第四話 騎士団
――リンディッヒ城――
その中庭では初老の騎士と、一人の少年が模擬戦をしていた。
「いくぞ小僧!」
「元気だなおっさん!」
初老の騎士の名はヴィクトール=ベルマン、リンディッヒ領の騎士団の団長を務める男である。十四歳にして騎士に任じられてよりリンディッヒの為に働き、数々の武功を上げ領主のリンディッヒ子爵の信任も厚い。騎士団の中では現在このヴィクトールに敵う者はいないのだが、相対する出雲景虎という少年は、そのヴィクトールをもってしても適わないほどだった。
景虎の放つ一打一打は重く、甲冑を着込み景虎の二倍はあろうかという体重のヴィクトールを何度も吹き飛ばすほどだった。それを見守るリンディッヒの騎士達は、信じられないといった表情をして戦いを見つめていた。
一瞬の隙を突いて放たれた景虎の剣がヴィクトールの胴を捉えると、初老の騎士は苦悶の表情を浮かべ、息を詰まらせ膝から崩れ落ちる。
「い、出雲景虎殿の勝ち!」
静寂が支配する中、はっと気づいた審判役の騎士が手を上げて勝ち名乗りを上げる。景虎はふうっとひと呼吸し、膝をついているヴィクトールに近づき声をかける。
「大丈夫かおっさん?」
「し、心配はいらんわい! 貴様とは鍛え方が違うからな! がっははは!」
「あんま無理しねー方がいいぞおっさん、もう年なんだろ?」
「む、無理などしておらぬわ馬鹿者っ! 見ろこの雄姿をっ! わしはまだまだやれるぞ! さぁもう一試合だ景虎!」
足元がふらつき明らかに無理をしているヴィクトールを、他の騎士達が集まり必死で止めようとする。
「も、もうやめましょうよヴィクトール様、これ以上は無理ですって!」
「そうですって、もういい加減年を考えなさいって」
ヴィクトールの左腕を掴んでいるのは騎士団の一人ロニー、黒髪のその青年は騎士団の中で一番背が高く、端正な顔立ちをしたいわゆる好青年という人物だ。
そしてもう一人、ヴィクトールの右腕を掴んでいるのは同じく騎士団の一人ヨハン、栗色の長髪を後ろで結んだ遊び人という感じのこの青年は、規律の厳しい騎士団の中にあって、訓練をさぼるなどの行為を度々行う問題児だった。
しかしいざ実戦となると他の騎士とは比べられないほどの活躍をみせ、さらに騎士団の中ではヴィクトールに次ぐ人望を得ている為、中々無碍にはできないでいた。
ヴィクトールの両腕とも言われるこの二人の騎士も、腕前はかなりのものではあるのだがそれでも景虎には敵わなかった。
「じゃあまたな景虎」
「おう、そのおっさんにはあんま無理しねーようにちゃんと言っといてくれな」
「なんじゃとおおおおおおおお!」
「はいはい、行きましょうね」
雄叫びを上げるヴィクトールをロニーとヨハンの二人の騎士がズルズルと引きずっていく。ようやく静かになったその場所で、景虎は模擬戦の為借りていた剣を近くに置いて部屋に戻ろうする。と、そこに美しく長い黒髪をなびかせた少女が近づき、声をかけてくる。
「景虎殿流石ですね」
景虎を褒め称える可愛い声の主はこのリンディッヒ領の領主の娘カティア。白く透き通るような肌をしたその少女は、汗を拭くタオルを景虎に渡すと先ほどの模擬戦の感想を興奮気味に語る。
「あのヴィクトール様を倒す人なんて私初めて見ましたよ」
「今の俺はちょっとインチキしてるようなもんだしな、まぁそれでも負けるつもりはねーけど」
「景虎殿はほんとにお強いんですね」
太陽なように暖かい笑顔を向けるカティアに景虎は眩しさすら感じてしまう。と、その時多くの視線を感じ、その方向を何気に見てみると騎士達が睨む様な目でこちらを凝視していた。
カティアはどうやらここではアイドルのような存在らしく、そんなカティアにぽっと出のどこの馬の骨ともわからない奴がちょっかいを出しているのだから、面白くないのは当然だろう。
景虎自身はカティアに対して別に特別な感情を抱いてる訳ではなく、謂れの無い悪意というのは筋違いだと抗議したかったが、恐らく誰も耳を貸すまいとわかっていた。それでも自己防衛の為カティアを遠ざけようとする。
「あー、とりあえずお前はしばらく俺に近づくな、いいな」
「何故ですか?」
ぴょこんとジャンプすると、景虎の目の前にまで顔を近づけ問うカティア。
