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ドラゴンアックス  作者: kaz
白の章
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第七十五話 博打

「カティア殿! シャル殿! どこにいるでござるかー!」


 半壊したリンディッヒ城の中で必死にカティアとシャルを探すムラサメ、人的被害こそ多くは無いものの、あちこちに血の跡が残る城内を見渡しながら、ムラサメは最悪の事態が起こっていない事だけを祈っていた。

 すでにここから逃げている事も考えられたが、ムラサメは二人がまだここに残っていると確信していた。


「あのシルバードラゴン(銀竜)の目的はドラゴンの赤ちゃんでござろう。奴がまだここにいるという事は、ドラゴンの赤ちゃんも、そして一緒にいるカティア殿やシャル殿も一緒にここにいるはずでござる!」


 この城に辿り着いた時、フルヒトが未だこの城を攻撃していたのは、ホワイトドラゴンの赤ちゃんを手に入れていないに違いないとムラサメは確信していた。

 カティアがホワイトドラゴンを見捨てて、自分だけ逃げ出すような人物でないと言うのは誰もがわかっていた。か細い少女でありながら、しっかりとした意思のようなものを持っているからこそ、景虎もクリスタも彼女に一目置いているのだと。

 地上を探し、二人の姿を確認できなかったムラサメは、次に地下へと向った。シャルロッテが地下にいたのかを思い出し、そこにホワイトドラゴンを隠していたのを思い出したからだ。


「カティア殿! シャル殿!」


 地上ほどではにものの、通路のあちこちに瓦礫が残る階段を降り、シャルロッテのいた地下室へ向うと、そこにはホワイトドラゴン(白竜)の赤ちゃんを抱きしめたカティアがうずくまっていた。


「カティア殿! 無事でござったか!」

「ムラサメさん! どうしてここに!?」

「シャルロッテ様が魔獣は囮で、フルヒトが師匠のいない間にここを襲うのではないかと気付いたのでござる! 師匠も戻り、今地上でドラゴンと相対しているでござる」

「景虎さんが! だ、大丈夫なんですか!」

「師匠ならきっと大丈夫でござるよ! さ、師匠が戦ってるうちに早く非難を……」

「それはできません! ホワイトドラゴンの赤ちゃんは、私が動くと一緒についてきちゃうんです。もし今外に出たら……」


 言われてムラサメは考える。確かにフルヒトの目的がこのホワイトドラゴンの赤ちゃんだとするならば、外に出た途端襲われる可能性があった。

 かといってこのままここにいても、天井が崩落するば、やはり命の保障はなかった。


「とりあえず、出口付近に向かうでござる! もし何かあってもすぐに逃げられるように!」

「は、はい! あ、ムラサメさんシャルちゃんを見ませんでしたか?」

「い、いや見ていないでござるが、そういえばシャル殿はどうしたのでござるか?」

「実は、ドラゴンが襲って来た時までは一緒にいたはずなんですが、気付いたらいなくて……、すみません」


 沈痛な面持ちで謝るカティアに、ムラサメはそれ以上の言葉をかける事ができなかった。カティア自身、自分の身を守るので精一杯であろうし、その上ドラゴンの赤ちゃんを守っていたのだから。


「と、とにかくカティア殿は避難を、シャル殿は拙者が探してくるでござる!」

「お、お願いします」


 ムラサメはカティアをできるだけ安全な場所に非難させると、シャルを探しに再び城の中を探し始めた。




――その頃、地上では景虎(かげとら)とフルヒトが睨みあっていた。


 フルヒトは半壊したリンディッヒ城の上空で、景虎と一定の距離を置いて緩やかに翼を羽ばたかせていた。 

 破壊されつくしたリンディッヒ城の周りは、負傷者や瓦礫に潰され絶命している人の姿もあった。そんな中、景虎はフルヒトを鋭く睨みつけていた。

 そんな景虎を嘲笑うかのように、フルヒトは景虎の頭の中に話しかけてきた。


『やあ景虎、久しぶりだね。まだしぶとく生きていたんだ?』

「てめぇもな! いいか、てめぇはここで必ず殺す!」

『あはははは! 相変わらず口が悪いなあ、せっかくまた会えたんだし遊ぼうよ』

「いいから降りて来い! ちゃっちゃと殺してやっからよ!」


 景虎とシルバードラゴンとの距離は二百メートルはあり、フライハイトの瞬間移動の能力では届かない距離だった。景虎が必死でフルヒトを挑発するものの、それに答えて近づくような事はしないフルヒト。


