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ドラゴンアックス  作者: kaz
地の章
3/76

第二話 救出

 ――トライア――


 トライアと呼ばれるこの世界は、一つの大きな大陸と大小無数の島で構成されていた。その一つの大陸に人間の大多数が住み、無数の国家を形成していた。


 現在最大領土を持つのは大陸の東側に位置するヴァイデン王国。

 歴史は浅く国家が出来たのはまだ百年ほど、初代の王ルヨ=リュトヴィッツによって小国だったヴァイデンを一気に大国へと作り上げた。その後現れた王も初代の意思を受け継ぎ着々とその版図を広げていき、現在九代目のアダム=リュトヴィッツが王として国を治めている。国土は富み、農作物の収穫も多く、飢えとは程遠い国家として移民者もここ最近増えている。が、同時にその富を狙う北方の蛮族、そして突如現れる魔獣などが問題となっていた。


 次にクローナハ共和国。

 ヴァイデンの南に位置する国で、領土こそヴァイデンの半分ほどではあるが、商業の国として貿易に特化し、様々な人種や種族が集まってくる。ヴァイデンとは不可侵条約を交わし交流も深い。共和国制を敷き、選ばれた九名の代表によって全ての国政が成される国である。

 度々天災などで被害をこうむる事はあるものの、その持ち前の技術力で即座に復興する不屈の国としても知られている。


 最後にアインベック帝国。

 大陸の西側に位置する国家で近隣諸国との戦争で版図を広げてはいたが、六年前に各国と休戦協定を結んでからは戦争らしい戦争は行ってはいない。地勢的に厳しい環境にあり、さらに長きの戦争によって民が度々困窮していたが、休戦後は復興に力を入れている為徐々にではあるがその状況は改善しつつある。


 他にも大小様々な国家があるものの、主だった人間の国はこの三国に集約される。


 さらにトライア大陸には人間以外の種族も多く住み、中でも魔獣と呼ばれる者達、その姿は醜く山野の洞窟や戦火などで人の住まなくなった村などに居つき、近隣の住民を度々襲うといった事を行っていた。

 他にもエルフやドワーフといった種族、さらにはドラゴンといった伝説級の生物と多岐に渡る、しかしそれらの種族はそうそう姿を見せる事はなく、自身の生存範囲を脅かされそうになった時にだけ現れ自身を守る戦いをする。

 