いつもこうだった。景虎がどんなに距離を開こうとしてもこの少女は屈託の無い笑顔と、警戒心がまったくない様子で近づいてくるのだ。
息遣いさえ聞こえそうなほどの距離にさすがの景虎もたじろいでしまう。その様子を楽しげに見るカティアはとても幸せそうだった。一方の景虎は――。
”死ね 死ね 死ね 死ね……”
嫉妬の眼差しで人を殺せそうなほどの無数の殺意を向けられてる事に、溜息しか出てこなかった。
景虎がこのリンディッヒ城に住む事になってから、早くも十日が過ぎていた。すぐに出て行くつもりがカティアの妨害(?)により、結局ズルズル居ついてしまう。
ある日の事、リンディッヒ城の城壁に登り外をボケーッと眺めていると、ロニーとヨハンの二人が近づいてくる。
「やあ景虎、こんな所で何をしているんだい?」
「こっから出ていくにはどうしたらいいのかってのを考えてんだよ」
「それはまた、出て行くつもりなのかい? ここを?」
景虎の言葉にロニーは何故かという感じで聞いてくる。少なくともここでの景虎はカティアの命を救った恩人として厚遇されているし、そのカティアからも誰からもわかるほどの好意を寄せれれているのもわかっていた。普通なら出て行く理由もなく、そんな景虎を羨ましく思うヨハンがその理由を聞いてくる。
「俺ならここにずーっと居ついてたいけどねー、何が不満なのよ?」
「別に不満なんかねーよ、ただなんつーか居心地が悪いってのが理由だろうな、後ちょっと探すもんがあるんだよ」
「探し物?」
「自分の居場所へ戻る方法だ」
その言葉にロニーとヨハンは「?」という感じだったが、景虎は相変わらずどう説明していいかわからず頭を掻くばかり。二人を置いて下に下りようとするのをヨハンが止める。
「あ、待ちなって、実は今日はお前に用があって探してたんだよ」
「用? 何よ? また模擬戦とかすんのか? 正直もう簡便してくれ、結構疲れるんだよアレ」
「わかってるって、ここにいる者じゃお前にゃ勝てないってのはもうわかってるしな、用ってのはヴィクトール様の誕生日会にお前を誘いに来たんだよ」
「誕生日会? そんなもんに俺なんかが行ってもいいのかよ」
「おうよ、というか騎士団の者は皆集まって祝う事になってんだよ。ヴィクトール様が決めた事だが、こういう場で騎士団の結束を固めるとかでな」
「いつ俺は騎士団に入ったんだよ……、けどまあなんかそーゆーの好きそうだよなあのおっさん」
その言葉にうんうんと頷く二人、しかしロニーとヨハンの二人はそれが別に嫌いという訳でもないようだ。何だかんだであのヴィクトールという騎士団長は好かれているのだと景虎は思っていた。
誕生日会のようなものは施設でもあった。あまり食べれないものを食べたという記憶はあるが、美味しいと感じた事は一度もなかった。楽しいと感じた事もなかったし、祝い事など自分には関係ないもの、そういう人生を送ってきていた。 そんな昔の事を思い出していると、ふと景虎はある事が気になったのでロニーに聞いてみる。
「その誕生日会ってのに、カティアは来るのか?」
「カティア様? いや、ヴィクトール様の誕生日会は基本騎士団の団員だけで行っているものだからな、酒に溺れ無礼講になって喧嘩など始める事も多々あるし、怪我などされては困るので来させないようにはしているが……」
「行くわ」
即答だった。別に景虎はカティアが嫌いという訳ではないのだが、彼女が必要以上に景虎に良くしてくれる事が何だかこそばかったのだ。
さらにあの屈託のない笑顔で迫られると景虎は一切反論ができなかった。景虎の言葉にロニーとヨハンは顔を見合わせ、カティアのふくれっ面を思い浮かべて肩を竦む。
――ヴィクトール邸――
夜になり景虎はヴィクトール邸へと向かう。リンディッヒ城から少し離れた場所にある大きい屋敷で、中にはすでに騎士団の騎士六十人が集まっていた。
「よくきたな景虎! 歓迎するぞ!」
「あー、なんていうか、招待してくれてありがとうな」
「がははははは! そう恐縮するな! 今日は無礼講だ。飲んで食って楽しんでゆけ!」
その言葉が合図になったかのように、騎士団の面々は酒の入った杯を掲げる。そのまま大騒ぎになるかと思った景虎だったが、騎士達は皆眼を閉じ、ヴィクトールの次の言葉を待っていた。
