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ドラゴンアックス  作者: kaz
白の章
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第六十二話 歓待

 アルストの街を旅立ってから五日、景虎(かげとら)達の馬車はヴァイデン王国の街に近づきつつあった。


「そろそろ着くでござるな」

「やっとヴァイデンか、っても王都まではこっからさらにあるんだよなあ」

「この馬車だとあと三週間くらいかかるでござろうか」


 ムラサメの言葉に大きな溜息を吐く景虎、その景虎の頭を優しく撫でるのはドワーフのシャル、その手には景虎からもらったピンクの手袋がはめられていた。

 初めて貰ったプレゼントの手袋がよっぽど嬉しかったのか、貰ったアルストの街からほぼずっとはめていた。


「気に入ったのはわかるがよ、寝る時くらいは外した方がいいぞ」

「…………」

「お、反抗期でござるかな」


 シャルが珍しく景虎の言葉に無反応だった事にムラサメが茶々を入れる。景虎はムラサメを睨みながらも、シャルが大事そうにしている手袋を横目で見ながら小さな溜息を吐くと、シャルの頭をくしゃくしゃと掻き回す。


「ちゃんと洗濯するんだぞ、そんな手で食いもん食ったらばっちいからな」

「ハイ!」


 嬉しそうに返事をするシャルは、改めてその手袋を大切そうに握り締める。



 馬車は走り続け、夕方前にヴァイデン王国の街ライナウに到着する。

 街の入り口で入国の手続きをするのはムラサメ、怪しげな格好こそしているものの、人当たりの良さと巧みな話術で、ヴァイデンの騎士達と親しげに会話を進めていた。


「子供だけでよく旅を続けられたな、野盗や魔獣の襲撃は大丈夫だったか?」

「ヴィスルムで魔獣の襲撃はあり申したが、それくらいでござったなあ」

「そりゃよかった、ところで君達はヴァイデンに何しに来たんだい? いやまぁ職業柄こういった質問は一応しておかねばならなくてね」


 景虎達を見まわし子供だけのパーティというのが珍しかったのか、騎士は旅の目的などを問うた。ムラサメは事を荒立てないように、故郷のジンゲン国に行く途上だと伝えようとしたのだが――。


「ちっとクリスタやヴィルヘルミナのねーちゃん達に用があってな、その為に王都に急いでんのよ」


 景虎の言葉にムラサメだけでなく、その場にいたヴァイデンの騎士達すらも動きを止め景虎を凝視した。シャルも周りの空気が急に変わった事を感じ、景虎の傍に近寄りその服を握る。ただ一人景虎だけがいつも通りのままだった。

 しかしさすがに無礼だと感じた騎士の一人が、厳しい表情で景虎に詰め寄る。


「ひ、姫様方を名指しだと! き、貴様身の程をわきまえろ!」

「え? 何で? 俺クリスタやヴィルヘルミナのねーちゃんと知り合いだし、王様とも話とかした事あんぞ?」


 ヴァイデンの姫達の名前に続き、さらに国王とも知り合いなどと話す景虎に絶句するヴァイデンの騎士達、多少の事では動揺しないムラサメも、さすがにこれには顔を青ざめ言葉を無くした。

 その場に居た騎士達はすぐさま馬車を取り囲むように包囲し、槍を景虎達に向ける。


「あ? 何だよ急に。俺ぁ何もやってねぇだろ?」

「黙れ! 貴様不敬にも程があるぞ! 貴様如きが王家の方々と知り合いなどと! 嘘も大概にせい!」 

「あ? 俺ぁ嘘なんぞ言ってねーぞコラ、知り合いだっつってんだろが」

「なら証拠を見せてみよ! さもなくば不敬罪として牢屋行きだ!」


 騎士達はさらに厳しい顔をして景虎達を睨みつける。ムラサメはもう諦めたような感じでただただ垂れるばかり。一方の景虎は頭を掻きながら何かを考え――。


「証拠ねぇ、んー……、お、そーいやあれがあったか」


 しばらく考えていた景虎は何かを思い出し、懐に手をやり何かをとりだす。手の中に小さく光るものを確認した景虎は、それを騎士の一人にみせ説明を始めた。


「こいつぁディアーナの姉ちゃんに貰った指輪だ。王様によりゃこいつぁヴァイデンの王族の家族の証って聞いたが、これでいいか?」

「ディアーナ? ディアーナ元第一王女様の事か!」


 景虎の言葉に驚く騎士は恐る恐るその指輪を見つめ、そしてその指輪にヴァイデンの王家の紋章が描かれている事に気付くと、あまりの事に驚き腰を抜かしてしまう。他の騎士達も確認の為その指輪を見、ヴァイデン王家の紋章を確認すると最初の騎士と同じように驚き、景虎を怪訝な目で見つめた。