『という感じでさらに…………おい』


  元ドラゴンのフライハイトは自分を殺し斧に転生させてくれたその人物、出雲景虎(いずもかげとら)に声をかける。


「あ、うーん、そうか」


 心ここにあらずといった返答をする景虎は、つまらなさそうに返事をする。


『お前がここがどこだかわからんと言ったから、懇切丁寧に説明をしてやったというのに』

「あーっていうかよ、色々言われてもわからんのよ俺馬鹿だし、けどまあ、ここが俺の住んでた日本とは全然違う所ってーのはわかったわ」

『ニホン、それがお前の世界の名か』

「世界っちゅーか国だな、戦争とかそーゆーのは無かったが、何か色々問題抱えてたな」

『ほお、どのような?』

「知らん!」

『…………』


欠伸(あくび)をして伸びをする景虎は小腹がすいている事に気付き、斧になったフライハイトに問うてみる。


「ところで何か食うものないか? 飲みモンでもいいんだが、ここしばらくまともなもん食ってなくてよ、さすがにキツくなってきたんだわ」

『ふむ、そういえば人間は定期的に食わねばならんのだったな』

「ドラゴンはそうじゃねーのか?」

『我等は一度食事をすればしばらく……、人間の時間で言えば、十年は食わなくても問題はないな』

「マジかよ! すげぇコスパ良いなドラゴン! くっそ羨ましいわ」


そんな風にドラゴンの食事の仕方に関心していると、フライハイトは何かを思ったらしく景虎に質問をする。


『景虎よ、お前はこれからどうするつもりだ?』

「これから? 別に何も考えてねーなー、とりあえず何か食ったらゆっくり寝たいわ」

『元いた場所、ニホンという国に戻りたいとは思わないのか?』


 その言葉に景虎は紅い斧を顔まで近づけ、真剣な顔で質問する。


「帰れる方法何か知ってんのか?」

『いや、私は知らんが……』


 溜息ををつくと紅い斧を雑に放り出す景虎。ゴロンと寝転がると森を見回し、先程より大きな溜息をついてぼやいた。


「だったら聞くなよ、ったく、まぁ帰れるってんなら帰るけどな。ただこっからどーすりゃいいのかわからんのだったら、しばらくこっちで何とかするしかねーだろ」

『お前の話を聞くと、元の場所はロクでもない所だと聞いたが、それでも帰りたいのか?』

「ったりめーだろうが! クソだろうが何だろうがそっから逃げたら俺がクソだろーが! 戻ってまともに生きて暮らしてやるよ、でねーと格好悪いしな」


 そう言うと声を上げて笑う景虎にフライハイトは何かを思い、景虎に優しく声をかける。


『景虎、やはりお前は面白いやつだ、気に入った』

「あ? 何だよ気持ち悪い、それよりさっきの話だ! 食い物か水どっかにないか?」

『ああそうだったな、だが残念だがここにはない。元々ここは人間が住めぬ死の場所とも言われている所でな、一度迷えば二度と抜け出す事ができんと言われている。それゆえ私はここを寝床にしてはいるがな』

「そんな気持ち悪い場所を、寝床にしてるてめーの気が知れねーよ」

『巨躯だった頃の身体を休めるには、絶好の場所だったのだよここは』


そういえば顔だけで軽自動車くらいあるでかいドラゴンだったなと思い出す景虎は、同時にさてこれからどうしたものかと考える。ここから出れないとするとずっとここにいなければならず、食い物も水もなければいずれ死ぬしかないのだと。


「出口ほんとにないのかよ?」

『ドラゴンの身体の時は、空を飛べば簡単にここから出れたものだが、さて……』


しばし考えた後、フライハイトは景虎に斧をしっかり握らせるように伝えると、何やら呪文めいた言葉を唱え始めた。景虎の頭に響いてくるそれは何を言ってるのかまったくわからなかったが、しばらくの詠唱の後、フライハイトは景虎に伝える。


『今から跳ぶので、離さず私を持っているのだぞ』

「え? 跳ぶって、な……」


 言い終える前に景虎とフライハイトはその場から消え去った。景虎が再び目を見開いた時に見えたものは、先ほどまでの暗く鬱蒼(うっそう)と茂った森の中ではなく、開けた川辺だった。何が起こったかわからず呆然としていた景虎だったが、フライハイトが先ほど言った、”跳ぶ”という言葉を思い出す。


「おいコラてめぇ、今何かやりやがったな!」

『うむ、転移の魔法を使ってみたのだ。この姿で景虎と、一緒にあの森から跳ぶ事が出来るか不安ではあったが、どうやら上手くいったようで何よりだ』

「何よりだ! っじゃねーよボケェ! やるなら何やるかちゃんと説明してやりやがれぇ!」


 怒り心頭で斧をガンガンと地面に叩きつける景虎、一方フライハイトは何故自分がこんな仕打ちを合うのかがわからずにいた。と、その時フライハイトは何かを察知する。


『景虎待て、何か聞こえる』

「あ? 何が聞こえるって? 俺にゃなんも聞こえんぞ?」

『間違いない、人間の悲鳴のようだ』


 その言葉に景虎の動きがピタリと止まる。紅い斧を握り締めると辺りを警戒しつつ、音がしないかに神経を張り巡らす。しかしやはり川のせせらぎとわずかな風の音しか聞こえず、フライハイトに確認の為に聞いてみる。


「その悲鳴ってのはどっから聞こえる?」

『川上の方だな、距離はここから人間の足で歩いて千歩といった所か』


 大体四~五百メートルくらいだと計算すると、フライハイトがそれが何かを説明する前に走り出す。悲鳴のする方向に向かっているのは明らかだったが、景虎のその唐突の行動がフライハイトには理解できないでいた。


『景虎よ、何をするつもりだ』

「あ? 決まってんだろうが! 悲鳴って事は誰か助け求めてるって事だろ?