「今日は私の誕生日会に皆良く来てくれた! 本来なら満面の笑みで皆に感謝を表したいが、そういう訳にもいかぬ! 何故ならここにいるべきヴィレム、ダニー、ロナルド、フランク、ショーン、アルミンの六人の騎士達が任務の際命を落としたからだ!」
その言葉に涙を浮かべる騎士達、景虎も死んだ騎士達という言葉でカティアを護る為、命がけで戦ったあの騎士達の事を言っているのだと思い出す。最後まで逃げる事無くカティアを護りきった六人の騎士達――。
「彼らこそ真の英雄である! その尊い彼らの意思を忘れぬよう、心せよリンディッヒの騎士達よ!」
ヴィクトールの言葉に騎士達は雄叫びを上げる。そして持っていた杯に入った酒を一気に飲み干した。
「「リンディッヒの為に!!」」
改めて自分達の護るべきものの名前を挙げる。これが同じ心を持つ者達というものかと、ずっと一人で生きてきた景虎にとっては、この騎士達は眩しいものだった。
騎士達はまるで寂しさを打ち消すかのように酒を浴びるように飲み、出された料理を瞬く間に食い尽くしていった。その光景をあっけに取られて見ていた景虎に、結構な量の酒を飲んだであろうヨハンが赤い顔をして近づいてくる。
「景虎飲んでっかー!」
「飲むかよ! こっちは未成年だぞ、ってか近づくんじゃねーよ酒くせぇ」
「みせいねん? なにそれうまいの? まぁいいやとにかく楽しんでけよー」
そう言うと笑いながらフラフラと立ち去っていくヨハン。見れば周りでは殴り合いの喧嘩も起こっていたりもするが、それを止める者もおらず逆に盛り上がっている有様。ほんとに騎士なんだろうかこいつらと呆れてる景虎は、ここにカティアがいなくてよかったと改めて思ったりしていた。
――その頃のリンディッヒ城――
「どうしたカティア、そんな不機嫌そうな顔をして」
「別に何でもありません」
この城の領主リンディッヒ子爵とその妻コンスタンツェ=リンディッヒ、娘のカティアの三人はいつものように食事をしているのだが、今日に限ってはカティアがふくれっ面をしていて不機嫌オーラ全開なのだった。
その様子に身体の具合でも悪いのかと心配するリンディッヒ子爵に、妻コンスタンツェが笑みを浮かべ、その理由らしきものを説明する。
「あれですよ、ほら、カティアのお気に入りの斧使いの少年が、今日はヴィクトール殿の誕生日会に招かれていないものですから」
「お母様!」
母親に図星をつかれてつい語気を荒げてしまったカティア。すぐにすみませんと謝るとまた黙々と食事を続ける。別に景虎が悪い事をした訳でもないし、ヴィクトールの誕生日会はずっと騎士だけのもので行けないのはしょうがないとカティアも理解はしていた。しかし景虎がヴィクトールの誕生日会に行くと言われた時に、何故か少し寂しく感じてしまったのだった。
「はぁ……、私も行きたかったな」
――再びヴィクトール邸――
そこはすでに死屍累々といった状態になっていた。散乱した料理に酒、その上でグロッキー状態の騎士達がつっぷしていた。
「こいつらほんとに騎士かよ……」
そう言わずにはいられないほどの醜態に景虎もただ呆れるばかり。元気なのはヴィクトールとロニー、ヨハンと数人の騎士のみといった所だろうか、彼らはまだ酒を飲み続け、談笑に花を咲かせていた。
この誕生日会が始まってすでに半日は経っていただろうか、その間ずっと飲み続けている彼らに景虎は恐怖すら感じるものだった。酒と汗と脂っこい食事が混ざり合って濁った空気に、さすがに気分が悪くなった景虎は外に出る。外はすっかり暗くなっており、漆黒の夜空には美しく光る綺麗な満月が映し出されていた。
「ここにも月はあるんだな、けどやっぱ元いた所の月とは何か違うか」
「何が違うって?」
声をかけられた方を向くと、先ほどまでヴィクトールと談笑していたロニーが杯を二つ持って立っていた。
酔ってはいるもののの、爽やかな顔を向けるロニーは持っていた杯の一つを景虎に向ける。
「いや、だから俺は酒は飲めねーっての」
「これは酒じゃないよ、さっきメイドに用意させたジュースだ」
そう言われて受け取った杯を匂うと、確かにアルコールの匂いはなく、果物の甘い香りのする飲み物のようだった。ならばと口に運んだ景虎は、その甘くて爽やかな飲み越しに満足する。