「き、貴様、これをどこで手に入れた!」

「だからさっき言ったじゃねぇか、ディアーナの姉ちゃんに貰ったって。姉ちゃんがこの国に来た時に帰り際に貰ったんよ。その後フリートラントで死んじまって王様に返そうと思ったんだけどよ、持っててくれって言われてな、懐にずっと仕舞ってたんよ。クローナハから吹き飛ばされた時も、胸に入れてたせいでこれだけは持ってたんだわ」


 景虎の言葉を呆然と聞く騎士達、そんな中一人の騎士が何かに気付いたらしく、景虎に名前を尋ねる。


「す、すまんが貴公の名前を教えては貰えないだろうか?」

「名前聞く時はてめぇが先に名乗れっての、けどまあいいわ、俺の名前は出雲景虎だ」


 景虎の名前を聞いた騎士達は何かを思い出したようで、慌しく誰かを呼びに行く。

 何が起こってるのかわからない景虎達だったが、騎士達に殺気のようなものが感じなくなったのを見て、大人しく待つ事にする。

 時間にして十分ほど、壮年の男性で、身なりから上位階級と思われる騎士が景虎達に向って足早に近づいてくる。その人物は馬車の前で景虎をまじまじと見つめると、穏やかな笑顔で話し始めた。


「確かに、出雲景虎様だ」

「ん? 俺どっかで会いましたっけ?」

「貴方は知らないと思います、私は観客の一人に過ぎませんでしたので」

「観客?」

「申し遅れました、私はこのライナウの街で騎士団を統率しております騎士団長ヨーゼフ=ベルトラムと申します。王都の練兵場にて、ディアーナ様と貴方の戦いを見ていた者の一人でございます」


 その言葉に景虎は思い出す。ヴァイデン王国の元第一王女にしてフリートラント王妃ディアーナ=リュトヴィッツ、皆から好かれ不敗の戦乙女として名の知れた女性が妹達に会いに来た時、景虎はディアーナの威圧感を感じてつい一騎打ちを申し込んでしまったのだった。

 その後王都の練兵場で戦う事になったのだが、かなりの激戦で景虎がギリギリ場外勝ちで勝てたというものだった。


「あの戦いは見る者全てを虜に致しました。あの伝説のディアーナ様を破った出雲景虎様と手合わせしたいと願う者は多数おりますれば、是非一度お願いしたいものです」

「ありがとさんです、けど今はちっと急いでるんで、またにして貰えませんかね?」

「はは、それは申し訳ない。ではどうぞ、と言いたい所ですがもうすぐ夜が更けますれば、今日はもう休まれる方がよろしいかと思われます」

「あー、確かに、んじゃ今日はどっかに宿取って休むか」


 二人のやり取りを聞いていたムラサメは景虎の言葉に安堵し、さっそく宿を探しに行こうとするが、それをヨーゼフが止める。


「お待ちください、宿ならば是非我が屋敷にてお休みください、出雲景虎様のお話を是非お聞かせ願いたいのです」

「マジすか! ありがとうさんです! けど何でそんな良くしてくれるんすか?」

「先ほども申しましたが、ディアーナ様との戦いに感動したというのもありますが、実はシャルロッテ王女が各地に出雲景虎様が現れた時には、良くするようにと御触れを出されているのでございます」

「おー、あのシャルロッテの奴が色々やってくれてたのか、やっぱ頼りになんなー」


 気さくに話しかけるヨーゼフに景虎もまた楽しげに話し、今日はここで休息を取る事になる。その様子をムラサメとシャルは呆然と見つめていた。

 と、景虎はある事を思い出し、ヨーゼフに確認の意味を込めて話しかける。


「あの、シャルも一緒に行っても大丈夫っすか?」

「シャル? どちらのお方ですか?」


 ヨーゼフの問いに景虎はシャルを指差す。ヨーゼフは怯えるシャルを見ながら、景虎が何を言いたいかをすぐに把握したようだった。


「ヴィスマルでは人間以外を大きく差別すると聞いた事があります。確かにこのヴァイデンでも人間以外の種族に対し良く思わない者がおります。ですが怪我をさせたり殺せば当然殺した者が人間であろうと罰しますし、罪も贖わせます」


