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第9話

「ちょっと二人ともしっかりしてよ!」


 そんな状況の中でも不思議とカズキは正気を保ち、二人を止めようと懸命だった。振り払われようとライシュルトの腕を掴んで放さない。


「カズキ!!」


「あ、クラウド! 二人ともおかしくなっちゃったんだよー!」


「強い衝撃を与えれば戻るはずだ。カズキは危ないから離れていなさい」


「う、うん」


 クラウドは、武器を構え合う二人の間に入り込んで、攻撃の対象を自分に向けさせる。


「少々手荒だが許せよ」


 ソギから繰り出される矢を避けながら、彼の背後に回り込むと首の後ろに手刀を叩き込んだ。


「うぅ」


「ソギ、俺が分かるか?」


「……僕は……クラウドさん、僕は一体……」


「よし、大丈夫だな。だが話は後だ」


「え? 何っ?」


 背後の気配。振り向いてライシュルトの攻撃を剣で受け止める。正直ライシュルトとは戦いにくい。力が拮抗し剣線も同じ軌道を描くため、攻撃が読みやすく、また読まれやすいのだ。


 だがクラウドの心配を他所に、あっけなく勝負は着いた。ガツンという鈍い音が響いて、ライシュルトが前のめりにゆっくりと倒れる。


 彼の背後に立っていたのは、杖を手に涙を浮かべたカズキだ。杖の水晶部分でライシュルトの頭を思い切り殴ったらしい。


「この……馬鹿ライシュルト! クラウドに何するんだよ! クラウド大丈夫っ?」


「あ、ああ……」


 カズキの過激さにクラウドは呆然としてしまう。地面に倒れたライシュルトが正気を取り戻し、頭を押さえながら立ち上がった。


「いてー。何するんだよカズキ~」


「正気に戻ったでしょ」


「ライも気がついたようだな、良かった。動けるか?」


「ああ。オレ、幻覚に囚われてたのか……あーこんな情けない姿団長に見せらんねー!」


「ライ、汚名返上に一働きしろよ」


「勿論! だからクラウドはカズキを護ってやれ。この化物花はオレとソギで片づけるわ」


「ああ、任せた」


 再び霧を吐き出そうとする魔物にソギは矢を放った。ライシュルトは風上に立ち、足で陣を描くと詠唱を始め、やがて彼の前に炎が形成される。ソギがその横に並んで弓を構え、二人は息を合わせて同時に攻撃を仕掛けた。


 それはまるで意思があるように二つが混じり合い、一本の炎の矢となって魔物の核を的確に貫く。魔物は炎に焼かれて核も残さず消滅した。


「ククク……」


「!?」


 いち早く『彼』の存在に気づいたのはソギ、そしてカズキだ。逆光を浴びている為に良く見えないが、小屋の屋根の上に人影があった。


「見事な戦いぶりだった」


 そう言って彼は、足音もさせずに屋根から舞い降りてくる。顔を上げれば金色の髪に端正な顔立ちの青年であった。だが見た目は人間だというのに、気配が人間の持つそれとは違っている。人間には出せえぬ禍々しさ。近くにいるだけで恐怖に蝕まれていくようだ。


 カズキが耐えるようにクラウドの袖を掴んできた。


「クラウド……この気配だよ。怖くて、動けなくなっちゃったの」


「ほぅ、お前は俺に気づいたか。気配を抑えていたが……さすがだな」


 金髪の男が嬉しそうに笑った。


 隙を見逃さないソギが矢を射かけ、矢は男の頬を掠めていった。そして四人は自分の目を疑うこととなる。


「何だコイツ……」


 流れ出た血液、それには色がなかった。血が出ていることすら感じさせない、混じり気のない透明色だ。


「……お前は、何者だ?」


 クラウドはカズキを庇いながら剣を向ける。手には汗をかいていた。緊張しているのか。


「俺の名は霧生(きりゅう)。そう、人間とは似て非なる者。聖騎士二人には、魔界の住人といえばお分かりか」


「!! ……馬鹿な。魔界との扉は、一代目の番人以来開かれていないはずだ」


「何事にも裏道があるのさ。それと一つ面白いことを教えてやろう。教会の番人とて純粋な人間ではない。人間と魔族との混血だ。二つの血が上手く融合されると、あの力が生まれるようだな。お前達は魔物を護る為に働いているのさ」


「ふざ、けんな!」


 霧生(きりゅう)に向かって行こうとしたライシュルトを、クラウドは立ちはだかって止める。


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