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ドラゴンアックス  作者: kaz
地の章
6/76

第五話 咆哮

 ――リンディッヒ城から馬で半日ほどの場所に位置するフェッサー村――


 主に林業を生業としている木こりが多く住んでおり、北に位置する森は古くからこの村に大きな実りを与え続けてくれていた。鹿や猪といった野生の獣は出るものの、今まで魔獣の類は出た事がなかった。


 その村に魔獣は突然押し寄せてきた。始めは五匹ほどが木こりの老人を襲い、悲鳴を聞きつけた村の自警団の兵士達が村人を避難させ、弓を使い数匹を殺し一度は撤退させたものの、魔獣は数を増やして次々村に襲い掛かってきたのだ。数人の自警団では到底対処しきれず、村は瞬く間に魔獣達に蹂躙されていった。


 リンディッヒの騎士団が駆けつけた時にはすでに手遅れだった。村は炎に包まれ(うごめ)く影は全て魔獣のもの、逃げ遅れた村民はすでに皆殺しにされているのは明らかだった。


「おのれ!」


 怒りを込み上げる騎士団長ヴィクトール、他の騎士達もこの惨状に怒りを隠しきれないでいた。景虎(かげとら)も初めて見る戦場に怒りを露にし、紅い斧の柄を強く握り締める。


「ここもクソったれた世界かよ……」

『いつの時代も変わらんよ、何千年経っても殺し殺されといった行為は無くならん、いや、魔獣共にとってはこれはただの狩りなのかもしれんな、喰う為に殺すというただそれだけの』

「胸糞悪い事言ってんじゃねえよ! クソったれムカツク! クソったれ!」


 景虎が(いきどお)っているその横で騎士団は攻撃準備を始めていた。ここにいるのは騎士団の騎士三十名と、集められた兵士二十名。敵は二百との報告を受けていたものの騎士団の士気は高く、負ける事など誰も考えてはいなかった。


「全騎突撃せよっ!」


 ヴィクトールの声と共に気勢を上げ突撃をかける騎士達、一方リンディッヒの騎士達に気づいた魔獣達も耳をつんざくほどの奇声を上げ騎士団に向かって攻撃をし始める。

 双方激突し戦いの火蓋が切って落とされた。数で劣るものの騎士達はその武力を如何なく魔獣に叩きつけた。特に騎士団長ヴィクトール、ロニー、ヨハンは流石といった腕前で次々と魔獣達の息の根を止めていく。しかしやはり数の差は大きく、次から次へと集まってくる魔獣達を相手にして騎士達の疲労も蓄積され、一人また一人と命を奪われていった。


「引くな! 怯むな! 今こそ騎士団の力を見せる時だ!」


 ヴィクトールの声に呼応する騎士達、しかし魔獣はさらに数を増やしていく。騎士達に焦りが見え始めた時、一人駆け抜ける者がいた。慣れない戦いの為出遅れたその少年は、重そうな自身の身長ほどもある紅い斧を担ぎながら、馬と同じほどの速さで魔獣の集まっている場所に切り込み、その斧を大きく振るった。


「ふっ飛べゴラアア!」


 爆音が響き渡り、土煙が巻き起こると同時に無数の魔獣が空を舞う。騎士団も兵士も、そして魔獣すらその光景に動きを止めて呆然と見てしまう。

 圧倒的な力で斧を振るうと魔獣達は次々吹き飛ばされ地面に叩きつけられていく。景虎の鬼神かと思うほどの活躍に動きを止めていた騎士達は我を取り戻し喚声を上げる。


「いまだっ! 我らも景虎に続けっ! 魔獣共をこのリンディッヒの大地からすべて駆逐するのだっ!」

「「おおおおおおおおおおおおお」」


 それからの戦いは一方的となった。景虎に恐れをなした魔獣達は逃げ惑い、それを騎士達が一方的に蹂躙していった。

 戦いはリンディッヒの騎士達の大勝利に終わり、戦場には百を超える魔獣達の死骸が残された。だが騎士団も無傷という訳ではなく、死んだ騎士は四人、負傷者は十名に及んだ。それでもリンディッヒの騎士達は沸いていた。