「おいこらてめぇ! いつまでそこにいる気だよ! やる気あんのか!」

『ないよ』

「ああ!?」

『景虎の戦い方は大体わかってるからね、魔法で短い距離を一瞬で移動するンだろ? だからこれ以上は近づかないよ』


 上から見下すようなフルヒトに怒りを露にするものの、瞬間移動の射程圏内に入ってくる気配のないフルヒトに、地団駄を踏んで悔しがる景虎。

 一方フルヒトはそんな景虎の様子が楽しかったのか、先程まで暴れていたとは思えないほど、楽しげに空を飛びまわっていた。

 忌々しげにその姿を睨みつける景虎は、この機会に前々から疑問にもっていた事をフルヒトにぶつける事にした。


「おい糞野郎、てめぇやる気ねーならちっと話聞かせろ!」

『ん? 何? 暇だし色々答えてあげるよ』

「てめぇこの前自分はドラゴンと人間の間に生まれた子供とか言ってたけどよ、ドラゴンはセックスして子供出来ねーって聞いたぞ! てめぇは何なんだよ!」

『あは、その事か、いいよ、教えてあげる。僕のおかーさんは人間だったんだけどね、死にかけのドラゴンに出会って、転生してその身体にドラゴンを宿したんだよ』

「あ、転生!? ちょ、ちょちょ待てなんだそれ!」


 フルヒトの言葉に驚きの声を上げる景虎、その様子がよほど楽しかったのか、フルヒトは再び空を楽しげに飛び回った。一方景虎は転生という言葉に驚きを隠せなかった。

 景虎自身、元の世界からこの世界に初めて来た時、死に掛けていたドラゴンのフライハイトと遭遇し、転生の話を持ちかけられた。

 結果としてフライハイトは近くにあった戦斧に転生し、今景虎と共に居るのだが、フルヒトが自分と同じような境遇だった事に驚いたのだった。


「そ、それでてめーのお袋はてめーを生んだって事か?」

『生んだ? んーちょっと違うかな、出たんだよ、自分でね』

「あ? だから生まれてきたんだろ! そのお袋からよ!」

『ちゃんと話を聞きなよ景虎、出たって言ったろ? 僕はね、文字通りその人間の体から出たんだよ。腹を食い破ってね』


 楽しげに笑いながら空を飛びまわるフルヒト、景虎はフルヒトの放った言葉の意味を精査した、そしてそれがおぞましくロクでもない、下種な行為だと理解した時、フルヒトへの怒りがさらに湧き出した。


「こんの糞がぁ! てめぇ自分の親を殺したってぇのかよ!」

『親? 何ソレ? そんなもの僕たちにないってのはさっき景虎が言ったじゃないか』

「てめぇどこまでも腐ってやがんな!」

『何を怒ってるのか……、ああそういう事か。食い破った人間が僕の親じゃないかって言いたいんだ?』

「それ以外何だってぇんだよ!」

『誤解してるよ景虎は、食い破った人間はあくまで転生先の卵の殻みたいなもんなんだよー。だからさ、なんて事はないんだよ、力を蓄え終わったからぱりーんて割って出てきた、うん、それだけ』


 あっけらかんと答えたフルヒトに向け、景虎は近くに落ちていた石を拾い上げ力いっぱい投げつけた。フライハイトの力で身体が強化されていた為、石はフルヒトに激しく叩きつけられたものの、当然の如く傷一つついてはいなかった。


