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ドラゴンアックス  作者: kaz
海の章
30/76

第二十九話 手掛かり

 

 ファーレルの町の入り口――


 すでに夜は遅く、街に入る門は堅く閉じられていた。

 海賊達が集まる為それも仕方が無かったとはいえ、その海賊達とやりあった景虎(かげとら)達は一刻も早く宿でゆっくり休みたいと思っていた。


「おーい開けろー、中入れろやー」


 いるであろう門番に声をかけるものの反応はなく、門の扉もしっかりと閉められたままだった。


「どうする、叩き壊すか」

「やめなさい、そんな事したら確実に捕まるでしょうが!」


 景虎に背負われたハーフエルフのステラが景虎の頭をはたく、その横では景虎を兄貴と慕うシモンがオロオロしていた。


「とりあえず朝までどこかの民家で休ませて貰いましょう、街からそんなに離れてない所にも家はあるでしょうし」

「あ、じゃ、じゃあ僕が見つけてきますよ兄貴!」

「また拉致られんじゃねーぞー」

 

 そんなやりとりをし、シモンが今まさに家を探しに出ようとした時、街の門がゆっくりと開きだす、そしてそこから一人の女性が現れ三人に駆け寄ってくる。


「ステラ! シモン! 景虎君!」

 

 現れたのはパーティーの仲間のマリカだった。

 マリカは三人が帰る事を信じて、この入り口の所でずっと待っていたのだ。

 二人の無事を確認できたマリカはシモンに抱きつき、ついでステラを見て、無事な様子にさらに涙があふれ出す。


「よかった、二人とも無事でほんとによかった」

「ね、ねーさんゴメン、僕……」

「心配かけたわね、ごめんねマリカ」


 心の底から喜ぶマリカ、そして今度は景虎に抱きつく。


「景虎君ありがとう、二人を助け出してくれたんだね、ほんとに、ほんとにありがとう景虎君!」

「どうって事ねーよ」

「マリカ、早く離れた方がいいわよ、こいつマリカに欲情してるから」

「するか!」


 ステラの悪辣(あくらつ)な言葉にキレた景虎はステラをおぶったまま何度も激しくジャンプする、するとステラは振動で上下に揺らされ気分が悪くなり……。


「おぇっぷ……」

「え、ちょい待てコラ!」

「景……虎が悪い」

「てめええええええええ」


 リバースしたステラのアレをもろに食らう景虎だった。

 その後、宿に戻った景虎達はさすがに疲れきっていたのでそのままベッドに直行、ただ一人景虎だけはアレのせいで臭くなった学生服の洗濯をまずしなければならなかったが……。


 翌日、景虎達は眠い目を擦りながら起きてくる。

 さすがに色々あってか、皆疲れがとれていないようだった、ただ一人を除いて。


「うーっす、腹減ったわー」

「…………」

「あ? 何よ?」

「いや、景虎はやっぱ景虎だなと思って」


 皆が疲れきっている中、昨日一番大暴れしたはずの景虎が元気一杯だった事に、ステラは呆れ果てるしかなかった。

 その後食事を始めるものの、やはり皆余り喉を通らない状態だった。

 ただ一人黙々と食べる景虎を除いて。

 

「そういや昨日は聞けなかったけど何があったの? マリカさんちょっと聞きたいんだけど」


 マリカの言葉にステラとシモンは項垂(うなだ)れ、話をするのを拒否する姿勢をとる。

 何があったのか余計聞きたくなったマリカは、ただ一人黙々と食事をしている景虎に狙いを定める。

  