「凄いぞ景虎! なんだよありゃ? おめー一体何者なんだよ!」

「いやぁ、カティア様から景虎が魔獣を一人で退治したなんて話を聞いてたが、実際に見てみると凄いものだな」

「がはははは! さすがリンディッヒの騎士だ!」


 皆に囲まれ珍しく褒めちぎられている景虎は柄にもなく照れていた。その後残った者たちは、殺された村人達の無残な遺体を埋める作業に取り掛かる。この作業には景虎も最初は参加したのだが、たち込める血と臓物の悪臭、すでにその原型すら留めてはいない焼かれた村人の身体の、そのあまりの凄惨さに気分が悪くなってしまう。


「大丈夫か景虎?」

「はぁはぁ、悪ぃ、ちゃんと手伝うから…… くそっ、くそっ!」

「無理するな、お前がこういった事には慣れていないのは見ていればわかる。後は俺たちでやっておくからお前は休め」

「んなダセェ事できっかよ! 大丈夫だよ、そのうち慣れるから……」


 今にも吐いてしまいそうなものを必死で押し込め、景虎はふらつきながらも死体の処理をすべく穴を掘る作業を手伝おうとする。しかしそんな景虎の服を掴むとぐいと引いて地面に倒すロニー。突然の事に対応できなかった景虎はそのまま背から倒され、頭を強打してしまう。文句を言おうとした景虎に、ロニーは今まで見せた事もないような怒りの表情を露にする。


「お前は休めと言っているんだ! 無理をされてもこちらが困ると何故わからんのだ! お前はもう十分すぎる仕事はやった、後は俺達に任せて休んでいろ、いいな!」


 そう言い放つとロニーは元は人間だったであろうものを担いで持っていく。ロニーの言葉に反論できなかった景虎はそこに座り込んで皆の作業を眺めていた。人の死や魔獣の死体はカティアを助けた時に見たし、その後死体の処理も自分はした。その時も初めて人の死を見て気分が悪くなったのは確かだったが、何とかやってみせた。


 だが今は気分が悪くまともに動けなかった。原因は初めて何かを”殺した”からだった。騎士達が苦戦しているのを見て無我夢中で斧を振るう。振るえばどうなるかもわかっていたが、それでも皆を守る為と何度となく振るい魔獣を薙ぎ払った。そしてそのうちの何匹かを薙ぎ払った時、”ぐちゅり”という肉を(えぐ)り取る嫌な感触を感じた。間違いなく魔獣は即死する致命傷を受けて絶命したはずで、景虎はその感触が忘れられなかった。


『大丈夫か景虎?』

「情けねーな、あんだけ啖呵(たんか)切っておきながらこの有様だ、ほんと格好悪ぃ……」

『初めての戦いだったのだ仕方あるまい、私も今まで多くのものを殺してきたが、慣れてくればどうという事はなくなるはずだ』

「人じゃねえてめぇの経験で語るんじゃねーよ! けど確かにそうかもしんねーな、ここで生きてくならこういうのに慣れなくちゃいけねーのかもしれねえ、くそっ」


 景虎がフライハイトに愚痴ってる間も、騎士と兵士達は手際よく次々と遺体の処理をして一つにまとめていく。この後は火を放ち、死体を焼く作業をするだけだったので景虎は手伝いに戻ろうとするも、ロニーに凄く睨まれてしまう。負けじと睨み返す景虎としばらく睨み合ってたが、その間にヨハンが割って入る。


「もう作業も終わるしお前はそこで休んどけって、ロニーはああ見えて怒るとほんと怖ぇーからよ」

「くそっ、俺ぁただ手伝おうとしただけじゃねぇか!」

「あいつが怒ってるのはそれだけじゃねーんだよ、なんていうかお前に無理させたくねーっていうか」

「何だよそれ?」


 ロニーがこちらを一瞥した後作業に戻っていったのを確認すると、ヨハンはロニーの昔話を景虎に話しだす。


「ロニーには弟がいてな、年は十五、景虎と同じくらいだな。半年前魔獣の群れが現れて、俺達は今日みたいに魔獣討伐に向かったんだ。その時は騎士は七十人はいたし、歩兵の数も五十はいた。戦いは一進一退だったがなんとか勝つ事ができたんだよ、けど被害も結構あってな、その中にロニーの弟もいたんだよ」

「マジかよ」

「ロニーの弟は剣の腕こそ中々なものだったが、実践経験なんぞ一度もなくてな、いざ戦場に立ってみたら恐怖で動く事すらままならなかったんだ。けどあいつもいずれ騎士になろうという気概のある奴でな、無理を押し通して魔獣に向かっていって…… 死んだ」

