表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/101

第12話

「ライシュルトさん!」


 背後に立った男の気配に気づいたソギが、それに向かって矢を射る。


 男の手を掠り、透明な体液が流れ出た。


「この人も魔族っ!?」


「……大丈夫、オレは敵じゃない。彼を死なせたくないなら傷を見せて」


 攻撃されたことに拘ることなく、冷静な口調で話しかけてきた。男らしい声だが、ねっとりと甘い声にも聞こえる。


「うん、まだ助かる。毒の進行も見た目よりずっと抑えられているよ。よく頑張ったね」


 男はクラウドの傷に手を当てて短く言葉を唱えた。すると傷口が塞がり、毒によって赤黒く変色した肌も元に戻った。


「ぅ……」


「クラウド!」


「止血と解毒はしたよ。まだ応急処置段階だから、出来るだけ安静にしててね」


「あんた何者だ?」


「この血が示すとおり魔族だよ。ただし人間好きのね」


 意識を取り戻したクラウドが、腹部を押さえながら上半身を起こした。ライシュルトはクラウドの背中に手を添えて体を支える。


「すまない、ありがとう。ライ、カズキは?」


霧生(きりゅう)のところだ」


霧生(きりゅう)……?」


 男が霧生(きりゅう)の姿を見定め眉を寄せた。銀灰色の髪が風に靡いた。


 台座の上に腰かけ、高みの見物をしていた霧生(きりゅう)が、驚いた表情でゆっくりと立ち上がる。


「……叉胤(ざいん)、か? 何故ここに」


「やっぱり。久しぶりだね。ちょっと探しモノしててさ。さて、その子はこの人達の仲間のようだから返してもらうよ」


「お前に命令される筋合いはもうない!」


「――――」


 叉胤(ざいん)が何かを呟いた瞬間、霧生(きりゅう)に向かって無数の氷の矢が放たれた。だが、彼の前に立ちはだかった人物に全てを砕かれてしまう。


 長い銀髪が月明かりに照らされる。この世の者とは思えぬほど整った顔立ち。形容しがたいその雰囲気は、全ての者を容易く飲み込む。


 ライシュルトもソギも、それに目を奪われた。


 霧生(きりゅう)が片膝を着き、頭を垂れる。


霙颯(ようぜん)様!」


「何を遊んでいる、霧生(きりゅう)


 氷のような瞳で霧生(きりゅう)を見下してカズキに近づいた。そして引き寄せ、瞳の上に手を翳す。


「我々の計画にこのような子供は必要ない。起きなさい、召喚士の子」


「ん……ぅ……あれ?」


 カズキが正気を取り戻して辺りを見渡す。まだ状況把握ができていないようだ。そしてライシュルトに支えられているクラウドの姿を見つけると、ふらつきながらも駆け寄りその腕に抱きしめる。


「クラウド! クラウド! 会えた!」


「カズキ……」


「えっ? ちょっと何この血っ、クラウド大丈夫っ!?」


 カズキは血のついたライシュルトの手を掴んだ。


「この血……ライシュルト、あんたがやったのっ!?」


「間髪入れずにオレかよ、勘弁してくれ! オレにクラウドを傷つける理由なんてねぇよ!」


「カズキ君、ライシュルトさんは、傷ついたクラウドさんを助けようと必死だったんだよ。そんなこと……言わないで」


 ソギがカズキの肩を掴みながら言った。瞳は悲しく、その手は少し震えている。


「じゃぁ誰が!」


「…………」


「何故教えてやらない? ならば俺が教えてやろう」


「止めろ!!」


 ライシュルトが叫んだ。


「庇って何の得がある。カズキ、お前がやったんだ」


「ボク、が?」


「ああ、お前が猛毒を塗った短剣をクラウドの臓腑に突き刺した! 愉快だったぞ、大切な者に命を奪われていく様は」


霧生(きりゅう)止めろ」


 霙颯(ようぜん)までもが諌めるが霧生(きりゅう)は続ける。


「お前の手がクラウドを傷つけたんだ」


「ボクが、クラウドを?」


 カズキが小さな身体を震わせ両手で頭を抱える。


「ボクが……」


霧生(きりゅう)に操られていたんだ、お前のせいじゃない!」


 ライシュルトは自分の方へカズキを向かせ、瞳を覗き込んだ。しかし彼の瞳は混乱していた。目の前のライシュルトも、クラウドすら見えていないようだ。


「だが、事実だ。お前のせいだよ、カズキ」


「うるせぇ! 黙れ!」


「……ぅ……ッッ!」 


 突如カズキの背後の空間が景色ごとぐにゃりと歪んだ。


「!! マズイ、霧生(きりゅう)これ以上彼を追い詰めるな! 場所を考えろ!」


 その声が早いか、パリンと何かが割れる音と、聞いたこともない咆哮が空高く響き渡った。


「何、この気配……」


 ソギが呟き天を見上げる。低く唸るような地面の鳴動。そして得体の知れない恐怖が全身を襲う。剥き出しの殺気だ。


 叉胤(ざいん)が冷静に答えた。


「聖獣だよ。でも召喚士が未熟だ。制御できずに聖獣の力を解放されたら、この辺りくらい簡単に吹き飛ぶよ」


「何だってっ!? 何とかならないのかっ?」


「殺してしまえばいい」


 言っている内容とは全く逆の楽しそうな声で霙颯(ようぜん)が言う。ゆっくりと祭壇を下りてくるその手には――。


霧生(きりゅう)……」


 叉胤(ざいん)が目を伏せた。霙颯(ようぜん)の手にはぴくりとも動かぬ霧生(きりゅう)の身体。辛うじて生きてはいるが、既に虫の息だ。


「ああ、コレ? 役立たずは必要ないからな」


 恐ろしいほど美しく霙颯(ようぜん)が微笑んだ。そして空を仰ぎ見る。


「後数分で召喚される。人間は聖獣に対してどう抵抗する?」


「カズキ……」


 クラウドは首に手を当てて僅かな時間目を閉じた。カズキを護ってやると誓ったのは誰か。


「人間を見くびるな。心で勝負が着くさ」


 静かな表情でそう言うと、カズキの名を優しく呼びかけ、夜気を吸い込んだ柔らかな髪を撫でながら瞳に唇を落とす。そして、そのまま頬に滑らせ唇を塞いだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