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ドラゴンアックス  作者: kaz
赤の章
39/76

第三十八話 義妹

 

 帝都グリムゼール・軍病院――


 紆余曲折があって、景虎(かげとら)はこの国の将軍でもあるウィリアムなる人物の息子になる事になってしまう。

 一応仮にというものではあったが――。


「よし、ではさっそく我が家に帰ろうか! 我が息子よ!」

「息子とか呼ぶなよ……、なんかむず痒い……」

「何を言うか! これからは毎日毎朝毎晩呼んでやるぞ、我が息子よぉ!」

「いい加減黙れぇ!」


 テンション上がりっぱなしのウィリアムとは違い、思いっきり気が滅入っている景虎、正直自分でも何でこんな事になってしまったのかと問うてしまうが、とにもかくにもまずは元ドラゴン()のフライハイトを探そうと思っていた。

 だがその前に、ウィリアムに釘を刺しておく意味で強めの声色で言い放つ


「おっさん、あんましつこく息子息子言いやがったら俺ぁ息子契約取りやめて出て行かせてもらうからな!」

「な! そ、そんなに嫌なのか?」

「何かむず痒くて気持ち悪ぃんだよ! いいなおっさん!」

「む、むうそういう事なら仕方あるまい……、で、では何と呼べばよいのだ?」

「景虎でいいんだよ景虎で!」


 さすがに出て行くという言葉は効果的だったようで、ウィリアムも渋々それを承知することになる。

 荷物などはなく、かけられていた学生服に着替えた景虎は屈伸などして身体の調子を確かめる。


「よっ、はっ、うん、まぁ問題なさそうだな」

「しかしむす……、景虎の回復力は凄いな、見つけた時はほんとに死にそうなくらいの重傷だったというのに」

「まあ俺の身体はインチキやってっからな、よほどの事じゃねえとくたばんねえんじゃねぇのかな、知らんけど」


 そういうと景虎は自分の身体に触れ、強化してくれた元ドラゴンのフライハイトの事を思い出す、一緒にいた時にはあまり感じなかったが、離れて初めてフライハイトの力のおかげで色々と助けられてたのだと感じる。

 頭でフライハイトの名前を呼ぶもやはり反応はなく、近くに居ないのか、それとも何があったのかというは今の景虎にはわからなかった。


「必ず見つけてやっからな、糞ドラゴン」

 

 改めてフライハイトを見つける事を決意する景虎。

 一方ウィリアムは甲斐甲斐しく支度をし、警備の者に馬車の用意などをさせていた。

 

「よし、では改めて、我が家に戻ろうか、景虎よ」

「我が家ねえ……」


 溜息をつきながら景虎はウィリアムについて部屋を出て行く。

 外では景虎の異常なまでの回復に驚く医師や看護師達、奇異な眼で見られ心地悪そうに歩く景虎を、ウィリアムが威嚇するような目で睨みつける。


「いいっておっさん、こーゆーのにゃ慣れてっから」

「そういう事を言うな! いいかこれからわお前はわしが守ってやる、だから何も心配せんでわしに任せておけ、わかったな!」


 言われた景虎は呆気に取られるしかなかった。

 何故このウィリアムという人物は、そんなに自分の事を気にかけてくれるのだろうかと、元の世界の人間だという理由かもしれないが、何かそれ以上のものを感じぜずにはいられなかった。


 軍病院を出ると黒塗りの仰々しい馬車が待っていった、その近くにいた警護の兵士らしき者達はウィリアムを見た途端敬礼をする。


「こいつは今日からわしの家族になった景虎だ、これからよろしく頼むぞ」


 その言葉に驚く兵士達は懐疑的な目で嘗め回すように景虎を見る、それにイラッとした景虎はつい兵士達を睨んでしまう。


「ほれ、早く乗れ景虎」

「うーい」


 ウィリアムに急かされそそくさと馬車に乗り込む景虎、馬車はその後静かに動き出し、ウィリアムの家へと向かう。

 馬車の中で景虎は、ウィリアムが何故そこまで自分の事を気にかけてくれるのかをそれとなく聞いてみた。

 それに対してウィリアムは頭を掻きながら、しかし先程までのように豪快な仕草をせずに、静かに答えた。


「まぁ、景虎を見て息子にしたいと思った、本当にそれだけだ」


 何か引っかかるものを感じはしたが、景虎はとりあえずそれ以上の事は聞かなかった。

 馬車は走り、時間にして二十分ほどでウィリアムの屋敷に辿り着く。

 馬車から降りた景虎はその屋敷の大きさに驚く。

 騎士を六十人入れてもまだ余裕のあった、リンディッヒの騎士団長ヴィクトールの屋敷も大きいとは思ったが、ウィリアムの家、いや屋敷はその倍はゆうにあったからだ。

 整備された美しい庭、周りには常に数名の警備の兵がおり、まさしく国家の重要人物の家という感じだった。


「行くぞ景虎」

「お、おう」


 ウィリアムについて屋敷に入った景虎は出迎えたメイドと執事らしき十数人の使用人達に迎え入れられる。

 その人達を前にウィリアムは高らかに宣言する。


「いいか、今日からこの景虎はわしの息子になった。これからはわしの家族として扱うように!」

 