「やっぱてめぇは殺す、ぜってぇだ! こん糞がぁ!」

『やれるもんならやってみなー』


 再び頭の中に響き渡るフルヒトの忌々しいほどの笑い声、景虎は歯軋りをしながらただそれを聞き続けるしかなかった。

 怒りを抑えながら、景虎はフルヒトに聞こえないようにフライハイトに語りかける。


「おい糞ドラゴン、俺とてめぇの会話はあの野郎には聞こえてねーだろうな?」

『大丈夫だ、私との会話はフルヒトには聞こえない。奴は景虎に一方的に伝える事しかできないはずだ』

「そうかい、んじゃ作戦会議だ! あの糞野郎をなんとか空から引きずり落とせねーもんか?」

『難しいな、フルヒトはこちらの戦い方を知っている。挑発しても近づかず、一定の距離を保つだろうな。そしてこちらが疲弊するのを待つだろう』

「いけすかねぇが、まぁトンデモ生物らしい喧嘩の仕方だわな。空でも飛べりゃあやりあえんだが、さって、どうしたもんか……」


 フルヒトを睨みながらどう戦うかを考えている景虎の元に、ムラサメが駆け寄ってくる。


「し、師匠! ご無事でござったか!」

「ムラサメか、悪ぃが今糞野郎とやりあってる所なんで話は後だ、とりあえずカティアとシャルは無事だったかだけ教えろ!」

「あ、は、はいでござる! カティア殿は無事でござったが、シャル殿が行方不明でござって、今探してる所でござる!」

「シャルが! くっそ、おい糞ドラゴン、シャルは近くにいるか?」

『周りに無数の気配は感じるのだが、ドワーフの娘だとは特定できん。怪我をしているか、意識を失っているのか、気配が微弱なのだ』

「ちっ! おいムラサメ! てめぇはシャルを探せ! いいな!」

「は、はいでござる! 師匠も気をつけてくだされ!」


 返事をしたムラサメはすぐにその場から離れてシャルを探しに行く、その間フルヒトは空からその様子を見つめていたが、特に動くような気配はなかった。

 このままではどうにも身動きが取れない景虎は、ある考えを思いつき、フルヒトに対して賭けをする事を決める。


「おい糞野郎!」

『なーに? ってフルヒトって呼んでほしいんだけどなあ』

「うるせぇよ! でだ糞野郎! 賭けをしねぇか!」

『賭け?』

「おう、一発勝負のど突き合いだ! てめぇが俺の射程まで降りてきて一回だけ俺に攻撃させろ! もし当たれば俺の勝ち、当たらなかったらてめぇの勝ちでいいからよ!」

『は? バッカじゃないの? そんな事する訳ないじゃないか』


 景虎の提案を即座に拒否するフルヒト、しかし景虎はその反応は予想していたのか、続く条件を提示する。


「ただでとは言わねえ! もし俺の攻撃が外れたら俺はもう二度とてめぇを攻撃はしねえ、武器も捨ててこの場でてめぇに食われてやる、どうだ!」

『なっ!』


 それに反応したのはフライハイトだった。


『景虎何を考えている! 死ぬ気か!』

「こうでもしねーといつまで経っても何もできねーだろうが! まぁ何とかしてみっからよ!」

『しかしっ!』

「俺を信じやがれ糞ドラゴン!」


 景虎の言葉にフライハイトは黙ってしまう。あまりにも無謀すぎる条件にフルヒトが拒否する事を祈るほどに。一方景虎の条件を聞いたフルヒトは言葉を発する事無く空に浮いたままだった。

 沈黙の時間が続く、わずか数分程度だったにも関わらず、景虎はその時間が凄く長く感じられた。もしこの条件で駄目ならば、さらに別のギャンブルまがいの方法を考えねばならないと。

