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ドラゴンアックス  作者: kaz
赤の章
44/76

第四十三話 闘技会

「闘技会? 何よソレ?」


 グリムゼール学院へと向かう馬車の中で、景虎(かげとら)はイリスの発した言葉を問う。

 

「闘技会とは、年に一度七年生から十二年生の生徒が参加して行う戦闘訓練の事です」

「戦闘訓練たあ物騒なこって」

「今このアインベックは休戦中で他国と戦争はしていませんが、いつ何が起こるかわかりませんからね、その為に備える為のものです」

「戦争ね……」


 景虎は難しい顔をして馬車の外を見る、街は平和ではあったが、所々で兵士らしき人物を見る事があった。

 ヴァイデンやクローナハでも街中で兵士や騎士がいたのを思い出した景虎、この世界はいつ戦いが起こるかわからないのだと改めて思った。


「聞いてますか?」

「あ、ああ、で、その闘技会ってどんな事やんのよ?」

「基本生徒全員での技能訓練、その後個人での勝ち抜き戦、その後クラスごとの集団戦訓練というものです、技能訓練は各々の得意分野のスキルのレベルを調べるもの、個人戦と集団戦は模擬剣を使った戦闘訓練をします」

「何かめんどくさそうだなー」


 退屈そうな景虎を見てイリスが睨み、釘を刺すように言い放つ。


「まさか、サボろうとは考えていないでしょうね」

「え? あー、ま、まっさかー」

「それならいいです。ですがもしサボるようでしたら、一週間ほど徹夜で勉強をしていただきますから覚悟しておいて下さいね」

「お前は鬼か」


 他愛のないやりとり、しかし景虎はイリスと同じ馬車に乗り話をする事ができている事に安堵していた。

 あれだけ自分を毛嫌いしていたイリスが何故か学院まで一緒に行こうと言い出し、さらにこうやって色々と話を聞いてくれているという事、少なくとも敵意のようなものは感じられなくなっていた。

 今までは学院でも無視し続けてられていたのだが、最近は昼食を一緒にする事もたまにあり、この変貌振りが逆に不気味だと思うほどだった。

 そうこうしているうちに馬車は学院に辿り着き、二人は馬車を降りて教室へと向う。


「まぁ、サボりはしねーよ、けどあんまやる気はねーぞ」

「やる気を出して下さい!」


 そんなやりとりをして別れる二人、イリスを知ってる人から見れば羨ましいやら憎らしいやらといった感じだろう。

 教室に入った景虎はクラスの皆に挨拶をする。最初は景虎を怖がっていたクラスメイト達も、特に問題を起こすでもなく、クラス委員長のディルクと楽しげに話す様子などを見ているおかげか、少しずつ警戒を解いてきているようだった。

 イリスが時折教室にやって来て、景虎と話をしているのも理由かもしれないが。


 授業は闘技会準備の為全て中止となり、ルールや時間などが説明される。


・闘技会は二日にわたって行われる事

・一日目は技能訓練と学年ごとの個人勝ち抜き戦が行われる事

・二日目は男女に分かれての集団戦闘訓練が行われる事


 イリスが言ったように全員参加が義務付けられている為、景虎も嫌々ながら参加する事となっていた。

 その日から日々訓練に勤しむ生徒達、と、一緒に訓練しているディルクが溜息をついているのが気になり理由を聞いてみる景虎。


「おう、辛気臭いツラしてどうしたよ?」

「あ、うん、実はさ、この闘技戦って結構怪我人が出るんだよ。まあ治癒魔法を使える人が沢山呼ばれるから大事には到る事はないんだけど、僕も去年大怪我しちゃって、それが怖くて……」

「はー、結構ガチでやりあうんか、面白そうだな」

「全然面白くないよ! 特に集団戦は学年ごとじゃなく、七年生から十二年生まで皆一緒に闘うんだよ! 上級生に僕達が敵う訳ないよ~」


 聞けば集団戦は男女別で、A,B,C,Dのクラスごとに分けられた七年生から十二年生全員参加で闘うというものだった。

 これは弱い味方をどう守るかというものや、逆に弱点をどう急襲するかなどの戦術を生徒達に学ばせる意味合いもあるらしい。

 だが当然下級生が上級生に敵う訳もなく、攻撃されたらすぐさま降伏したり逃げ出す事が許されていた。それでも勇敢に戦う者や逃げ遅れた者は攻撃を受け、大怪我をする事もしばしばあった。


「成る程ねえ、結構えげつねーな、けどよ、上級生だろうがなんだろうが別に勝っても構わねぇんだろ?」


 景虎の大胆不敵とも言える言葉に唖然とするディルクだったが、不気味に笑みを浮かべる景虎に何か寒気のようなものを感じるのだった。



 


 一週間の練習の後、闘技会一日目を迎える――


 生徒の家族も招待され、グリムゼール学院は多くの人で埋め尽くされた。

 ウィリアムも当然やってきて、イリスと景虎の下にやってくる。


「イリス! 景虎! ここにおったか」

「お父様!」

「うーっす」

「うむうむ、二人共元気で何よりだ! ヒルダも学院に来たがってはいたのだが、さすがにまだ体調がのう」


 残念がるウィリアムに顔を曇らせるイリス、元気になってきてるとはいえ、まだ外に出るのは難しいヒルダを心配していた。


「まあヒルダの分もわしが見ていてやるから、二人共頑張るのだぞ!」

「はい!」

「うーっす」


 返事をしてウィリアムと別れる二人、イリスはやる気満々だったが景虎はやはり気だるそうな感じだった。それを見てイリスが景虎に喝を入れる。


「やる気出してやる事、いいですね!」

「わ、わーってるよ、……しかし」 

「何ですか?」

「いや、なんつーか、お前って結構足細かったんだな」


 ちらと見た景虎の視線を辿って頬を染めるイリス、すぐさま距離を取ると両手で足を必死に隠そうとする。

 イリスが着ているのは学院公式の体操服、上は半袖のシャツで、下に履いているのは短い短パン、普段スカートで隠されている真っ白な太ももが露になっていた。

 実技などは男女別々でやっている為、あまり女子のこういった服を見る事がなく、景虎はついその事を指摘してしまったのだが、イリスは顔を真っ赤に染め、恥かしさのあまり完全に固まってしまっていた。


