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ドラゴンアックス  作者: kaz
白の章
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第五十九話 偽装


 ヴァイデンへ向う旅は三日目に入っていた――。


 ヴィルスムの港町を出て陸路でヴァイデンを目指す景虎(かげとら)は現在、馬車を止め途方に暮れていた。シャルが熱を出して寝込んでしまったのだ。

 シャルは気丈にはしているものの、苦しそうな息と噴出すような汗は、相当な熱を出しているというのが景虎でもわかるほどだった。フライハイトに治癒の魔法などをかけさせてはみるものの、病気のようなものには効果は薄いものだった。


「どっかで医者に診せてやりたいもんだが……」


 普通ならすぐにでも医者を探して診て貰うべきなのだが、この国ではどうもドワーフを人間として見てない節があり、シャルを診て貰えるかすら怪しかった。

 唸りながらどうしたものかと苦悶する景虎に、フライハイトが何かを思い出す。

 

『景虎、旅に出る前に薬のようなものを貰ってはいないのか?』

「薬? ……あ! そういやクラリッサさんが色々持たせてくれてたの忘れてたわ! 俺には必要ねーって思ってたが、いやぁ、さすがクラリッサさんだぜ!」


 フライハイトの言葉に、景虎はアインベックを旅立つ時に用意された荷物を漁る。中には旅に必要だと思われるものがコンパクトに纏められており、その中にはフライハイトの言ったように何種類かの薬も入れられてあった。その薬を拝みながら、改めて出来るメイドクラリッサに尊敬と感謝の念を込める景虎だった。

 

「おい糞ドラゴン、どれが熱下げる薬か字読めるか?」

『待て景虎、それは景虎の為の薬であろう? ドワーフのものはないのか?』

「え? 何か違ったりするのか? 薬なら効果一緒じゃねぇの?」

『種族によって毒になるものもあると聞いた事がある、闇の属性の者に治癒をかけると死に到るなどな、量や副作用などもあるであろうし、一応気をつけた方が良いのではないか?』

 

 フライハイトの言葉に景虎は再び頭を抱える。確かに言われてみればドワーフなど初めて見るし、もし薬が合わずさらに悪くなったらどうしたものかと考える。

 薬を見つめながら唸る景虎、と、その時――。


「師匠、何かお困りでござるか?」


 そこには景虎の武に魅入られ、弟子入りしようとずっと後を追いかけていたムラサメがいた。


「おま、いつの間に!」

「細かい事はいいではござらぬか、それで何かお困りのようでしたら、拙者が何かお力になれると思うのでござるが」

「あ? おめぇに何が……」

『待て景虎、一応この者に聞いてみたらどうだ?』


 ムラサメの言葉を無視しようとした景虎の頭に、フライハイトの言葉が響いてくる。


『このままではどうにもなるまい、聞いてダメなら諦めればよいし、もし何か妙案があるなら御の字であろう』

「こんなござる野郎に何かできるとも思えねーがなー」


 疑いながらもフライハイトの言葉を考える景虎、確かに今のままではシャルを助ける事はままならない、かといって医者のいる所に連れて行っても診て貰える可能性も低い、景虎は藁をも掴む思いでムラサメに問うた。


「実はドワーフの子供が熱出してな、どうすりゃいいのかわからんのよ、俺の分の薬はあるが飲ませていいのかわかんなくてな、ちと困ってる」

「ほうほう成る程、少しその熱を出されてるというドワーフの子供と、薬を見せて貰ってもいいでござろうか?」


 景虎は(うなず)き、ムラサメを馬車の荷台に乗せる。ムラサメは寝込んでいるシャルの額に触れ、熱を計った後景虎の持ってる薬を受け取る。中身を確認し、何やら考えた後景虎に笑顔で答える。


「師匠、この子供かなり疲れが溜まっていたようでござるな、それがここにきて一気に出たのでござろう。薬はこれを半分ほど飲ませれば大丈夫と思うでござる。後はゆっくり寝かせてやれば回復するでござろう」

「く、薬は飲ませて大丈夫なのか? 副作用とかないか?」

「問題ないでござるよ、この薬はそれほど強いものではないでござるし、ドワーフとはいえ拙者達人間とそう変わらんでござるしな。どちらかというとドワーフの方が頑丈だと聞いた事がござるが」


 その言葉にほっと胸を撫で下ろした景虎は早速シャルに薬を飲ませる。薬が苦かったのかしかめっ面をするシャルだったが、涙を流しながらも飲み込んだ。その後静かに眠り始めたシャルを見ながら、景虎はムラサメに頭を下げて礼を言う。