 なら助けてやんなきゃ駄目だろうが!」


 フライハイトは絶句する、景虎はここに来たばかりだと言うのに見も知らずの者を助けようと言っているのだと。そんな事をする者がこの世にまだいようとは思わなかった。いや、景虎はこの世界の人間ではないという、ならば元の世界ではそういった事が普通に行われているのかと。


 面白い! そう思わずにはいられなかった――。


 もう何千年も生きてきたフライハイトにとって、人間という存在はあまりにも脆弱でちっぽけな存在だった。暇潰しに接触し人間というものを知ろうとしたがどの人間も自分を恐れ、媚び諂い、望みを適えると言えば金銀財宝や世界の王などと抜かす始末。

 己が欲望のみでしか動かない人間に失望し、滅ぼした国の数は数知れず、そんな自分が今はそのちっぽけな人間の持つ武器に成り下がり、それを見守っているとは世の中面白いものだと思わずに入られなかった。だが今にして思えばこれは中々良い選択だったのかもしれないと考える。


 景虎は川伝いに上っていくと確かに何か言い争うような声と悲鳴、さらに金属音の鳴り響く音が耳に入ってくる。チッと舌打をしてさらに急ぐ景虎が目にしたものは――。


 無数の死体だった。戦いがあったであろうその場所は血で赤く染まり、見ればまだ戦いは続いていた。黒い姿をした人型のようなものが白銀の鎧を纏った騎士達に襲い掛かっていた。二十はいるその生き物は動きは鈍いものの、数にものを言わせ数人の騎士達を圧倒していた。


「おい何だあの黒いやつ? 人間にしては何か形がこう変というか、頭とか無い奴もいねーかアレ?」

『アレは魔獣だ』

「魔獣? ああそういやさっき何かそんなのがいるって言ってたな、アレがそうなのか?」

『ああ、人間になれなかった者達の生き残り、全てのものに忌み嫌われ人を殺し喰らう者達だ』

「ちっ いけすかねぇな、っとこんな事のんびり話してる場合じゃなかったわ」


 景虎は駆け出し戦いの起こっている場所へと向かう。近づくにつれ騎士達のその向こうに美しくなびく長い黒髪の人物が眼に映る。おそらく騎士達はその人物を護る為に戦っているのだろうと。黒い魔獣達の攻撃は苛烈を極め、残った騎士達は一人また一人と殺されていく。


「ガチの殺し合いかよ……」

『怖いか?』

「ああ(こえ)ぇな、さんざん喧嘩はしてきたが、殺しなんてやった事も見た事もねーしな」

『ならば逃げるか?』

「逃げるのは嫌いなんだよ」


 景虎は殺し合いが行われているその場所に向かって走り出す。別に正義の味方を気取る気はなかった、そもそもそんな偉い人間ではないと自分でもわかっている。それでも助けを求める声がすれば景虎は放ってはおけないのだ。

 それは今までの自分が誰にも助けてくれなかった反動なのか、ただの自己満足かはわからなかった。しかし行けば逆に殺されるかもしれないという考えは思い浮かばなかった。とにかく今目の前で行われてる事に対して自分にできる事をただするだけだった。


「うらあああああああああああああ!!」


 雄叫(おたけ)びを上げ斧の刃の付いてない部分を魔獣に叩きつける景虎。気づくのが遅れた魔獣はそれをまともにくらい吹き飛ばされたのだが、その飛ばされ方が尋常ではなかった。叩きつけられた魔獣が三十メートル近く吹き飛ばされたのだ。遠くまで飛ばされ地面に叩きつけられて鈍い音がすると、その魔獣はそれ以上動く事は無く、景虎はそのあまりに馬鹿げた威力に唖然とする。


「な、なんじゃこりゃ! 飛びすぎだろなんだよ一体!」

『何を驚く、先ほど私は説明したではないか、お前に我が力を少し預けたと』

「いや、聞いてはいたけどこのパワーは無茶苦茶だろ! 野球ならホームランキングレベルだわ!」

『ヤキュウとは何の事かわからんが、まあドラゴンの力とはそんなものだ』


 景虎は改めて自分は何をやらかしてしまったんだと斧を見つめる。しかしそう悠長にもしてはいられなかった。残った魔獣達がターゲットを景虎に切り替え襲いかかってきたからだ。いかにも切れなさそうな剣を振り回す魔獣、しかし景虎の目にはそれが緩やかに見えていた。これもドラゴンの力と言うやつかと納得する景虎は大きく斧を振るう。再び大きく吹き飛ばされる魔獣達、その後も攻撃をかわしつつ次々と魔獣を吹き飛ばす景虎は、最後の魔獣に向けて突っ込んでいった。


