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ドラゴンアックス  作者: kaz
白の章
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第七十四話 襲撃

 景虎(かげとら)達がリンディッヒ城に居ついてから一週間が経とうとしていた。

 ホワイトドラゴン(白竜)をどこに移そうかと思案するも、様々な問題から中々良い場所が思いつかず時間だけが無為に過ぎ去る状態となっていた。

 このままでは埒が明かず、景虎も痺れを切らそうとしたその時、急報が入りリンディッヒ城は緊張に包まれた。


「ライネの村が魔獣の襲撃を受けました! 数はおよそ三百!」


 その報告を受けたリンディッヒ子爵は言葉を失う。リンディッヒに大規模な魔獣の襲撃には二回、そのどちらも二百の数で、それですら多くの犠牲でようやく撃退したというのに、今回はさらに多い三百という数字だったからだ。

 さらに魔獣が現れた場所にも衝撃が走っていた。その場所はこのリンディッヒ城から馬で半日ほどという、わずかな距離だったからだ。

 その報告は景虎達にも伝えられ、景虎はカティアからライネの村の話を聞いた時、心が締め付けられるような想いに苛まれる。ライネの村とは、景虎がこの世界に初めて降り立った時、カティアと共に最初に立ち寄った思い出の村だったからだ。


「あの村が……」


 最初は報告に呆然としていた景虎だったが、すぐさまその感情は怒りへと変わり、魔獣討伐の為にライネの村に行く事を決める。

 リンディッヒ城内はすぐさま戦の空気に包まれ、騎士達は慌しく出兵の準備に取り掛かっていた。


「ヨハン!」

「お。景虎、悪いが今は忙しくて……」

「俺も連れて行ってくれ!」


 現騎士団長のヨハンは、以前景虎がリンディッヒに居た頃から色々と世話をしてくれた人物だった。景虎自身もヨハンの人柄を気に入っており、年上でありながらも仲間のように懐いていた。

 ヨハンは景虎の提案に少し考えはしたものの、以前の戦いで魔獣の大群を追い払い、たった一人でアースドラゴン(地竜)を倒した事をその目で見ていた。

 騎士団の兵力は現在五十、これから向う先は三百の魔獣が待ち構える場所であり、まともに戦えば多くの犠牲を出すのは間違いなかった。だが景虎がいればその被害はかなり抑える事が出来、さらに魔獣を打ち払う事も出来ると判断した。


「頼めるか?」

「おう、任せとけ!」


 しっかり返事を返した景虎に笑みをこぼしたヨハン、出征の準備を続けようとしたその時、凛とした声でさらに声が続いた。


「私も行くわ!」


 声の主はヴァイデン第三王女のクリスタだった。ヨハンは初めてその顔を見て威圧感にたじろぐものの、すぐさま膝を折って深々と頭を下げた。


「恐れながら、このような辺境の争い事にクリスタ王女のお手を煩わすとあっては、ヴァイデンの臣下として恥ずべき事。我が主リンディッヒも望んではおりますまい。有難き御言葉なれど、此度は我らにお任せを」

「民が苦しんでいながら何もしない事こそ恥ずべき行為よ! 無用な心配などしなくてもいいわ! これは王女としての使命でもあるのだから!」


 クリスタの言葉にヨハンはさらに深く頭を下げ、それ以上の言葉を続ける事はなかった。立ち上がり再び一礼すると騎士達を纏めるべく慌しく準備を続けた。

 

「私も行きます!」

「師匠! 拙者も!」


 シャルロッテに続いてムラサメも魔獣討伐についてくる旨を伝えると、景虎は頷きすぐさま準備に取り掛からせる。残ったカティアとシャルを見つけると景虎は近づき、シャルの頭を撫でながら優しく声をかける。


「カティア、シャルの事頼むな。まぁちゃんと無事に帰ってくるからよ! シャルも大人しく留守番してんだぞ。あとちゃんと飯食うんだぞ」

「わかりました、どうか御武運を」

「……ワカリ、マシタ、デス」


 二人の返事を聞いた景虎は用意された馬に跨ると、クリスタ、シャルロッテ、ムラサメと共に魔獣討伐へと向った。


 ライネの村までは馬を飛ばして半日ほど、魔獣が村にまだ残っているかはわからなかったが、村の住民達が絶望的だというのは誰もがわかっていた。

 景虎は一年前、リンディッヒ騎士団と共に魔獣討伐に向った時の事を思い出す。あの時も今回のように魔獣に村が襲われた後に向ったのだが、辿り着いたその村は魔獣によって蹂躙され尽くした跡だった。全ての村人が殺され焼き尽くされた村。景虎はあの光景を再び見る事になるのかと思うと、胸が締め付けられた。