「……」

「ロニーはお前に弟の姿を被らせているのかもしれねーな、お前の事を一番面倒見てるのはあいつだし事あるごとに言ってるぜ、お前がここにいてくれればいいのにってよ」


 その言葉に景虎はヴィクトールの誕生日会の夜の事を思い出す。ここに居ついたらどうかと言われた時景虎は拒否した。それを寂しそうに見ていたロニー。

 ヨハンは一息つくと作業を手伝う為に戻っていく、景虎はその後動く事ができなかった。


『どうした景虎、先ほどより元気がないように思えるが』

「俺の事を考えてくれる奴がいるってわかってちっとな……、どうしていいのかわかんねー」

『何度も言ってるが素直に好意に甘えれば良いと思うのだがな』

「そうだな、それがいいのかもしれねー、けど俺はよ……」


 そう言うと景虎は口を閉ざす、フライハイトもそれ以上は聞いてこず時間だけが過ぎ去っていった。集められた村人の死体に火がつけられる。油をかけられていたその死体の山は少しずつ燃えていき、大きな炎へと変わっていった。

 騎士たちはその炎の前で黙祷し、死んでいった村人達の事を想い涙を流していた。景虎もその炎を見つめ、不謹慎だと思いながらも綺麗な光景だと思っていた。


 魔獣の死体は量が多すぎて焼ききれなかった為土に埋める。まだここには殺しきれなかった魔獣の残りがいるが、守るべきものがない為騎士団は一旦リンディッヒ城へ帰還する事を決める。あれだけの戦いだったにも関わらず、被害が少なかったというこの状況は、誇るべきものだった。


 来る時は火急の事態だった為馬を走らせたが、帰りは緩やかに移動する騎士団。負傷した兵を休ませながらの行軍の為、リンディッヒ城に着くのは翌日の昼となる予定だった。

 暗くなり野営の準備をし、近隣に住んでいる住民から食料を買って食事をしながら、無事に生き残る事が出来た事に感謝を捧げる。景虎も初めて命を奪った戦いに様々な事を考える。


『やはり命を奪うという行為をまだ受け入れる事はできないか』

「さぁな、ただまあ殺さなきゃ殺されるって状況ならやるしかねーとは思ってるよ、後は人間相手に割り切ってできるかって所だな」

『同族を殺すのはやはり躊躇(とまど)うか』

「てめーだって同じドラゴンを殺すとかになったら躊躇ったりはしねーのかよ」

『しないな』

「てめーに聞いた俺が馬鹿だったよ」


 元ドラゴンのフライハイトに、人と同じような感覚を持ってると考えた事に無理があったと呆れる景虎。一方フライハイトは何故景虎が項垂(うなだ)れてるのかがわからなかった。

 季節的には夜でも過ごしやすい気候、裸で寝るような事さえしなければ風邪を引く事もない為、そのまま草むらの上に寝転び騎士達は眠りに落ちる。

 起きているのは交代制の見張り、最初はロニーとヨハンがその番をしていた。

 景虎は昼間の事を思い出し、ロニーに話をしようと考えたのだが睡魔が襲ってきた為、リンディッヒ城に戻ってから話をしようと決めて眠りにつく――。




『おい景虎起きろ、景虎!』


 頭に響く声に何事かと目を擦りながら起きる景虎、声の主がフライハイトだとわかって今一度寝ようとしたのだが、先ほどより大き目の声で頭に響いてくる。


『馬鹿者寝るな! よく聞け景虎、何か来るぞ!』


 何か来るという言葉にさすがの景虎も目を覚ます。


「来るって、何がよ?」

『わからん、だが何か嫌な予感がする』


 正直フライハイトの言う事が理解できない景虎ではあったが、何か来るという言葉が気になった。起きたばかりの重い身体を起こし周りを見回すと、まだロニーとヨハンが番をしていた。向こうもこちらが起きた事に気づいたのか、ヨハンが小声で景虎に話しかけてくる。