「助かった。俺じゃどうしていいかわからなかった。ほんとマジ助かったわ」

「も、勿体のうござる! 頭をお上げくだされ師匠! 拙者はできる事をやったまでの事でござるゆえ!」

「それでもだ、ほんと、ありがとうな」

「し、師匠~、で、では師匠、拙者を正式に弟子として……」

「それとこれは話が別だ。てめぇの師匠なんぞやらねぇよ」


 きっぱり言い放った言葉にがっくりと項垂れるムラサメ。そんなムラサメを見ながら大きな溜息をついた景虎は、ムラサメに静かに言葉をかける。


「俺みてぇなクソなんかよりすげぇ奴なんぞいくらでもいるだろ、探してそいつの弟子になれよ」

「いや! 師匠の強さは並外れたもの! それは戦った者だけがわかるものでござる! それに師匠には人を惹きつける魅力があるでござる! 拙者は師匠の弟子になりたいのでござる、どうか!」

「俺にゃあやんなきゃならん事があんだよ、命がけどころじゃねえほどのな。てめぇが俺を評価してくれんのは嬉しいけどよ、頼むから勘弁してくれ」


 寂しげな景虎の表情に声を詰まらすムラサメ、しかし景虎には何か成し遂げなければならない事があるのだと感じ取ったようだった。手を握り締め、それでもムラサメは景虎の事を師匠と呼んだ。


「師匠、ならばせめて旅の同道を許してはいただけないでござろうか!」

「は?」

「先日も申しましたが、拙者武者修行の為この西の地にやって参った次第! 十分にとは申せませんが、修行をし、一度国許へ帰ろうと思っていたでござる! どうか、師匠の旅に同道する許可をお願いするでござる!」


 言うとムラサメは再び地面に頭をつけるほどのDOGEZAをして景虎に頼み込んだ。呆気に取られた景虎だったが、溜息を吐いて申し出を断ろうとする。


『景虎、旅の同道くらいなら良いのではないか?』

「あ? てめまた面白そうだとか思ったな」

『それもまああるが、先ほどのドワーフの子供の事もあるし、旅というのは何が起こるかわからんものだ。景虎一人なら私の力でも何とかしてやれるが、連れがいるとなれば仲間が多いに越した事はあるまい』


 フライハイトの言葉に景虎は考える。確かにシャルの事は景虎だけではどうにもならなかった。この先も何が起こるかわからないとなれば、自分はともかくシャルを守る事も考えなければならないと考える。


「わかったよ、てめぇの国はヴァイデンの向こうって聞いたしな、一緒に行くくらいなら別にいいよ」

「師匠! ありがとうございまする!」


 喜ぶムラサメを見ながら景虎は再び大きな溜息をつきながらも、その姿を微笑ましく見つめていた。翌日、薬が効いたのかシャルの体調は回復し、景虎とシャル、そしてムラサメはヴァイデンへの道を再び進み始める。


「ヴァイデンに向うにはまずクルフの街に行って、そこからヴェーザー川を渡って大陸の東の街に行く事になるでござる」

「川を渡るって事は船に乗らなきゃならねぇって事だよな?」

「そうでござるが、何か問題が?」


 顔を曇らす景虎にムラサメが何事かと問う。一方の景虎は嘆息すると荷台に座っているシャルを見つめる。見つめられたシャルは笑顔で答えるものの、少し寂しそうな雰囲気を出していた。


「シャルはよ、ヴィスマルの街で売られてた奴隷なんよ。扱いが酷くて俺がつい引き取っちまったが、街じゃ酷ぇ扱いでヴァイデン行きの船にも乗せてくれなかったんよ」

「ああ、そういう事でござったか、確かにこのヴィルスム教国は一神教の教えによって国が造られており、人間以外を見下す事で信者の信仰心を維持していると聞いた事がござる」

「ちっ、いけすかねぇな」

「一神教の教えに人間だけが幸福になれる者で、それ以外の者は忌むべき者として扱われるそうなのでござる。さらに言えば災いが起これば奴隷のせいにして罪を贖わせ、教会の権威と威信を守るのでござるとか」


