この子を含めたあなたの仲間も連れていらっしゃい」
「ご存知でしたか」
「どんな方かは分かりませんがね。あなた方が来ると夢見がありましたので、聖騎士団長にも無理を言ってここに来ちゃいました。他にも少々用事がありましたし。んふふ~、ではまた明日会いましょうねカズキ君」
ピエールがカズキの頬に軽く口づけ、一礼をして去っていった。カズキは頬を押さえて呆然としている。
「……な、何なのあの人。教会の偉い人が、あんなに軽いオジサンで大丈夫なの?」
「はは、それは大丈夫だよ。かなりのやり手だからな。あの方が第二位階に着任されてから、教会の雰囲気も随分と良い方向へ変わったそうだよ」
「ふぅん、見かけによらないんだねー」
「さて行こうか。置いていってすまなかったな」
「いーよ、来てくれたから」
小さく頬を膨らませつつもカズキが笑う。そして夕飯に付き合って欲しいとの申し出に、クラウドは快諾した。
カズキに案内された店の奥では、誰かを囲んで人だかりができている。戦士風な男から水商売の女、それこそ街娘まで多種多様だ。時折女から黄色い声が上がるところを見ると、中心人物は男なのだろう。
「賑やかだな」
「今年の武術大会の優勝者が来てるらしいよ」
カズキはそんな様子を気にする事なく、メニュー選びに夢中だ。だが次の瞬間、弾かれたようにクラウドを見た。
「どうした?」
「クラウド、叉胤見かけなかった? 教会に行く途中までは一緒だったんだけど、満月がどうのって、いなくなっちゃったんだよね」
「み!」
「ナシュマ!?」
どこからか勢い良く飛んできたナシュマが、カズキにぶつかりそうになった。クラウドはナシュマを鷲掴みにして阻止する。人だかりの中心からヨハンとソギが顔を覗かせた。
「大丈夫か、カズキ」
「みー……」
クラウドの握力にナシュマが抗議の声をあげる。手を放すとカズキの服を咥えて引っ張った。
「な、何?」
「叉胤さんがいなくなった場所を教えて欲しいって」
ソギが立ち上がって通訳をする。
「叉胤なら職人通りを高台の方へ歩いて行ったよー」
「行ってやれよ兄貴。そろそろってことだろ?」
「みー!」
ヨハンが席を離れて窓を開けた。ナシュマがすぐに窓から飛び出て夜空へと消える。
「伝えてくれてありがとな、カズキ」
ヨハンは自分の周りを囲んでいた人々を散らせ、ソギと一緒にクラウドたちの席に座った。
「どうしたんだアイツ」
「兄貴あんなナリだけど、一定量の月の光を浴びると、少しの間だけ元の姿に戻れるんだ。大体四ヶ月周期なんだが、叉胤だけは分かるようでなぁ。あいつらには目に見えない不思議な繋がりがある」
「縁ってやつだね」
「ふーん。じゃあボクも、縁でクラウドと出会えたのかな?」
「そうだな」
クラウドは微笑み、カズキの頭を撫でた。