 さらに時間が流れ、このままフルヒトが答えないと思われたその時――。


『いいよ、その条件の賭けに乗ってあげるよ』

「よっしゃ!」

『くくっ、ほんと景虎は面白いなあ、そんな無謀な事を考えて、僕に勝てると思ってるの?』

「何でもやってみねぇとわかんねぇだろうが! 上手くいくって考えてりゃ結構なんとかなるもんなんだよ!」

『あはははは! それいいね! ほーんと景虎は面白いや!』


 楽しげに笑うフルヒトにムカつきながら、景虎はとにかくチャンスが出来た事に安堵する。正直長時間睨みあうとなれば、無限の体力を持つドラゴンに勝つ事などできないのがわかっていたからだ。

 とはいえ、景虎自身の出した条件はかなり厳しいものではあった。フルヒトはこちらの戦い方を知っている。こちらはフルヒトに一撃で致命傷を与えねば、取り逃がした挙句に食われてしまう。一方フルヒトは景虎が瞬間移動したその時に、その一撃をかわすだけで良いのだ。


「糞ドラゴン、一撃で決めっからな」

『景虎に任せる、必ず決めるのだぞ。私はまだお前と生きたい』

「死ぬかよ! 俺だってやりてぇ事がまだまだあんだからよ!」


 景虎がフライハイトと共に気合を入れてフルヒトを睨みつけている頃、フルヒトはその翼をゆっくりを羽ばたかせて地上に降りてくる。

 距離はまだ百メートルはあったが、景虎はいつでも攻撃できるように準備する。

 瞬間移動で動ける距離は約五十メートル、フルヒトもそれは知っている。

 少しずつ、少しずつゆっくりと降りてくるフルヒト、距離が五十メートルに近づこうとした時、フルヒトが景虎に声をかけてくる。


『そうだ景虎、僕から一つ君にプレゼントをしたいんだけど、いいかな?』

「あ? プレゼント? んなもんいらねぇからとっとと来いよ!」

『そう言わずに受け取ってよ。ほんと凄く良いものだから』

「いいから来いってんだよ!」

『ふう、しょーがないなあ、じゃあ……』


 そこまで言ってフルヒトは目を光らせた。その光は眩しく、フルヒトをじっと睨んでいた景虎はまともに見てしまい、目を開けていられなくなる。


「あっ! くっそてめぇ汚ねぇぞ! こんなもんの何がプレゼントだよゴラァ!」

『違う違うこれはプレゼントじゃないよ、ほんとのプレゼントはう・し・ろ』

「ああ?」


 景虎がフルヒトの言葉に答え、目を閉じたまま後ろを振り向いたその瞬間、景虎の背中から腹にかけて激痛が襲いかかってくる。

 

「かっ、は! な、んだ……」

『景虎!』


 何が起こったかわからなかった景虎だが、激痛が襲うその場所に手を動かすと、その場所に生暖かい液体と、冷たい鉄の感触が伝わってきた。


『景虎! 大丈夫か! おい景虎!』


 必死で呼びかけるフライハイトの言葉に、ぼんやりしていた意識から、ようやく自分がどういう状態なのかがわかってくる景虎。

 暖かい液体の感触は自分の血であり、冷たい金属の感触は剣だと。

 何故かはわからなかったが、自分は背中から剣を突き刺されたのだとわかった。


「がはっ! く、っそ、誰……だよ」


 痛みに顔を歪めながら崩れ落ちていく景虎、フルヒトの放った光で目の前が真っ白だったものが、ようやくにして薄れだしてきた頃、自分に剣を刺した者を必死で見ようとした。

 そして、ぼんやりとその姿がわかった時、景虎は信じられないといった表情になる。

 景虎を背中から突き刺したその人物は、ヴィスルム教国からずっと一緒に度をしてきた人物だった。だが、今幼いその人物のその手には、景虎を突き刺した剣の柄がしっかりと握り締められていた。


「なん……でだよ……」


 痛みを堪えながら必死で搾り出した声に、その人物は反応しなかった。景虎はそれでもその人物に訴えかけるように、名前を続けた――。


「……シャル」

とりあえず75です

しばらく不定期になりそうです

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