「あ、おーい、イリスどした?」

「馬鹿!」


 言ってイリスが凄い速さで立ち去っていく、景虎は頭を掻きながらその姿を見送っていたが、後で徹夜で勉強させられるかもと思うとただただ項垂れるばかりだった。


 教員達が何事か注意をした後、合図の鐘が鳴らされ技能訓練が始まる。

 いわゆる体力測定のようなものに加え、自身の得意な武器などを使って試技などを行うものだった。皆が剣や槍を選択する中、景虎が選択したのは”斧”だった。

 あまり斧を選択する者などいない為、模範的な試技のようなものがあまりなく、結局薪を割らせるような事をさせられる景虎。


「え?こんなんでいーんすか?」

「まぁ、要はその武器を使いこなせてるかというのを調べるものだしねえ、いーんじゃないのかねえ」


 試技を審査する先生は、景虎を一瞥すると事務的に作業をこなしていく。

 景虎もあまり疲れなくて済むならばと、適当に薪を割るとさっさとその場から離れていった。と、見れば女子の試技が見えたので覗いてみると、丁度イリスがやる所だったのでギャラリーに混ざって見学する事にした。

 イリスが選んだのはレイピア、細身の剣で軽くて気品のある武器だったので、女生徒の中でも人気のあるものだった。

 

「はっ!」


 レイピアを振るうイリス、その動きは華麗に優雅で無駄な動きがほとんどなく、まるで舞を踊ってるかのようだった。

 見ている者誰もが見惚れるもので、試技が終わると一斉に拍手が沸き起こった。

 一方のイリスは汗を拭き、乾いた喉を潤す為に飲み物を取ろうとした時、ギャラリーの中に景虎がいる事に気付く。と、その顔が再び見る見る赤くなり、荷物を纏めるとすぐさまその場から立ち去っていった。


「んだよあのヤロー」


 無視されたと思った景虎は愚痴りながらその場を離れ、自分のクラスへとダラダラと帰っていく。昼になり、食事をする為ディルクと話をしているとイリスがやってくる。

 見れば肌の露出を抑える為か、上下にジャージのようなものを着込んでいた。


「く、クラウゼンさん!」

「おうイリス、一緒に飯食うか?」

「……ええ」


 景虎から少し離れて座るイリスは持ってきた昼飯を無言で食べ始める。

 イリスに見とれるディルクは放置して、景虎は先程の試技の事を話した。


「そういやさっきてめーの試技みたけどよ、綺麗なもんだな、何か見惚れちまったわ」

「あ、ありがとうございます」


 素直に返事を返すイリスに何か物足りなさを感じる景虎、ディルクに話を振ろうとするも未だイリスに見とれて呆然としていて話にならず、仕方なくもそもそと昼飯のサンドイッチを食べ続けた。と、そこにウィリアムが慌てた様子でやってくる。


「こ、ここにおったか! さ、探したぞ二人共!」

「おうおっさん、何か用か?」

「あ、ああ、まぁ何と言うか……」


 何かしどろもどろと言いにくそうなウィリアムを見て、嫌な予感のしたイリスがウィリアムに詰め寄る。


「まさか、お母様の身に何かあったのですか!」

「い、いや何もない、ほんとだ、……いや、あったの、かのう……」

「おっさんはっきり言えよ、わかんねーだろが!」


 イライラしはじめた景虎の言葉にウィリアムは大きな溜息を吐き、ゆっくりと口を開いていく。


「先程屋敷から連絡が来てな、家内が……、ヒルダがな、どうしても闘技会を見たいと、ここに来ると言い出したらしい」


 ウィリアムの言葉にイリスも景虎も言葉を失い唖然とする。

 ヒルダはまだ外に出る事もできないというのに、もし出てきて病が悪化したらどうするのだと誰もが考えていたからだ。


「ば、馬鹿かあの人! 何考えてんだよ! おっさんも止めろよ!」

「そ、そうよお父様、今すぐ止めて!」

「いや、それがもう家を出たらしくてな……」

「こんの役立たずがあ! イリス、ヒルダさん止めんぞ!」

「うん!」


 食事を切り上げヒルダを止める為に走り出す二人、こちらに向っているという事は正門方面に行けば会えるかもしれないと考え向うイリスと景虎。

 そして正門に辿り着いた時、見慣れた馬車を見つける。クラウゼン家の紋章の入った馬車だった。

 景虎とイリスはすぐさまその馬車に向かい走り出す、二人が近づいた時、その馬車の扉がゆっくりと開かれメイドのクラリッサがゆらりと出てくるのが見えた。


「クラリッサ!」

「お嬢様……」


 いつものクラリッサとは違い、今の彼女は憔悴(しょうすい)しきっているように見えた。

 となれば当然その馬車の中にはあの人がいるのだろうと推測した景虎は、馬車の中を覗き込むと、大きな溜息を吐いてからその人物に向け言葉をかけた。


「何やってんですかあんたは……」

「来ちゃった」

「来ちゃったじゃねーよ!」


 馬車の中には笑顔で微笑むヒルダがいた。

 

次は1/14辺りの予定です。

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