「これで最後だ、うらああああ!」


 大きく離れた場所に叩きつけられたその魔獣はそのまま動く事なく崩れ落ちる。

 暴れまわったはずなのに不思議と疲れはあまり感じず、汗はかいてはいるものの呼吸もそれほど乱れてなく、まだ戦えるほどの余力を残しているほどの景虎。


「なんか便利な身体になっちまったな、ってか副作用みたいのはないんだろうなコレ」

『ないとは思うがわからんな、このような事は初めての事ではあるし』

「頼むぜおい……」


 そんな感じでフライハイトと話しをしていると、景虎は自分を見つめる視線に気づく。見るとそこには先ほどの戦いで騎士に護られていた長い黒髪の少女がいた。一目見て景虎はその少女の姿に見入ってしまう。年は自分と同じくらい、長く美しい黒髪に透き通るような白い肌、そして澄んだ碧い瞳のまさに美少女という容姿だった。

 少女はこの状況に困惑しているのか呆然としていたが、しばらくして辺りを見回し、自分を護ってくれていた騎士達が誰一人動かない事を見て取ると、悲しみを必死で押し隠すようにして景虎の前までやってくる。


「た、助けていただきありがとうございました、わ、私はリンディッヒ領の領主の娘、カティア=リンディッヒと申します」

「お、おう、俺は出雲景虎だ、よろしくな」

「イズモ……カゲトラ……様ですね、よろしくお願い致します」

「様はやめろ恥ずかしいから! そんな年も離れてもいなさそうだし、呼び捨てでいいよからよ」

「はぁ……」


 礼儀正しく挨拶するカティアにさすがの景虎も慌てふためいてしまう。今までこんなに上品な人物とまともに会話などした事がないのだから仕方ないのかもしれない。一方のカティアも平静を装ってはいたものの、景虎がどういう人物かを図りかねていた。

 自分を護ってくれていた騎士達はリンディッヒ領の中でも腕の立つ騎士だった。しかしその騎士達を数で劣っていたとはいえ全滅させた魔獣達を、目の前にいる同じ年齢ほどの少年が瞬く間に退治してしまった事に、カティアは驚きを隠せないでいた。


「景虎殿はお強いのですね」

「景虎ど、殿? ま、まぁいいわ、別に俺が強いって訳でもねーよ、こいつのおかげだろうしな」

「その斧のおかげ……ですか?」


 怪訝な顔をするカティアに、まぁそらそうかと頭を掻く景虎。フライハイトの事を説明しようかとも思ったが、どうにもそういうのが苦手な景虎はこの話はここまで! という感じで切り上げる。カティアの方もそれ以上の詮索は悪いと思ったのか聞く事はしなかった。そして辺りを見回した後、景虎に一礼すると震える声で話し出す。


「このような事を頼むのは筋違いとは思いますが、どうか私の頼みを聞いてはいただけないでしょうか」

「頼み? 言ってみろよ」

「私を護ってくれた騎士達を埋める間、私を魔獣から護っていてはいただけませんでしょうか」

「騎士を埋める?」


 周りを見渡せば六人の騎士が血を出し倒れている事に気づく。恐らくもう誰も生きておらず、襲い来る魔獣から必死でカティアを守り抜いたのだろうと推測できた。

 このまま野ざらしにしていれば先ほどの魔獣やケモノの餌になってしまうのは明らかだったが、埋めると言っても、この人数分の穴を掘り運んで埋めるとなれば相当な重労働になるだろう。それをこの華奢な身体の少女一人でするなど、何時間かかるかわかったものではない。だがこの少女はそれを景虎に頼むでもなく、自らの力だけで成そうと思ったのだと。


