第二十八話 400vs1
海賊達の集まる村――
その港のある村が、元々何と呼ばれていたかを知る者はいない。
いつの頃からか海賊達が集まるようになり、それを目的とした悪党共が居つき始め、本来住んでいた村人達はそこから追い出されたと言われている。
その村に今、各地から海賊が四百人近く集まっていた。
目的は略奪品の売買や物々交換など、そしてその商品の中には各地で攫ってきた奴隷達もいた。
今このダンガスト島には通常の半分の騎士しかおらず、海賊達を討伐や検挙する事ができる余裕が無かった。
その為、海賊達が我が物顔ですき放題する事ができていた。
だが、その海賊達の前に一人の人物が立ちはだかる。
大型の紅い斧を持った黒服の少年は、海賊船の一隻のマストを叩き折り、そして船の上から見下すようにこう言い放った。
「全殺しだコラ」
景虎は海賊達が集まってくるのを確認すると船から飛び降りる。
十メートルはあろうかという高さから余裕で降り立つ景虎、右手には紅い斧を持ち、その顔は怒りに満ち満ちていた。
一方景虎を奇異な眼で見る海賊達、何かのアトラクションだと思っている者もいるくらいだった。
そんな中、酒に酔った海賊の一人が景虎に近づき声をかける。
「うぃっく、おいでめぇ、何なんだ、どっがら入ってきやがった」
酒臭い息を吐くその海賊は肉脂で汚れた手で景虎に触れようとする、だが次の瞬間顔面を殴られ大きく吹き飛ばされる。
「臭ぇ顔近づけんじゃねーよボケ」
吹き飛ばされ大きく陥没した顔のその海賊を見た他の海賊達は、ようやくにして景虎が敵だというのを認識する。
そして各々剣や槍を構え景虎を包囲する。
「こんガキ、ただで済むと思っちゃいねぇだろうな!」
「黙れカス! こっちゃあ仲間の事で怒り狂ってんだよ、覚悟しろやコラ!」
言うが早いか景虎は海賊達の中に突入し、その紅い斧でなぎ払う、あっという間に十数人の海賊が空高く吹き飛ばされる。
「な、なんつー力だこのガキ!」
「言ったろうが、全殺しだってぇよ、一匹残らずくたばりやがれ!」
「こ、このガキ! 殺せ! 嬲り殺しだ!」
その声を合図に海賊達は景虎に一気に襲い掛かる、しかし景虎に向けられた刃は全て届かず、逆に景虎の振るう斧は海賊達を正確になぎ払う。
「うらあ!」
景虎はさらに斧を地面に突き立てる、すると地面が陥没し、爆煙が発生して瞬く間に一帯が土煙に包まれる。
その中を突き進む景虎は斧を振るい続け、海賊達を薙ぎ払い続ける。
悲鳴と怒号が響き渡る中、海賊達は景虎を殺そうとするものの人間離れした素早い動きについていけず、景虎に攻撃を当てる事すらできなかった。
「な、何やってやがる! 早く殺せ! 相手はガキ一匹だぞ!」
叫ぶ海賊の船長らしき人物、だがその間も海賊達は次々と宙を舞う。
さすがにその光景に恐怖しはじめたのか、海賊の一部はその場から逃げ出す者も現れ始めた。
船に戻ろうとした海賊もいたが、気付けば景虎がその船の甲板に立っていた。
「げえっ! い、いつの間に! てめぇさっきまで地上にいたじゃねえか!」
「悪ぃな、ちょっとインチキなんだよ俺の身体はよ」
景虎は元ドラゴンのフライハイトの力で、数十メートルの距離ならば瞬間移動で動く事ができるのだ。
そして、景虎はその斧を大きく振り上げ、甲板に叩きつけて船を半壊させる。
崩壊していく海賊船を見ながら恐怖する海賊達。
「な、何なんだよ、あのガキ化け物かよ!」
怯える海賊達、その中心にいる人物景虎はまだまだやれるといった風に斧を大きく構え、海賊を睨みつける。
「次はどいつだコラ」
「あ、あのにーちゃん無茶苦茶やんけ……」
遠くの丘からその光景を眺めていたのは海賊ファイサルとその仲間。
何百と居る海賊達を吹き飛ばしているその姿に、海賊の中でも五本の指に入る極悪人とまで言われたファイサルでさえ引くほどだった。
「せ、船長、あのガキ何者ですん?」
「ワシにわかるかい! けどアホみたいに強いいうんはわかるわ、あんなもんに喧嘩売ってたかと思うと寒気するわ」
「と、ところで船長、ワシらどうします?」
「あ?何がや?」
「い、いや、このままやったらあそこにおるワシらの仲間とか、わしらの船もやられてしまいますで」
「あっ!」