 その言葉に使用人達は一瞬驚いたものの、すぐに頭をさげ、恭順に意思を示した。

 むず痒い感じがしたものの、景虎は使用人達に軽く会釈してウィリアムの後についていく、後ろから囁く声が聞こえたがあえて絡むような事はしなかった。


 突き当たりの大きな部屋に来たウィリアムは、ノックをすると静かに扉を開ける。

 明るいその部屋は質素な感じの作りで、白を基調にした家具などが置かれていた。

 その奥の大き目のベッドの中に、一人の女性が身体を起こしてこちらを見つめていた。


「ただいまヒルダ、今帰ったよ」

「おかえりなさいアナタ、その、そちらは……、もしかして」

「ああ、今日からわしの息子になった景虎だ」


 言うとヒルダと呼ばれた女性はまっすぐに景虎を見つめる。

 一方の景虎はその視線に少し気恥ずかしかったものの、背ける事なくヒルダを見つめ返していた。


「景虎、家内のヒルダだ」

「あ、えと、何ていうか、隠し事とかすんの苦手なんで先に言っときますけど、息子ってのはまだ仮って感じなんで、その、だから息子とかは違うっていうか」


 しどろもどろな景虎に、ヒルダと呼ばれた女性はフフッと優しい笑みをこぼし、景虎に話しかける。


「夫が無理矢理息子になれとおっしゃったのでしょう? ごめんなさいね、この人はいつもそうなんですよ」

「は、まぁそんな感じでした」

「景虎君……、て言ったかしら? 近くに来てはもらえないかしら?」


 呼ばれた景虎は一瞬戸惑ったものの、優しく微笑むヒルダを見ていると、自然に足がベッドに向かっていた。

 手の届く所まで近づいた景虎に、ヒルダは弱弱しく手を差し伸べる、景虎はどうしたものかと一瞬迷ったものの、ゆっくりとヒルダの手に触れた。

 その手を取った景虎は驚いてしまう、ヒルダの手がとても冷たかったからだ。


「景虎君の手は暖かいわね」

「あ、いやその、すんません、俺手とか汚くて、洗っといた方がいいっすよね」

「景虎君は優しいわね」


 微笑むヒルダに景虎は言葉を返せなかった、そして今にも壊れそうなヒルダを見ているととても不安な気持ちになった。

 きっとそうだと思った、だから景虎は自然に、その言葉を口に出していた。


「あの、病気……なんですか?」


 景虎の言葉にヒルダは少し陰った顔を見せる。


「大丈夫、うつるようなものじゃないから、安心して」

「ち、違います! そういう事言ってんじゃなくて!」


 つい声色をあげてしまった事に景虎は言葉を遮り、一呼吸してから再び小さな声で話し出す。


「すんません、何か顔色が悪かったんでつい、ほんとにすんません……」

「謝らないで、私も変な事を言ってしまったから……」


 景虎が言葉を話せなくなったのを見て、ウィリアムがその中に入ってくる。


「ヒルダ、私の言った通りだったろう」

「ええ、ほんとに、アナタの言った通りの子だわ」


 ウィリアムとヒルダはお互いに何かを決めていたような感じで話していた。

 それが自分に関するものだとは思って、景虎は問うてみる。


「俺の事っすか?」

「ああ、初めてお前を見た時から、きっとこの子は大変な思いをしてきたんだろうなと思っていた。そして、きっと人の事を思える子だともな、だからわしはお前を息子にすると決めたのだ」

「いや、俺そんな良いとこの子じゃねーっすよ、ガラも悪ぃし、喧嘩しまくりの問題起こしまくりの問題児だったし」

「それがどうした! 若い頃はわしとて色々やらかしたわ! だがな景虎、そんなもんたいした問題ではない、問題なのは何故そんな事をせばならなかったという方だ」


 ウイリアムの言葉に景虎は一瞬反応に迷う、自分は何故そんな事ばかりをしていたのか? 改めて問われて反応に困る言葉だった。


「がはは、考えろ考えろ! 若いうちは考え続けろ! そしてわからん事があったら聞け! そうすりゃあ大体の事はなんとかなるもんだ」

「んだよそれ、じゃあ俺あどうすりゃよかったってんだよ」

「知らん」

「オイ!」


 即答したウィリアムにつっこむ景虎、一方そのやりとりに笑みをこぼすヒルダは楽しげだった。


「わしはお前の事をまだ全然知らん! だからお前の問いにまだ何も答える事はできん! だがな、お前と共に過ごしお前を知れば何かしらの事を言えるかも知れん、それはヒルダからも聞けるかも知れんぞ」