それを見届けるとロニーはもう一つの杯に口をつける。こちらは間違いなく酒であろう。屋敷の中からは楽しげな笑い声が聞こえ、そんな声を聞きながらロニーは景虎に話し始める。
「どうだ? この誕生会は? 楽しかったか?」
「まぁ面白かったわ、何か今までキザだと思ってた連中がこんだけグダグダになっちまうなんてなーって思ってよ」
「ははは確かにな、まぁ今日は上下関係も何も無い無礼講だ、羽目を外して今までの疲れを癒してくれれば何よりっていう集まりだしな」
そう言うと杯に残っていた残りの酒を一気に飲み干すロニー、結構な量を飲んでるにも関わらず、見た目は少なくともシラフな状態のロニーは、結構なうわばみなんではなかろうかと景虎は思っていた。
「景虎、お前このままここに居ついたらどうだ?」
「あん? 何だよ急に」
「ここはいいぞ、良い奴ばかりだし領主のリンディッヒ様は領民を労われるお方だ、確かに今は度々魔獣が現れ領民の命を脅かすので平和とは言い切れないが、住むには最適な場所だと思うぞ」
熱く語るロニーの話を景虎はジュースを飲みながら静かに聞く。
「それにカティア様はお前の事をかなり気に入ってるようだし、上手く行けば逆玉の輿となれるかもしれんぞ、だから……」
「悪ぃけどここに居つくつもりはねーよ、少なくとも今はまだな」
ロニーの言葉にきっぱりと答える景虎。
「……理由を聞いていいか?」
「前も言ったが俺はまだ自分の元いた居場所に帰る事を諦めちゃいないんだよ、そこは確かにクソみたいな場所でここに比べりゃ屁みたいな所だ、帰った所で誰が待ってる訳でもねーし、すぐに命落として死んじまうかもしんねー」
「なら……」
「けどだからってそこから逃げるのは嫌なんだよ、俺はまだそこで何もやっちゃいねーしな」
「………」
「別にここが嫌いってわけじゃねーよ、ただ俺は逃げるのだけは嫌なんだよ、クソみてーな所だから逃げるとか、そんな事をやっちまったら俺は俺の大嫌いなクソ野郎共と同じになっちまうからな、だから……」
景虎は一呼吸して言葉を続けた。
「俺は逃げねぇ」
そう言い切った景虎にロニーは夜空を見上げる。その横顔は何かを考えるようではあったが、景虎にはそれが何かを詮索するつもりはなかった。
景虎はその場を離れると予め用意されていた休憩室へと向かう。酒も飲めないのに飲兵衛達に付き合って徹夜をするつもりもなかったし、何より自分は未成年だしと、あまり使わない常識を持ち出し眠ることにした。
それからさらに数日が過ぎた――
周りはいつも通りの風景、ヴィクトールの誕生日会に集まっていた騎士のうちの半分はリンディッヒ領の各地へ警備の為に赴いていった。騎士団長のヴィクトール、ロニーとヨハンはいつも通り訓練に励んでいる。誕生日会の日に景虎にここにいるようにいったロニーはその後その話を持ち出す事はしなかったし、景虎もそれをぶり返す事もなく毎日を過ごしている。
「景虎殿どちらに行かれるのですか?」
「別にどこ行こうとかまわねーだろが、ってかいちいち聞いてくんなよ」
「ではあちらでお茶でも如何ですか? 今日焼いたクッキーはとても上手くできたと思うのですが」
「いや、腹は別に……」
『何を遠慮しておるのだ、せっかくこうしてお茶に誘ってくれているのだから行けばよかろう』
「てめーは黙ってろよ!」
カティアは相変わらず景虎の世話を必要以上に焼いていた。さらにフライハイトも最近やたら意見をしてきたりするので少しウザくなってきていた。景虎は何度もここを離れる事を決意するのだが、その度にカティアが悲しそうな顔で引き止めるので困り果てていた。
「俺ここまでヘタれとは思わなかったわ……」
『まあ急ぐ事もあるまい、のんびりいけばよいのだよ』
「何千年も生きれるドラゴンのてめーからしたらそらそう思うかもしんねーけどこっちの人生は短けーんだよ!」
ドラゴンにしてみれば一年二年はたいした事はないだろうし、当事者ではないのだから好きに言えるこんなに楽しい事はないのだろうと羨む景虎。