気付いたファイサルは顔面蒼白になる、確かにあそこには自分達の船も置かれてあった。
船員も半分ほどは残してきてるし、もし破壊でもされようものなら海賊商売を続ける事なで無理だった。
「や、ややややばいな、どないしよ!」
「せ、船長さっきまであのガキと仲良うしとったやないですか! なんとかならんのですか!」
「そない言うたかて……、ん、そや、確かあのにーちゃんの仲間が捕まったとか言うとったな」
「そういや、そないな事言うとりましたわ」
「ならワシらがその仲間言うんを助けたればあのにーちゃんもワシらの船攻撃せんおやないか!」
「あ、なるほど、さすが船長や!」
そんな感じで和気藹々としているファイサルか海賊団。
しかし、そのうちの一人が海賊らしい事を提案する。
「あの、そいつら人質にするいうんはナシなんですか?」
「…………、いや、やめとこ」
「何でです?」
「何か、人質とかにしてもすぐ奪還されて皆殺しにされてしまいそうやから」
その言葉に海賊達は皆黙りこくってしまう。
やはりここは安全策や! という感じでファイサルは景虎の仲間救出を改めて提案すると、そこにいた海賊達は全会一致で賛成した。
「ほな善は急げや、あのにーちゃんの仲間、どの海賊の船におるかわかる奴?」
クイズ形式で配下に問うファイサル、しばらくして一人が何か思い出したように。
「た、多分ですけどジャファルの船やないですかね? あそこは奴隷とか扱ってる言うてましたし」
「ジャファルか、よっしゃ行くで!」
「へいっ!」
ファイサルがそんな事を考え行動している中、景虎はさらに海賊相手に暴れまくっていた。
――ジャファルの海賊船の船倉――
シモンは囚われていたステラ達を守るべく、海賊から取り上げた剣を構えていた。
とはいえ、正直怖くて今にもチビりそうだった。
しかしシモンもステラ達を守りたいという想いはあった。
もしここで逃げ出すような事をしたら、きっと後悔するだろうとも思っていた。
「シモン、無理しちゃ駄目よ……、危ないと思ったら逃げて」
「そんな事できないよ! ぼ、僕だって男だ! 絶対に皆を守って見せるよ!」
強気で言うシモンだったが、その構える剣は震えていた。
外では時折爆音が響き渡り、怒号と悲鳴が聞こえている、恐らくは景虎が大暴れしているのだろうというのはわかるが、数百人の海賊相手にそんな事ができるのだろうかとも思っていた。
「だ、大丈夫だよね兄貴なら……、だってドラゴン殺しなんだし……」
小さく呟きながら剣を構えるシモン、と、シモン達のいる部屋に向かって何人かの足音が迫ってくるのがわかる。
「ま、まさか海賊!」
怯えるシモン、脳裏には景虎の顔が浮かび、ステラ達を助けろと言った言葉が繰り返し再生される。
数人の声が聞こえ、乱暴にドアが開かれる。
「う、うわああああ」
「うおっ! なんや!」
シモンが剣を大きく振り回すもそれは空を切る、そしてすぐさまその人物に剣を取られてしまう。
「長い事押し込められとったにしては元気ええな少年」
「が、眼帯! う、ああ……、か、海賊ファイサル……」
「お、さすが有名人やなワシ」
シモンは観念した、どうやっても勝てるはずが無い相手だったからだ。
涙があふれ、景虎に何度も謝る。
「ごめん兄貴、僕守れそうにないよ……、せっかく兄貴が海賊達をひきつけてくれてるのに……、ごめん兄貴」
その言葉にファイサルが反応する。
「お、もしかしてお前が景虎の仲間いう奴か?」
「え?」
ファイサルから出た景虎という言葉に反応したステラとシモン。
「な、何で兄貴の事を?」
「まぁ少しだけ共同戦線みたいなもん張っとるいう感じや、なんで安心せい、別にお前らをどうこうする気はないさかいに」
「信じられないわ」
「気ぃ強いエルフやな、せやけどそんな地べたに寝転がって言うてもなーんも怖ないで」
その言葉に顔を紅く染め、悔しさを滲ませるステラ、しかしファイサルの言う通り今の自分には何もできないのは確かだった。
「よっしゃほなここから脱出しよか、ワシらについてきぃな」
「え、な、何で?」
「さっき言うたやろ、今ワシらはあのにーちゃんと共同戦線張っとるって、せやからお前ら助けたる」