 リンディッヒ城を出て四時間ほど馬を走らせ湖が近くに見え始めた時、騎士団と景虎達は馬を休める為に一旦休憩をする事を決める。先を急ぎたいと憤る景虎を、必死でなだめよう説得するムラサメ。


「くっそ、ちゃっちゃと行って片付けてぇのによ!」

「師匠、お気持ちはわかりますが、無理をすれば馬達が壊れかねんでござる。それに後続を待つ必要もあるでござるし」

「ってもなあ、早く帰りてぇんだよなあ、カティアとシャルを放ってはおけねーし、ドラゴンの赤ちゃんもいるしよ、何かあったらヤベェじゃねぇか。大丈夫だとは思うが早くあいつら守ってやりてぇんだよ。シャルとかぜってぇ寂しがってるだろうし」

「師匠は優しいでござるなあ」


 茶化すムラサメの頭をはたく景虎を微笑ましく見るシャルロッテとクリスタ。二人も早く魔獣を討伐してリンディッヒ城へと戻ろうとは思っていた。


「ちゃんと留守番してりゃいいけどなー、留守中に何もない事を祈るばかりだぜ」

「大丈夫でござろう、リンディッヒ城はシャルロッテ殿も言っておりましたが堅固な城でござろうし、ドラゴンでも襲ってこない限りは無事に……」


 ムラサメが何気なく言った言葉だったが、その言葉に大きく反応したのはシャルロッテだった。その顔は瞬く間に苦悶の表情に変わり、青ざめた様子で何かをブツブツと呟いていたかと思うと、悔しそうに言葉を発した。


「しまった……、どうしてこんな単純な……」


 シャルロッテの言葉にその場にいた景虎、ムラサメ、クリスタが反応する。思いつめた様子のシャルロッテに、何か嫌な予感を感じた景虎が恐る恐るといった感じで問いただした。


「お、おいどうしたシャルロッテ? 何かあったのか?」

「景虎さん! 今すぐリンディッヒ城に戻ってください! 今すぐ!」

「え? ちょ、ちょっと待てよ、魔獣はどうすんだよ? 俺らこれから……」

「これは罠の可能性があります!」


 罠という言葉に景虎だけではなく、ムラサメとクリスタも緊張感を増した。一方シャルロッテは大きく深呼吸をすると、今述べた言葉の意味を静かに話しだした。


「フライハイト様によれば、フルヒトはドラゴンを操る事ができるそうです」

「ああ、俺もそれは知ってる」

「その後、私はフライハイト様に聞いたのです。ドラゴンほどの生物を操れるのなら、人間や魔獣も操れるのではないかと。答えはハイでした。フルヒトはドラゴン以外の生物もおそらく操る事ができるだろうと」


 そこまでの話を聞いていた三人は、ようやくシャルロッテの言わんとしている事の意味を理解した。


「今回のこの魔獣の襲撃は、あの糞野郎が操ってやらせたんじゃねぇかって事か?」

「あくまで推測です。ですがあまりにもタイミングが良すぎる気がするんです。私達がリンディッヒに来るまで、魔獣の襲撃どころか気配すら一切ありませんでした。一週間ほどで急激な変化があったとは思えないのです」

「確かにな」

「フルヒトは狡猾です。フリートラントの時も、ブルードラゴン(青竜)を操り王都を壊滅寸前にまで破壊しました。もし景虎さんがいなかったら、フリートラントだけではなく、ヴァイデンすらも危うかったかもしれません」


 フリートラントは景虎、クリスタ、シャルロッテにとって忘れられない場所だった。多くのものを失い、そして大切な姉ディアーナを失った場所だった。

 今また同じような事がリンディッヒで行われるとしたら、誰もがそう考えた時、景虎は身体が自然に動き、馬に跨っていた。


「魔獣の事頼めるか! ヨハンや騎士団の皆はカティア達と同じくらい大切なんだ!」

「任せてください、こちらは私とクリスタ姉様がいれば問題ありません」

「待って! 私も景虎と一緒に!」

「クリスタ頼む! ヨハン達を助けてやってくれ! お前にしかできねぇんだ!」


 クリスタ自身は景虎と共に戦う事が望みだった。だが今ここにいる五十人の騎士だけでは、三百もの魔獣と戦えば被害は相当なものとなるだろう。だが戦乙女(ヴァルキュリア)とまで呼ばれるクリスタがいれば、数で圧倒する魔獣すらもねじ伏せる事が可能だろう。

 景虎に見つめられたクリスタは唇を噛み締め、一緒に行きたいという衝動を必死で抑えて返事を返す。


「わかった。でも魔獣を倒したら私もすぐにリンディッヒ城に向うから!」

「頼む! じゃあな!」


 クリスタの答えを聞いた景虎は今来た道を急いで戻っていった。と、後方から景虎に付従う馬が来る事に気付いた。見ればその馬にはムラサメが乗っており、必死の形相で景虎の馬に追いついてきた。