「俺も手伝ってやるよ」

「ですが……」

「その方が手っ取り早いだろ、それに死んだこの人らも長い事このままってより、早く土に埋めてやったほうがいいんじゃねーか」


 その言葉に声を詰まらせるカティアは小さく頭を下げ景虎に頼んだ。時間がかかると思われた作業だったが、今はドラゴンの力を得た景虎にとってはなんて事はない作業だった。

 紅い斧を大きく振り上げ地面に叩きつけると大きな穴が簡単に出来るのだ。後は絶命した騎士達を丁寧にとはいえないが、景虎一人でその穴まで軽々と運びいれていく。全員をその穴に入れた後は上から土を被せていくだけなのだが、その作業にはカティアも手伝い、時間にして二十分もかからないほどで全てを終わらせる。


「ありがとうございました」


 今度は深くお礼をするカティアに恐縮する景虎。ふとカティアが景虎の服がボロボロになっているのに気付く。先程の戦いで受けたものだろうと思い景虎に尋ねてみる。


「あの、景虎殿、服が……」

「ん? ああこれ? いつもの事だよボロボロになんのは」

「失礼します」


 そう言うとカティアは景虎のの服に手を当て、何やら呪文のようなものを唱え始める。するとカティアの手が光りだし、景虎の服を覆い始める。


「な、なんだ?」

修復魔法(レパラトゥーア)


 カティアの放った言葉と同時に景虎の服がみるみる綺麗になっていく、そして気付けば喧嘩前よりも綺麗な制服になっていた。


「お、おおお? 何だこれ! お前今何やったんだ!」

「え? えと、魔法で服をお直ししただけですが……」

「魔法ぉ?」

「はい、といってもそんなに偉そうに言えるほどの腕はありませんが、私ができるのは汚れを落としたり、破れた部分を元に戻したりするくらいで」

「い、いやいや十分すげーよ! ってか魔法あんのかよ!」


 景虎の疑問に答えたのはフライハイトだった。


『何を驚く、この世界では人間でも魔法を使う事は可能だぞ、まぁ私達ドラゴンに比べれば微々たるものではあるがな』

「ま、マジかよ……」


 そう滅多な事では驚かない景虎もさすがにこの不思議現象には驚きを隠せなかった。同時に便利でこれがあれば食っていけんじゃないかとも思っていた。そんな景虎の反応に、もしかして余計な事をしてしまったんだろうかと不安な顔をするカティアが目に入る。


「ああ、別に怒ってる訳じゃねーよ、ただちょっとびっくりしただけだから、服サンキューな、助かったわ」

「あ! は、はい!」


 その言葉にほっとするカティア、そういえばこの後カティアはどうするんだろうかと思った景虎はカティアに問うてみた。


「あんた、これからどうするんだ?」

「……リンディッヒ城に戻ろうかと思っています。そしてこの事を、父と騎士の家族達に伝えねばと思っています」

「一人で帰れんのか?」

「それは……」


 口ごもるカティア。護っていた騎士達はもういない、リンディッヒ城というのがどのくらいの距離にあるのかはわからないが、周りを見ても移動手段になるようなものは見当たらない。しかも先ほど襲ってきた魔獣などが再びカティアを襲う可能性もある。

 しかし景虎ならば先ほどのように魔獣を退けることは可能だ。リンディッヒ城まで距離があるとしても、護る事はできると思った。しかしカティアはあえて助けを求めることはしようとはしなかった。おそらく景虎にこれ以上面倒をかけるのを良しとしないと考えたのだろう。


「その何とか城ってのまで俺もついて行っていいか?」

「えっ! で、ですがっ……」

「俺ここに来たばっかでどこ行けばいいのかわからんのよ、とりあえず人のいる所にでも行って何か仕事でも探そうと思っててよ、だからついでだよついで、それにこんな所に女の子一人置いておけねーしな」


 その言葉にカティアの眼から涙がこぼれ落ちる。きっと一人では不安だったのだろう。それでもこれ以上迷惑をかけまいとする意思が働き、声をかける事ができなかったのだ。


「よろしく……お願いいたします」

「おう!」


 こうして景虎とフライハイト、そしてカティアは共に彼女の故郷へと向かう事になった。


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