「景虎君何があったの? お姉さんだけ仲間はずれは嫌なんで教えて教えて」

「ん? そんなたいしたもんじゃねーぞ」

「いいの、聞かせて景虎君」


 そして景虎はステラを追跡する所から話し始める。

 まずファイサルと協力した事、海賊船に乗り込んだ事、そして海賊達に喧嘩売ってボコボコにした事、それを聞いたマリカは段々青ざめていく。


「海賊達をぶっ潰したって……、いや、嘘だって言ってる訳じゃないわよ、でもね……、もう、何て言うか……」

「こいつに常識を期待するだけ無駄よマリカ」

「あ? 俺を化け物みたいに言うんじゃねーよ!」

「四百人からの海賊相手に戦いを挑むようなのは化け物って言うのよ!」


 そんな感じに楽しく会話をしていると、景虎がふと気になった事を思い出す。


「そういやあのおっさん、ステラ達と一緒に拉致られてた奴等ちゃんと街に連れてきてくれてっかな」

「おっさんてファイサルの事? あんたね、海賊に何期待してるのよ、そんなの無視してるに決まってるじゃないの」

「そうか? あのおっさん結構良い奴だったし、ちゃんと約束は守ってくれそうだけどな」

「はぁ、ほんとどこまでお人好しよしなのよあんたは……」


 景虎の言葉に呆れるステラ、と、その時景虎達に近づく人影があった。

 背丈は二メートはある褐色の肌をした屈強な男で、右目には眼帯をしており、そして軽快な関西弁で景虎に声をかけてくる。


「やっぱお前は面白いやっちゃな景虎」

「ん? おお、おっさんじゃねーか!」


 現れたのは先ほどから話題になっていた海賊ファイサルだった。

 突然のファイサルの来訪に驚くマリカ達、一方景虎は警戒もせず、その人物と楽しげに会話をし始める。


「そうそう、丁度おっさんに聞きたい事があったんだよ、ステラ達と一緒に拉致られてた子ら、ちゃんとこの街に連れてきてくれたか?」

「おう任せい、ちゃんと連れて来たったで。今頃はこの街の保護施設みたいな所におる筈や、その後の事まではワシにはわからんけど、まぁ大丈夫やろ」

「そーか、おっさんサンキューな」

「おう!」

「ちょっと待て待て待てーい! あんた何普通に会話してんのよ!」


 さすがにここはツッコまないとだめでしょ! という義務感のようなものでステラはファイサルと景虎の会話の中に入り込む。


「お、貧相なエルフの嬢ちゃんやないか、そない怒ってどないしたんよ?」

「貧相言うな! あ、あんた賞金かけられた海賊なのに何でこんな所に普通にいてられるのよ! すぐさま騎士団に捕まるわよ!」

「お、心配してくれるんか、ありがとうさん、けどその辺はもう大丈夫なんや」


 そう言うと、ファイサルは懐から何やら高級そうな巻物のようなものを取り出して景虎達に見せる。

 景虎はこの世界の字が読めないのでわからなかったが、読んだマリカ達はみるみる驚きの表情になり、言葉をもらす。


「これ、恩赦状? 本物なのこれ?」

「当たり前や! まごう事なきホンマもんの恩赦状やで! しかもさっき取れたばっかのホヤホヤや! これでワシはもう賞金首やないゆうこっちゃな」


 満面のどや顔で誇らしがるファイサル、一方マリカ達は信じられないという顔をしていた。


「ん? おんしゃじょー? 何よそれ?」

「恩赦状よ恩赦状、つまり今までやった罪はもう問わない、お前は自由だってお墨付きを貰ったって事」

「へぇ、おっさん堅気(かたぎ)になったんかよ、そらよかった」

「何納得してんのよ! こ、こいつ結構な悪党なのよ! なのに、どうして恩赦状なんてものを……」


 その問いに答えるべく、ファイサルはテーブルの開いている椅子に腰掛けると店員にエールの注文をし、景虎達に仔細を話し出す。


「なんもかんも景虎のおかげなんや」

「ん? 俺なんもしてねーぞ?」

「海賊共ぶっ潰してくれたやろ、そのおかげや」


 その言葉にマリカが反応し、何が行われたかを一瞬で理解した。


「あ、あんた、海賊を売ったのね!」

「正解! 頭ええなねーちゃん」


 そう言われたマリカが一瞬頬を染めた気がしたが、景虎は構わず話を聞き続ける。


「景虎がぶちのめした海賊達をここの騎士団に渡したんよ、ほんで凶悪な海賊を倒したいう理由と、海賊共の懸賞金でこの恩赦状を貰た言う訳や」

「仲間売ったのねあんた、さすが海賊だわ」

「おいおい、あいつらとは別に仲間やないで、どっちか言うと商売敵や。別にワシやのうても他の海賊売って恩赦貰うんは結構普通の事やで」


 そう言うとファイサルは持ってこられたエールを飲み干す。

 