 ヨーゼフは景虎を見つめ、そして声色を強めて語った。


「出雲景虎様のお連れの方であるならば、如何様な御方であろうと客人として遇しますれば、どうかご安心の程を」

「ありがとうです! それを聞いて安心したっす!」


 ヨーゼフの言葉に安堵した景虎はシャルの頭を優しく撫でてやる。それでようやく自分が迷惑をかける事がないというを悟ったのだろうか、シャルもまた笑顔で気持ちよさそうに撫でられる感触を味わっていた。


「し、師匠流石です! まさかヴァイデン王族の方々とお知り合いな上、騎士の方々からも尊敬されるなど、まさに師匠の中の師匠でござる!」

「意味わかんねーよ、まぁとりあえず今日はゆっくり休めそうだし、旅は明日からだ」


 感動するムラサメに適当に声をかけた景虎は、ヨーゼフの屋敷でその日は歓待を受ける事となり、久々に暖かな湯船につかり柔らかなベッドで寝る三人だった。

 翌朝、景虎達はヨーゼフと騎士達に見送られながらヴァイデン王都への旅を続ける。

 ヨーゼフからヴァイデン王都までの通行証のような書類と、身分を保証する書式などを受け取っていた為、それからの旅は順調に続ける事ができた。

 ある街では景虎達の為に大きな宴が催されたほどだ。


「うーん、何かさすがに気が引けてきたぞ、シャルロッテの奴どんだけ俺の話を盛ったんだか……」

「それだけではないと思うでござろうな。おそらく師匠が王族の方と近しい者だというのがわかっての宴でござろう。親しくなれば色々と力になってくれると思っているのではござらぬか?」

「あー、そーゆーんか、偉い人も大変だなあー」


 他人事のように語る景虎には自分にどれほどの価値があるかなどはわからず、ムラサメの言葉にもあまりピンとくるような感じではなかった。しかしシャルにもご馳走やベッドを提供してくれるという事だけは素直に感謝した。

 その後トラブルらしいトラブルも無く順調に旅を続け、予定通り三週間ほどで王都ヴァイデンへと辿り着く。

 ほぼ一年振りに訪れた王都は相変わらず巨大で、大陸一の首都らしく活気溢れる街のままだった。

 

「ひっさしぶりだなー、何も変わってねーな」

「でござるな、拙者がここに訪れたのは二年前でござるが、あの頃より人が増えたような気がするでござるよ」

「…………」

「ん? どしたシャル?」

「スゴイ……デス」


 景虎とムラサメは一度来た事もあるせいか懐かしいといった感じだったが、シャルはこんなに大きな街に来たのは初めてだったらしく、その大きさと人の多さに驚きを隠せないでした。

 

「師匠、これからどうするでござるか?」

「まぁとりあえず王城に行ってくるわ、早めにクリスタやヴィルヘルミナのねーちゃん達に色々報告しとかねーといけねーしな」

「では拙者とシャル殿はどこかの宿でお待ちしておくでござるよ」

「あ? おめーらも一緒に来ればいいだろが」

「い、いえ遠慮するでござる! 師匠が王家の方々と懇意の仲とはいえ、拙者には王族の方々は恐れ多いものでござれば!」

「ゴシュジンサマ……」


 ムラサメの言葉に景虎は面倒臭そうな表情をする。あまりそういった事には頓着のない景虎ではあったが、少し青ざめてるムラサメや、不安そうなシャルの顔などを見てると無理強いするのも良くないと考え、とりあえずまずは自分だけで王城に向かう事を決める。

 

「しゃーねぇな、んじゃムラサメ、シャルの事頼んだぞ」

「心得てござる」

「シャル、大人しく待ってろよ、すぐ戻ってくるからな」

「ハイ!」


 シャルの元気な返事を聞いた景虎は、一人王城へと向かう。 


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