表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/101

第11話

 杜の中は異世界だった。いや、生き物の腹の中という表現の方が近いか。耳を澄ませば、ドクリ、ドクリと何かの脈動が聞こえる。


「気味が悪いな」


「うん、それに動物達の気配がないんだ。代わりに他者を排除しようとする、悪意に満ちた思念が感じられるよ。これが杜からなのか、霧生(きりゅう)からなのかは分からないけどね」


 ライシュルトのおかげで、魔物に出会うことなく歩を進められている。だが彼の額からは、うっすらと汗が滲み出ていた。杜に入って既に三時間余り。疲れたなど口にも態度にも出さないが、そろそろ限界なのだろう。


 陽が暮れてきた。急がなければ。


 クラウドはカズキの杖を強く握り締めた。杖の水晶が白い光を放ち、常に一定の方向へ光が伸びる。持ち主であるカズキの居場所を指し示すように。クラウドたちもそれを信じて歩みを進めていた。


 握る手に、カズキの体温にも似た温かさが伝わってくる。その温かみにカズキが無事だと思えたのは、杖のおかげかそれとも自分の感情からか。


 突如辺りの霧が晴れた。円形に切り取られたような空間には、大きな石造りの神殿が建っている。屋根が崩れ落ちた神殿の中央には、石でできた四角錐が階段状に積み上げられた祭壇がある。


 そして、その頂点の台座にカズキが寝かされていた。空を見上げれば橙に染まった太陽が空に飲み込まれそうだった。何とか間に合ったか。


「術解くぞ」


「ああ。ゆっくり休んでくれ……と言いたいところだが、そうも言えないらしいな」


 クラウドは小さく息を吐く。カズキの横には霧生(きりゅう)が立っていたのだ。


 術を解くと霧生(きりゅう)は少し驚いた顔を見せたが、すぐに口の端を上げて笑った。


「約束だ。カズキを返してもらおう」


「ご自由に」


 そう言って彼はカズキの頬を指先で撫でる。


「起きろよ。クラウドがお前の為にやってきたぞ」


「…………」


 風に吹かれた柳のようにカズキが起き上がり、覚束ない足取りでクラウドへと近づいた。


「クラウド……来て、くれたんだね」


「カズキ、護ってやれずにすまなかった」


 抱きしめると甘い香りがする。カズキの細い右腕が首に絡みつき、引き寄せられた顔に唇が落ちる。


「っ、カズキっ」


 焦るクラウドを尻目に唇が鼻筋を通り、クラウドの唇を塞いだ。


「どうし……!?」


 突然腹部に起きた痛みにクラウドは顔を顰めた。


 カズキの左手に、彼の掌に収まるほどの小さな短剣が握られ、刃先がまるで自分の腹に納まるべきもののように刺さっている。


「カズ、キ……」


 腹部が熱い。刺されただけではなく、刃に毒が仕込んであったか。クラウドは霧生(きりゅう)を睨んだが、抗うことができずに意識を手放した。


「クラウド!」


「クラウドさんっ!」


 ソギがすぐに傷口の手当てをする。だがその表情は硬い。


「くくっ、大切な者の手で命を奪われる……自らは屈辱的で、端から見れば滑稽だ。だが十分に観賞し得る価値はある。良い見せ物となっただろう? カズキ、来い」


 ゆっくりと視線を霧生(きりゅう)に向けて、カズキが祭壇へ戻って行く。その瞳には生気がなく、操られているのは明らかだ。


「貴様!!」


「ライシュルトさん……」


 ソギの声が震えていた。傷口を押さえる布は赤く染まり、闇に綺麗なほど映える。


「クソッ!」


 ライシュルトはクラウドの傷口に手を当てた。治療術は不得手、そんなことは言っていられない。残りの魔力は高が知れているが、持てる魔力を放出して解毒と止血に努めた。


「……頼む」


 しかし血は止まることを知らず、赤々と存在を主張していく。


「畜生! クラウド、こんなところでへばってんじゃねぇよ!」


 魔力の放出過多で気が遠くなり、手元が霞む。自然に涙が零れた。


「お前が死んだら誰がカズキを護ってやるんだよ……」


「無駄だ。人間ごときの知力と魔力では、俺の毒は解毒できない」


「やってみなきゃ分からねぇだろっ!」


 諦めたくはない。クラウドは旅の仲間で、大切な親友だ。色々な思いが心を駆け巡り、混乱と焦燥が脳を侵食していく。


 背後に何者かの気配がしたが、もはや振り向くだけの余裕がライシュルトにはなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