「ぷはー! 堅気になって飲む酒言うのは美味いのう! もうこそこそ飲みにこんでええか思うと楽しいわ!」

「えーっと、聞きたいんだけど、懸賞金てどのくらいの額になったのかしら?」

「懸賞金? 確か……金貨で千五百枚くらいやったかな?」

「今すぐそのお金を渡せーー!!」


 マリカがいきなり大声上げてファイサルに詰め寄る。


「海賊倒したのは景虎君でしょ! そしてその景虎君は今私達パーティの仲間なの! つまり景虎君が倒した海賊の懸賞金はパーティのもの! そしてパーティーリーダーである私のモノ! なんで今すぐ私に払いなさい!」

「な、何か変な論法になってるわよマリカ」

 

 ジャイアニズムとでも言うのだろうか、マリカは景虎の倒した懸賞金は自分のモノだと言わんばかりだった。

 それに対してファイサルは。


「アホ、懸賞金言うんは倒したモンが貰うんやない、そいつを役所に渡したもんが貰うモンなんやで、せやないと誰が倒したこーしたで問題になるさかいにな」

「ぐ、ぐぬぬ、か、景虎君も何か言ってよ! こいつ景虎君が倒した海賊の懸賞金掠め取っていったのよ!」

「あ? 別にいーんでね? 俺そーゆー面倒臭いのどうでもいいし」

「おーい!」


 マリカに振られたものの、景虎は興味なしといった感じで食事を続けていた。

 それでも諦められないというマリカを必死に嗜めるステラ、この中に入れないシモンは水を飲みながら、早くこの状況から逃げ出す事だけを考えていた。


「そーいやおっさん海賊辞めて何するんだ?」

「おお、しばらくは運送業でもやろ思とる、元海賊ファイサルが守るんやで、そこいらの運送業者なんぞ相手にならん安心と安全やろ!」

「元海賊ってだけで安心も何もないでしょが」


 ステラのツッコみは無視してファイサルは景虎に言葉をかける。


「でや、景虎の腕見込んで話があんのやけどな、ワシらと一緒に仕事せぇへんか? 景虎の腕あったら結構な稼ぎができる思うんやけど」

「パス! 俺やる事あるし、今はマリカ達とパーティ組んでるしな。なんで他当たってくれ」


 ファイサルの誘いをきっぱり否定する景虎に、マリカやシモンは少なからず感動していた。

 一方ファイサルも、こうもあっさり断られるとこれ以上は無理と判断し、再びエールのおかわりをしてそれを飲み干していた。


「ぷはー! まぁ、何かあったら言うてくれ、ワシら景虎のおかげでお天道様の下を堂々と歩けるようになったんやさかいにな、色々と相談にのるで」

「おう、まあ何かあったら頼むわ」

「元々は私のお金なのに……、私のお金なのに……」


 ファイサルと景虎の心温まる会話の中、怨嗟の声でブツブツ呟き続けるマリカにシモンは恥かしくなってきていたり。

 と、ファイサルが出て行こうとした時、景虎が思い出したように止める。


「あ、待ってくれおっさん、おっさんこの辺でドラゴンの出る場所とか知らねーか?」

「ドラゴン? またえらいもんの名前出てきよったな、ドラゴンがどないした言うんよ?」

「俺らドラゴン探してここまで来たんだよ、色々探したり情報聞いてみたりしたんだがさっぱりでよ、おっさんというか、海賊なら何か知ってねーかと思ったんだが」


 景虎のドラゴンを探していると言う言葉に驚くファイサルだったが、色々記憶を探るもやはりドラゴンの事など出るものでもなく。


「悪いな景虎、ワシ海賊十年やってるけどドラゴンとかまだ見た事ないわ」

「そうか、まあまた地道に探してみるわ」

「ドラゴンなんぞ探してどうする気なんよ?」