 淡々と語る話にどんどん不機嫌になっていく景虎を見て、ムラサメは咳をしてヴィルスム教国の話を終わらせる。


「しかし、確かに今のままではシャル殿は川の向こうへ渡る船には、乗せてもらえないかもしれないでござるな」

「ゴシュジンサマ、ワタシ、ルスバンシマス」

「馬鹿やろ! てめぇをこんな国に残していける訳ねーだろうが! 心配すんな、いざとなりゃ力づくでも何とかしてやっからよ!」


 怯えるようなシャルに向け、景虎は力づけるような言葉をかける。しかし実際川を渡る事ができなければ、ヴァイデンに入る事ができないのも事実だった。

 景虎の頭では妙案などが思いつくはずもなく、唸りすぎて変な形に身体がよじれていた。と、ムラサメが何かを思いついたように手をポンと叩く。


「師匠、拙者に一つ案があるでござる」

「何かあんのか?」

「はいでござる、全てこのムラサメにお任せくだされ!」


 自信満々のムラサメに少し不安はあったものの、シャルを船に乗せる為なら今は、とにかく何でも試すしかないと景虎はムラサメの案に乗る事を決める。

 ムラサメは景虎の了承を得ると、近くの村から何やら買ってくる。見ればそれは小麦粉だった。景虎はムラサメが何をするのかをじっとみていると、シャルの手を取りそこに小麦粉を水に溶かしたものを塗っていく。


「おいおい、まさか小麦粉塗ってシャルの肌の色誤魔化そうとか思ってねーよな? いくらなんでもそんなもんすぐにバレるぞ」

「もちろんでござる。これはまだ下地の段階でござってな、本番はこれからでござる」


 ムラサメはなおもシャルの手に小麦粉を塗っていき、手の甲が小麦粉で真っ白になった後、自分の鞄から何やら取り出す。

 それは手の平に収まるほどの大きさの青い勾玉のようなもので、ムラサメはそれに何やら呪文のようなものを唱えていく。しばらくして勾玉が小さく光りだすと、それを真っ白になったシャルの上腕にかざして行く、すると――。


「お! な、なんだぁ!」

「ゴ、ゴシュジンサマ……」

「シャル殿大丈夫でござるよ、ちょっとした術でござる」


 ムラサメの言うとおり勾玉の光を浴びた場所だけ白い小麦粉が無くなり、シャルの手の甲に白っぽい肌が自然な感じで現れていき、ドワーフの特徴的でもあった黒みがかった肌は完全に消え去っていた。


「す、すげぇ! なんだよこりゃあ」

「これは偽装の術でござる、変装や隠れる時に使うものでござる。小麦粉はあくまで媒体で、白いものに偽装する為に使ったのでござる、黒っぽくする時は炭を使ったりするでござるよ」

「これも魔法か?」

「魔法というほど大層なものではござらんな、この勾玉に宿った不思議な力を利用するというものでござるし」


 言うとムラサメは勾玉を景虎に見せる、まだ微かに光ってるそれはとても優しい光を放ち続けていた。


『これは精霊石だな』

「せ、せいれーせき? なんだそりゃ?」

『精霊の宿った石の事だ。魔法のように自由に扱えるものではないが、精霊に頼む事によってその石に秘められた力を利用すると聞いた事がある。種類も多々あって火の精霊石は火を司り、水の精霊石は水を司る力を使えると聞いた」


 フライハイトの言葉に景虎はこの世界にはまだまだ知らない事があるのだと改めて感じていた、と同時に、自分でも魔法のようなものが使えるかも知れないと言う事に興味も持ち始めていた。


「この石って、売ってるもんなのか?」

「大きな街などにはあるかもしれんでござるな、我が国では結構産出されるので比較的安価で買えるでござるが」


 ムラサメの言葉に、ヴァイデンの王都についたら探してみようと思う景虎だった。

 と、袖を掴む気配がしたので振り向くと、シャルが不安そうな顔で景虎を見つめていた。


「ムラサメ、これ、害とかないんだよな?」

「勿論でござるよ、元々この術は長く続くものではないでござる、大体半刻(一時間)くらいで効果は消えるでござるよ」


 半刻がどのくらいかわからなかった景虎だったが、害が無いというのと長く続かないと言う事に安心する。シャルもそれがわかったみたいでほっと胸を撫で下ろしていた。


「乗船する時だけこれでシャル殿の肌を偽装すれば乗り込めるでござろう、航行中は部屋の中から出ないようにして、降りる時にまたこの術で偽装すれば怪しまれる事無くヴァイデンへ向かう事ができるでござる」

「おおすげぇ! ムラサメおめぇやるな! ほんと助かったわ!」

「そ、そんな勿体無きお言葉! 拙者師匠の為ならば何でもやるでござるよ!」


 褒めた筈なのにムラサメは額を地面に擦りつける様にDOGEZAする。とにもかくにも船に乗る算段はついたので、景虎達はヴェーザー川を渡る為クルフの街へと向った。


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