「おいどうした景虎、眠れないのか?」

「いや、何か知らんが何かが来るそうなんだよ」

「は? 何だそれ? 何が来るっていうんだ?」

「俺にもわかんねーよ! ただちょっとヤバいかもしれないとか言っててよ」

「言ってるって誰が?」


 景虎が的を得ない感じで話している事が気になったのかロニーが問うてくる。それに景虎が答えようとした時、地響きが起こる。


「な、なんだ!?」

「地震!?」


 それはさらに大きくなっていき、寝ていた騎士達も異変に気づいて次々起き上がる。立っていられる事ができないほどに大地が揺れると、流石にこれは尋常ではない事態だと皆気づき始める。


「落ち着け! 馬を静めろ!」


 ヴィクトールが大声を上げ騎士達に命令する、(いなな)きを上げ興奮する馬を必死になんとかしようとする騎士達。他の騎士達もこの状況に耐え、景虎もフライハイトを支えに必死で耐えていたが、頭に響いてきた次の言葉に緊張感を増した。


『来たぞ景虎、死なぬよう私に捕まっていろ!』


 次の瞬間地面にヒビが入り次々と崩れていった。景虎と騎士達はそれに巻き込まれヒビ割れた地面の中へと次々落ちていく。あちこちで悲鳴が聞こえ、割れた土に埋もれる騎士達。景虎もその中に巻き込まれそうになったがフライハイトの瞬間移動の能力で、その場所から五十メートルほど離れた安全な場所に移動していた。


『大丈夫か景虎』

「あ、ああ、そうかてめーにゃこーゆー便利機能があったんだったな、ってかこんなのがあんなら他の奴等も助けてやってやれよ!」

『悪いがそれは無理だ、これが出来るのは我が力を得た者のみ、つまり景虎お前にだけしかできないのだ』


 舌打ちしながらも助けられた事には感謝した景虎はすぐに皆の事に気づき、先ほどいた場所を見て愕然とする。

 数分前まで騎士団と自分達が休んでいたその場所は二十メートルは陥没し、大きな穴が開いてその穴からは、埋もれた騎士達の苦痛の声と助けを呼ぶ声が聞こえてきた。景虎はすぐさま走り出し皆を助けようとするも、再び地響きが起こる。しかし今度の地響きは、何か大きなものが近づいてくるようなものだった。


「なん……だ、あれ?」


 景虎が見つめるその先にいたのはまるで動く山だった。しかもそれは少しずつこちらに近づいて来るようだった。ヒビ割れ陥没した地面の中、苦痛に歪める騎士達もそれに気づき恐怖に怯える。

 少しずつ近づくその山のようなものが月明かりに照らされ、姿を見せ始めると言葉を失う景虎と騎士達、恐怖に怯え、騎士の一人がそれの名前をポツリと(つぶや)く。


ドラゴン()だ」


 月明かりで照らされ騎士達の前に現れたのは、全高だけでも三十メートルはあろうかという羽のない巨大なドラゴンだった。眼は赤く、身体は土色をしたそのドラゴンはまるで獲物を見つけたというように騎士達に向かってくる。


「なん……だよアレ、て、てめーの仲間か!」

『種族という意味では同じドラゴンではあるが、奴はいわゆる地竜(アースドラゴン)というやつだ』

「アースドラゴン?」

『ああ、羽を持たぬドラゴンよ、土の中に住み、動きは鈍いが能力で土を操り獲物を狩るのだ。しかもドラゴンの中でも最も堅い鱗を持つ厄介な奴よ』


 確かに厄介そうだと景虎は思った、頭から尻尾までの長さは百メートルはあろうかという巨体に堅い鱗、こんなものに襲われたらどんなものだってひとたまりもなく粉砕されてしまうのではないかと。そのあまりの巨体に呆然としていた景虎だったが、騎士団の皆が危険な状態にある事に気づく。


「おい逃げろ! 皆早く穴から出て逃げるんだよ!」


 必死で声をかける景虎、しかし騎士達もそれはわかってはいた。だが陥没した穴は深く、土に埋もれた中ではまともに身動きが取れない。重い身体でゆっくりと近づくアースドラゴン、荒い息を吐き、騎士達をまるで値踏みするように見渡し、そして襲い掛かっていく。


「ぎゃあああああああああああ」


 一人の騎士がアースドラゴンの餌食となる。その光景に恐怖する他の騎士達、必死で陥没した穴から抜け出そうともがくも上がる事はできず、そんな騎士達を嘲笑(あざわら)うかのようにアースドラゴンはさらに別の騎士を喰らう。


