第14話
それから程なくしてクラウドたちが戻って来た。ライシュルトは事情を説明したが、やはりカズキだけは難色を示す。
カズキがヨハンに一瞥をくれた。
「……あんた頭大丈夫?」
「聞き流せヨハン。一々聞いてたら身がもたないぞ」
「うるさいよライシュルト!」
ライシュルトはそっと耳打ちしたつもりだったが、カズキには聞こえていたようだ。小さく肩を竦めた。
「あ、そうだ。ゴタゴタしてたから忘れてたけど、これ君達の?」
叉胤が懐から短剣を取り出す。それはクラウドがカズキに与えた短剣だった。カズキは焦った表情で短剣を奪って胸に抱いた。
「失くしたかと思ってたんだ……」
「ここへ来る途中拾ったんだ。それ凄い短剣だね。全ての負の効力を跳ね返してくれる。呪いに幻覚に毒、何も受け付けない。さすがは教会の宝剣だな。霧生もそれを見越して捨てたんだろう」
「だからあの時一人だけ幻覚に囚われなかったのか~」
「ピエール様には感謝をしてもし切れないな。カズキ、お礼を言っておきなさい。見つかって良かったな」
「うん。あの……ありがとう叉胤」
カズキは嬉しそうに笑い、軽く頭を下げる。そして続けざまに言った。召喚士と聖獣のことを詳しく教えてほしい、と。
「どうやったら聖獣を喚べるの? ボクは力も心も強くなりたいんだ。クラウドに生きるって約束したから、自分の身は自分で護れなきゃ」
「正式に聖獣を喚び出すには、まず契約が必要だよ」
叉胤は右の爪先で地面を数回蹴る。
「うん、まだあるね。ヨハン、ちょっと手伝ってくれ」
二人は祭壇に上り、カズキの寝かされていた台座に手をかけた。そのまま押すと台座の下から階段が現れる。
「こっちだ」
促されるまま叉胤について階段を下りると、大きな石造りの空洞に当たった。
中は地下とは思えぬほど広く、明かり取りの窓から月明かりが綺麗に漏れている。そして階段から正面の壁には扉が一つ。
「あの中に聖獣がいる」
「生き物なのか?」
「力の塊と言った方が正しいかもね。聖獣はあくまで形而上のものだから。『聖獣』と呼ばれて人の目に触れているものは、召喚士が具現化させたものだ」
カズキが杖を手に扉へ歩み寄り、何かを感じ取るように頬を当てて瞳を閉じる。そして彼の身体は、扉に飲み込まれるように消えた。
「カズキっ!?」
「心配しないでいい。聖獣に呼び寄せられただけだよ。あそこには召喚士の血を引く者しか入れない。オレ達は待つだけだ」
「叉胤さんって色々知ってるんだね。どこでそんな知識を手に入れたの?」
ソギがナシュマを撫でながら言った。さすが動物好きとあって仲良くなるのが早い。
「オレ達魔族は人間と違って寿命が途方もなく長いからね。オレはこう見えても、こっちで言う五百歳を越えているんだよ。だから知識だけは増えていく」
「叉胤はどうやってこちらへ?」
「人間を好きになったから、追放というカタチで五年ほど前に妖祁様に飛ばされたんだ。彼は年に数人だけなら、自分以外でも移転させられるからね」
「ふむ。三百年前の事件もそうやって魔族を送り込んだのか。お前もか? 叉胤」
「……うん」
「みぃ……」
ナシュマがソギの手を離れ、慰めるように叉胤の頬へ身体を寄せる。
「あのよ、他の魔族はどうだか分からねぇけど、少なくとも叉胤はいい奴だ。昔のこと責めないでやってくれ、頼む」
深々とヨハンが頭を下げた。クラウドはヨハンの肩に手を置く。
「責める気はないよ。少々驚いたけれどね。逆に叉胤がいてくれたおかげで、俺達の旅も一気に進展を見せた。叉胤の過去はどうあれ俺は感謝しているよ。ありがとう」
今にも泣き出しそうな顔で叉胤が頷く。ライシュルトは話題を変えようと叉胤に問いかける。
「んー、そだ。なぁなぁ叉胤、ここ以外で聖獣の力の眠る場所ってどこかあるのか?」
「ああ、聖獣の力は主に六つに分かれている。炎や水といった自然の力が大きく作用している場所に、聖獣の力が存在しているそうだよ。ここは地の聖獣だね。他の場所はオレも分からないな」
「そうかー。クラウド、一度報告がてらセントラルクルスに戻らないか? 聖獣の力がありそうな場所を教会の書庫で調べよう。魔族の目的は聖獣にありそうな気がするぜ」
「ああ、そうだね」
「決まりだなー。そんじゃ、カズキが出てくるまで一休みしようぜ」
そう言うとライシュルトが床に寝転んだ。一分も経たないうちに寝息が聞こえてくる。
「ありがとなライ。さて、俺は見張りをしているから皆も休んでくれ。カズキを待っていてやりたいしな」
クラウドは羽織っていたマントをライシュルトに掛けた。
そして皆が寝静まり、どれくらいの時間が流れただろう。気がつくと明り取りの窓からは、太陽の光が漏れていた。心なしか上がった気温にまどろんでいると、突如あの時と同じように地鳴りが起きる。
「うわっ、何だ?」
「みー」
扉の前の空間が歪み、そこから吐き出されるようにカズキの身体が落ちてきた。クラウドはしっかりとその身体を抱きとめる。
「……ぅ……クラウド」
「お前、その脚どうしたー?」
カズキの脚の内側には、うっすらと茶色い痣が浮き出ていた。二本の蔦が絡まるような紋様だ。
「分かんない……急に浮き出たんだ」
「カズキ君その痣はね、正式に聖獣と契約できた証だよ」
「そうか、良かったなカズキ。良く頑張った」
「クラウド……」
眠たいのか、カズキが目を擦り、クラウドの胸に顔を寄せてきた。
「抱いていてやるから、ゆっくり眠りなさい」
「うん……」
クラウドは袖の裾で、カズキの流れ落ちる汗を拭いてやる。彼の頬や腕に小さな切り傷があった。契約の内容は分からないが壮絶さが窺える。
「あーあ、寝顔は可愛いのにな。何で起きると毒舌魔女なんだか」
ライシュルトが独り言のように呟き、自分に掛けられていたマントをカズキに掛ける。寝ているのをいいことにカズキの鼻を摘んだ。