「ドラゴンはおまけだ、本命はそいつを操ってるフルヒトって銀髪クソ野郎を探してんだ」


 何気なく言った言葉、だがそれに反応したファイサルの言葉に――。


「銀髪? ありゃ、お前アイツの知り合いやったんか」


 場が凍りつく、そして景虎は憤怒の表情に変わり、ファイサルに詰め寄るとその胸倉を掴む。


「おっさん! てめぇあの野郎の事何か知ってんのか!」

「な、なななななんや急に!」

「いいから答えろ! もしかしておっさんもあの野郎の仲間とかじゃねぇだろうな! だとしたら!」

「落ち着け景虎!」


 急に問い詰められて訳がわからないファイサル、それを見ていたステラがその間に割って入って景虎を静める。


「こんなんじゃ話もまともにできないわよ! 話を聞きたいならちゃんと聞けるようにしなさい!」


 ステラの言葉にようやく心を落ち着かせる景虎、ファイサルから離れ顔を手に当て深呼吸をする。


「悪かったおっさん、ただ俺はその銀髪を捜してんだ、だから知ってる事があんなら何でもいいから教えてくれ……」

「お、おお、何かようわからんがワケありかいな?」

「ああ」

「そうか、まぁ知ってる言うほどのもんやないし、景虎の探してる奴と違うかもしれんけど、ええんか?」

「頼む、聞かせてくれ」


 今までとは明らかに違う景虎を見て、余程の事情だと察したファイサルは、見たままの事を話す。


「あれは二週間ほど前やったかな、補給と休憩目的で無人島に寄ったんよ、そしたら銀髪の子供がおってな、何してるんて聞いたんよ、ほしたらそいつ」


――世界って退屈だと思わない?――


「ワシ意味わからんかったんやけどな、そいつずっとニヤニヤして気持ち悪かったから立ち去ろうとしたんや、ほなら」


――満月が楽しみ――


「満月?」

「おお、何かそないな事最後に言ってたわ、んでな、不思議やねんけど、気付いたらもうおらんかった」


 そこまで聞いた景虎は拳を握り締め、笑みを浮かべる。


「間違いねえフルヒトだ。 あの野郎に違いねえ」

「ね、ねえそいつ満月が楽しみって言ってたのよね、次の満月っていつだったっけ?」

「確か、明後日だったかしら」


 ステラの問いに答えたのはマリカ、その言葉に景虎は気合を取り戻す。


「明後日か、待ってろよフルヒト、必ず殺してやる」

「こんな所であんまり物騒な事いわないでよ! けど明後日か、何が起こるのかしら」


 不安げなステラの言葉だけが空しく響き渡る。


 それから二日間、景虎達は緊張感を待って満月を迎える。

 だが満月になってもダンガスト島では何も起こらなかった。

 それからまた一日、二日と経っても、何も起こる事はなかった。


「ここはハズレだったか、クソッ!」


 景虎がイライラしているのを周りは感じ、何かやらかさないかと不安だった。

 だがそれは杞憂に終わる、少なくともヤケを起こして何かをするという事はなかった。

 このまま何事も無く平和のまま、誰もがそう思い始めた時――。


 事態が動く――。



 それは早朝の事だった。

 景虎達が宿で朝食を取っていた時、ファイサルが駆け込んでくる。


「た、大変だ! 出やがった!」

「何が出たのよ?」

「ドラゴンだよ!」


 その言葉に皆がファイサルに注目する、景虎はファイサルを睨み、ゆっくりと言葉はかける。


「どこに出た?」


 ファイサルはゴクリと息を飲み、小さく言葉を吐き出す。


「クローナハの首都、デルフロスや!」


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