「おい何来てんだ、てめぇも魔獣をなんとかしてこい!」

「シャルロッテ様から一緒に行くようにと言われたでござる! 魔獣はクリスタ様とシャルロッテ様がいれば問題ないからと! 師匠の力になってくれと!」

「そうか、まぁ確かにあの二人に任せとけばなんとかなるか。んじゃ急ぐぞ!」

「はっ!」


 景虎とムラサメはリンディッヒ城へ向って馬を走らせた。 馬の事を考え全力では走らせなかったものの、三時間ほどした時、異変のようなものをムラサメが見つける。


「師匠! あれを!」


 ムラサメの指差した方向を見ると煙のようなものが見えた。遠く、はっきりとしたものではなかったが、向う方向からそれが見えた事に、シャルロッテの嫌な予感が的中したのだと景虎は感じていた。

 ムラサメも同じ想いで、向かう方向、すなわちリンディッヒ城で煙が出るような状態になっているのだと認識した。


「急ぐぞ!」

「はっ!」


 景虎は手綱を強く握りしめてさらに馬を走らせた。

 道を進むに従い煙が段々とはっきりと見えてくる。青空に見える白い煙は徐々に黒くなっていき、そして、近づくにつれ大きな破壊音のようなものも聞こえてきた。

 歯軋りをして怒りを堪える景虎。馬が限界に近づきそうになるも、必死で鼓舞して走らせ、そして、目指すべきリンディッヒ城が見えた時、景虎はその光景に絶望した。


「くそっ! 間に合わなかった!」


 まだ遠く、城の姿がやっと見えるほどの距離ではあったが、景虎は必死で馬を走らせた。リンディッヒ城に近づくにつれ破壊音と人々の悲鳴がはっきりと聞こえ始めると、景虎はさらに手綱を握り締めた。

 見つめる先に映る絶望的な光景を直視しながらも、残してきた人々が無事で居てくれと必死で祈り続けた。そして、その城を破壊している元凶が空を優雅に飛翔しているのを見つけた時、景虎の怒りは頂点に達した。


「このクソ銀バエ野郎がぁーーーーーーー!!」


 怒号のような声を上げて叫んだ先にいたのは銀の身体をしたドラゴンだった。

 始めて見るその姿ではあったが、景虎はそれがフルヒトだと言うのを、邪悪すぎる気配で一目で確信した。

 一方シルバードラゴン(銀竜)の方も景虎の声を聞いてその姿を確認したのか、リンディッヒ城を攻撃するのをやめ、ゆっくりと飛翔し悠々と空を羽ばたいていた。


「あ、あれがドラゴンで、ござるか……」


 初めて見るドラゴンを呆然と見つめるムラサメ、銀色の身体から発せられる圧倒的とも言える威圧感と恐怖感は、普通の人間にはとても見続ける事ができないほどのものだった。身体が震え、脂汗のようなものが体中から噴出すような感覚に襲われながら、ムラサメが今にも逃げ出そうとした時、その背中を景虎が強く叩いた。

 あまりの強さに吹き飛ばされそうになるが、なんとか堪え景虎の方を向くと、景虎はドラゴンよりも恐ろしい顔でムラサメを怒鳴りつけた。


「ボケーっとしてんじゃねぇよ! あんなもんどうってこたぁねぇんだからビビってんじゃねぇよ! いいか、俺は今からあの野郎をぶち殺さなきゃなんねぇ! てめぇはその間にカティアとシャルを探してなんとか無事な所に連れて行け! あと怪我人とかいたら介抱しろ! いいなムラサメ!」

「え、あ、は、はいでござる!」


 景虎に指示されたムラサメは、崩れたリンディッヒ城の中を必死に掻き分けカティアとシャルの名前を叫ぶ。

 残された景虎は周りを見つめる。破壊されつくしたリンディッヒ城の周りは負傷者や瓦礫に潰され絶命している人の姿もあった。立ち尽くす景虎を嘲笑うかのように、シルバードラゴンは景虎の頭に話しかけてきた。


『やあ景虎、久しぶりだね。まだしぶとく生きていたんだ?』


 その声は人間だった頃のフルヒトと同じものだった。人を小馬鹿にしたようなイラつく声、その中には下卑た感情がありありと感じられた。

 その声を聞いた景虎はさらに怒りを爆発させ、空を楽しげに飛んでいるシルバードラゴンを睨み付けた。


「クソ野郎がぁ!!、てめぇはここで死ねぇ!!」


次は来週には、投稿できればいいなという感じで…

未定です。

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