「…………」

「だからわしらと過ごせ景虎! きっとお前の為になる」


 笑みをこぼすウィリアムと、優しく微笑むヒルダ、その二人を見ながら景虎は心が揺れていた。

 何か、胸の中から込み上げる熱いものがあった、それが何なのかわからないが景虎はそれを欲しいと思った。

 そして、景虎は二人に向けて頭を下げ、しっかりと言った。


「これからよろしく、たのんます」

「もちろんだ!」

「よろしくね、景虎君」


 景虎は何かこそばゆい感じがした。

 コレが何なのかはわからないが、とにかくこそばゆいものだった。


 と、その時扉の向こうが慌しくなる音が聞こえる、何事かと思ったその時、扉をノックする音が聞こえてきた。


「どうぞ」


 返事をしたヒルダに答えるかのように扉が開かれ、その向こうから凛とした一人の少女が現れる。

 ブロンドの髪をした均整の取れた少女、真っ白な制服を着た誰が見ても美少女と言えるような少女だった。


「お父様お母様只今戻りました」

「お帰りなさいイリス」

「うむ、今日も勉学に励んできたようでなにより!」


 イリスと呼ばれた少女はどうやらウィリアムとヒルダの娘のようだった。

 挨拶をしたイリスはすぐさまヒルダの元へと歩み寄ると、ヒルダの手を取り身体を安じる。


「お母様、御身体の具合は如何ですか?」

「ええ、大丈夫よ、今日はとても気分がいいの」


 その言葉に微笑むイリス、その顔は横から見ていても見惚れるほどだった。

 と、イリスがようやくにしてこの場にいる異物のような存在に気付く。

 

「誰ですか貴方は?」

「あ、俺は……」

「こいつは今日からわしの息子になった景虎だ、イリスも仲良くしてやってくれ」

「なっ!」


 ウィリアムの言葉に驚くイリス、その顔は見る見る険しくなっていく。

 そしてウィリアムに詰め寄ると声色を荒げ糾弾する。


「何をお考えなのですがお父様! このようなどこの誰ともわからない者をこの栄誉あるクラウゼン家の者にするなど! あってはならない事です!」

「いや、しかしなイリス、この景虎は中々の男だぞ、お前もきっと気に入る……」

「気に入りません!」


 きっぱりと言い放つイリスにウィリアムは怯み言葉を出せなくなる。

 そして今度は景虎に向かい侮蔑を込めた口調で糾弾する。


「アナタが何者なのかは知りませんし、どうやってお父様に取り入ったのかはわかりませんが、今すぐこの家から出てお行きなさい!」


 あまりに一方的な物言いにさすがにキレた景虎。


「おいコラてめぇあんまチョーシこいてんなよ、てめ何様よ?」

「私はこのクラウゼン家を守る者です、どこの誰ともわからないような者をこの家に入れる訳にはいきません!」

「はー、偉いんだねー、この家を守るねー、やれたらいいねー」

愚弄(ぐろう)するのですか!」


 怒り心頭といったイリスは景虎に詰め寄ろうとした時、ヒルダが口を開く。


「イリス、これはもう決めた事なのです、いいですね」

「お母様!」

「私は家族が争うようなものは見たくはありません、イリス、どうかこの母の願いを聞いてはいただけないかしら」

「でも……、そんな、お母様……」


 震えるイリスの目には光るものが見えていた。何かを言おうとするも病弱のヒルダを気遣ってかそれ以上は何も語らず、悔しそうに背を向けると扉に向かって足早に歩き出す。

 扉の取っ手に手をかけ部屋を出ようとした時、怒りを露にした顔を景虎に向け悔しそうに言い放つ。


「私は、貴方の事など認めません!」


 強く扉が閉められ、部屋の中は再び静寂に包まれる。

 最初に言葉を発したのはヒルダだった。


「ごめんなさい景虎君、あの子……、イリスは本当は心根の優しい子なの、どうか許してやって」

「あ、いや、まぁあの子の気持ちもわかるってゆーか、いきなり俺みたいな馬鹿っぽいのがいたらそらまあなって、俺自身も今訳わかんねー感じですし」

「がははは、まぁ喧嘩するほど仲が良いというしな! これから仲良くしていけばいいのだ! そういえば景虎は確か十五歳だったか?」

「え、ああ」

「イリスは十四歳だ! まぁ可愛い妹だと思って仲良くしてやってくれ!」


 大笑いするウィリアムと、そして優しく微笑むヒルダ、一方イリスが出ていった扉を見つめる景虎は溜息をついて呆れ気味に一言ポツリと呟く。


「妹て……」


 景虎に妹が出来た瞬間だった。


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