「やめろ…… てめぇやめろぉ!」


 叫ぶ景虎は手に紅い斧を持ち、アースドラゴンに向かい走り出す。だがその瞬間足場が再び崩れ、景虎は斧を手放し穴に落下してしまう。その音に気付いたのかアースドラゴンは次の標的を景虎に定め、捕食しようと動き出す。と、その時アースドラゴンに剣を向ける者がいた。


 その人物はまるで自分におびき寄せるかのように、高らかに叫ぶ。


「アースドラゴンよよく聞けい! 我こそはリンディッヒ騎士団団長ヴィクトール=ベルマンなり! いざ我と勝負!」


 その人物は騎士団長ヴィクトールだった。彼はアースドラゴンに対し無謀とも言える名乗りを上げていた。その声に反応したアースドラゴンはヴィクトールに首を向ける。


「ヴィクトール様!」

「逃げてくださいヴィクトール様!」


 騎士達が必死でヴィクトールに逃げるよう請う、だがそんな騎士達に彼は大きな笑い声で答える。


「がはははは、逃げる訳にはいかんわい! いいかよく聞け若き騎士達よ! 騎士というものはどんな時でも恐れてはいかん! 目の前に如何な強大な敵がいようと護るものがある時は戦え! だが簡単に命を捨てるような事はするな!」

「「ヴィクトール様!!」」

「と、言っとるわしが今まさに命を捨てようとしておるか、がははは! まあ剣も魔法も効かぬドラゴンを相手に、騎士道もへったくれもないわな」


 アースドラゴンの口が大きく開かれる。その前で臆する事無く剣を向け続け、対峙しているヴィクトールに景虎は必死に声をかけ続けた。


「お、おいやめろよおっさん! おっさん!!」

「さらばだ若き騎士達よ!」


 景虎が最後に見たヴィクトールの顔は満面の笑みだった。アースドラゴンの口の中に運ばれるまで、彼は騎士の誇りを胸に抱いて死んでいった。

 誰もが信じられないといった顔をしていた。その前でアースドラゴンは満足げに喉を鳴らし、新たな獲物を捕らえようと(うごめ)いていた。

 直後に誰かが叫ぶ。その声に呼応するかのように、残った騎士達は怒りを露にして剣を抜きアースドラゴンにへと襲い掛かる。勝てないのは誰もがわかっていたが、それでもただ無様に殺される事だけは絶対にさせるつもりはなかった。

 

 ヴィクトールが見せた騎士としての誇りを、自分達が汚すわけにはいかなかった。その中で一際鋭い剣を振るうロニーがいた。彼はその自らの剣をアースドラゴンに何度も叩きつける。だが彼の鋭い剣でも堅い鱗には傷らしい傷をつける事はできなかった。ヴィクトールが言ったように、ドラゴンには剣も魔法も効かないのだ。


「うおおおおおおおお!」


 ロニーに続き他の騎士達も剣を振り下ろす。しかしロニーと同じく堅い鱗に弾き返され傷一つつける事ができない。それでも騎士達は剣を振り続けた。そんな騎士達を嘲笑うかのように、アースドラゴンは首を大きく振り上げ叩きつけて騎士達を衝撃で吹き飛ばす。ロニーもまたその衝撃によって大きく吹き飛ばされ岩壁に激しく激突する。


「がはっ!」


 まるで糸の切れた操り人形のように崩れ落ちて動けなくなるロニー、それでも彼はアースドラゴンを睨み続ける。次の獲物はお前だとアースドラゴンが言った気がした。

 動けなくなったロニーを値踏みするように見ると、その口を大きく開き飲み込もうとする。


「いい加減にしやがれこのクソがぁ!!」


 大声の次に爆音が響き渡る。今まさにロニーを口にいれようとしていたアースドラゴンは爆音のした方向を見る。そこにいたのは赤い斧を地面に突き立てた景虎だった。土煙が舞う中、景虎は怒りに打ち震える。ヴィクトールを殺し、ロニーに大怪我をさせ、さらに騎士団の面々を喰い尽すアースドラゴンへの怒り、そして何もできなかった自分に対しての怒り。


「そこ動くなよてめぇ、さんざ好き勝手やりやがって……」


 睨みつける景虎は、アースドラゴンに向け咆哮を上げる。


「てめぇは絶対にぶち殺してやる!」


やっぱ竜

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