暖かな日差しが顔に優しく降り注ぐ、今日も良い天気だった。ここにきてから雨とか曇りといったものを経験していないのかもしれないと気づいた景虎。そんな事を考えリンディッヒ城の庭を歩いていると、城門の方から騒がしい声が聞こえてくる。何事かと近づいた景虎が見たものは、黒い血があちこちについた皮鎧を着た兵士だった。
ここでの兵士というのは、各地で警備をする為に村々から募った者達で、いざ戦いとなれば騎士について戦う歩兵の役割を果たす。その兵士が息も絶え絶えに何かを話そうとしていた。
「どうした! 何があった!」
「も、森から……、北の森から魔獣の群れが現れて村に襲ってきました!」
その言葉に場が緊張に包まれる。兵士は持ってこられた水を勢いよく飲み干し呼吸を整え、さらに報告を続ける。
「そ、その数およそ二百!」
「二百だと!」
そのあまりの数の多さにその場にいた者達は驚愕する。半年前この地に現れた魔獣もそのぐらいの数だった。多くの犠牲を出してやっと殲滅し、以降はまとまった魔獣は出てきていないはずだった。しかし再び現れた二百という数の魔獣に騎士達はすぐに討伐する為の準備に取り掛かる。慌しくなった城内で、景虎は自分も当然魔獣退治に向かう為準備をし始める。
「景虎殿!」
そんな景虎に声をかけるのはカティア、報告を聞いて騎士達の見送りに来たのだが、そこに景虎の姿が見えたので声をかけたのだった。
「景虎殿、な、何をされているのですか?」
「あ? 何って俺もその魔獣退治に行く準備してんだよ」
「駄目です!」
急に大声を上げたカティアに周りが驚き、一瞬動きを止めたものの再び慌しく討伐の準備を続ける。一方カティアは震える手で景虎の手を掴むと懇願する。
「やめてください、お願いです、もし景虎殿の身に何かあったら……」
「他の奴等には何かあってもいいんかよ?」
「そんな事ありません! 私は皆の無事を祈っています! 誰もこれ以上死んでほしくはないのです! もう……これ以上……」
泣き崩れるカティア、景虎は少しいじわるな質問をしてしまった事を少し後悔していた。この少女は皆の無事を心から祈っている事は当然わかっていた。さらに自分の事を本気で心配している事にも。今までどれほどの人間が魔獣に殺されたのかはわからない、しかしその度にこの少女は悲しみ苦しんできたのだろう。
この少女は優しすぎるのだ、もしこれ以上大切な人々を失ったら壊れてしまうかもしれないぐらいに、だがそうとわかっていても景虎も自身の信念のようなものは曲げれなかった。
「おいカティア、悪いが今度ばかりはお前がいくら止めても行くからな。まぁ死なないようには気をつけっから、こんな所で死んでる訳にはいかねーしな」
「景虎殿……」
「行ってちゃちゃっと片付けてくっからよ、帰ってきたら何か美味いものでも食わせてくれよ、な」
「……はい」
そう言うと景虎は泣き崩れているカティアの頭を優しく撫でてやる。それが心地良いのかカティアは泣き止むのを止め微笑みを見せた。
手を引かれ立ち上がったカティアは景虎の手を握り締め、ただ無事を祈っていた。そこに騎士団長ヴィクトールと騎士達が現れる。
「おい小僧、貴様は……」
「まさか置いていこうなんて考えてねーだろうなおっさん、なんか知らんが一応俺も騎士団に入ってるらしいから俺を止めるってんなら他の奴等も止めろよ」
「がはははは! 言いおるわこの小僧、わかった付いて来い! 貴様のその腕を見せてもらうぞ! ただし絶対に死ぬなよ、これはいいか! 命令だ!」
「おう!、準備したら行くから先行っててくれ」
そう言うと景虎は紅い斧を持ち、与えられた馬に乗ると城門に向かう。ヴィクトールと他の騎士達はすでに北へ向かっていて、城門にはロニーとヨハンが待っていた。
「準備は出来ているかい景虎」
「やめんなら今の内だぜ」
「自分の心配だけしとけよ、俺ぁ大丈夫だ」
その言葉にロニーとヨハンは笑みをこぼし、ヴィクトールの後を追うように馬を走らせていく。景虎も続いて馬を走らせようとした時、カティアの姿が目に映る。胸の前に手を組み、心配そうな顔を見せている彼女に景虎は大き目の声で言葉をかける。
「じゃあ行ってくっから!」
「はい、御武運を!」
その言葉に景虎は頷くと馬を走らせる。
『戦うのだな景虎』
「おうよ、色々世話になったんだからその礼はしねーとな、当てにしてっからな相棒!」
『任せておけ』
騎士団て響きが好き