その言葉に唖然とするステラとシモン、しかしファイサルは部下に立つ事ができなさそうな少年少女を背負うように命令し、自分自身も立てないステラを持ち上げる。
「ちょ、何すんのよ!」
「しゃーないやろ、ねーちゃん動けなさそうなんやし、しかし軽いのう、もっと食わんと貧相な身体がもっと貧相になってまうで」
「この……、セクハラ海賊!」
「かかか! そんだけ元気やったら大丈夫やな、ほな行こか!」
ステラがファイサルに連れ去られるのをぼーっと見てたシモンだったが、すぐさま追いかけていく。
外では相変わらず景虎が海賊相手に無双を続けていた。
すでに百人以上が倒れ、残った者達もちりじりに逃げ去り、残った海賊達はある者は怯え、ある者は武器を放り投げ出し降参の意思を示していた。
だが、景虎はそんな海賊たちにも容赦はしない。
「た、助けて、お願いします……」
「悪い、何か耳聞こえん、もっとでかい声でしゃべれ」
「助けてくださあああい!」
だが景虎は問答無用でその海賊を殴ろうとする、が、それをすんでで止める声が響き渡る。
「景虎、あんたやりすぎよ!」
顔面スレスレで止まる景虎の拳、しかし海賊は恐怖のあまりそのまま気絶して倒れてしまう。
景虎を止めたのはファイサルに抱かれたステラだった。
その姿を見た景虎は、消えかかっていた炎に再び点火したように睨むと。
「おいコラおっさん、ステラ拉致るつもりかてめー?」
「ちゃうちゃうちゃう! わ、ワシこの子ら助けたったんやないか! あのまま船倉におったら危ない思うたんや!」
その言葉にステラが頷き、シモンもよくわからないながら頷く、それを確認しすると景虎はゆっくりとファイサルの所までやってくる。
正直かもし出す雰囲気のようなものが尋常ではなかったので、ファイサルは景虎の仲間がいながらも恐怖に震えていた、だが。
「ありがとうなおっさん」
「お、おお! ま、まぁこんなもんたいした事ないわ!」
「大丈夫かステラ?」
「大丈夫よ、っていうかほんとあんた一々やる事が滅茶苦茶なのよ」
ステラと景虎が普段の何気ない感じの会話をしている頃、ファイサルとその部下、そしてシモンは改めて壊滅した海賊達を見て唖然とする。
四百人はいたであろう海賊達はほぼ壊滅か逃げ去った後、海賊船の半分は半壊か全壊という惨状だ。
ファイサルの船が無事だったのは不幸中の幸いと言わざるを得まい。
「改めて思うたけど、景虎って何者やねん?」
「俺は俺だ、何がどーとかねーよ」
「何格好つけてんのよ、ただの馬鹿の癖に!」
今この場所で景虎に文句を言えるのはこのステラだけだろう、それを考えるとある意味景虎よりも恐ろしいのではと思えてくるファイサルとシモン。
「さて、んじゃ帰るか、マリカも心配してるしな」
「そうね、もう大丈夫だから降ろしてくれるファイサル」
「お、おお、わかったぜ姐さん!」
「誰が姐さんよ!」
ふらつきながらも何とか立つ事ができたステラ、だがやはり歩くのは難しそうなのかよろけて倒れそうになる。
「っと、無理すんな、ほれ、背中に乗れ」
「結構よ! 一人でだいじょう……きゃっ!」
無理を通して一人で帰ろうとするステラを、無理矢理背中に乗せる景虎。
「ちょ、馬鹿! 降ろしなさいよ!」
「じゃあなおっさん、あ、悪いけど一緒に拉致られてた子らを街まで運んでやってくれねーか? 後で元の場所に帰れねーかギルドとかに相談してみっからよ」
「お、おう、ま、任せとけや!」
「んじゃな」
「おーろーせー!」
背中で景虎の頭を殴りながら喚くステラを担いで、景虎はシモンと共にファーレルの街へと戻っていく。
それを眺めながら、ファイサルは今さっき起こった事が夢だったのではないかとほっぺをつねってみる。
「夢やないっちゅう事か、ほんまあのにーちゃん凄いゆーかおもろいやっちゃなー」
景虎に背負われたステラは降ろせと喚き、ずっと景虎の頭を叩いてはいたものの、さすがに疲れて無抵抗状態になってしまう。
「ほんと、あんた馬鹿でしょ」
「はいはい、俺ぁ馬鹿だよ、それがどうした」
「開き直ったな」
ステラが呆れてると、シモンが景虎に謝罪の言葉をかけてくる。
「あ、兄貴ゴメン、僕結局何もできなかったよ……」
「何言ってやがる、てめーは十分仕事したろうが」
「でも」
「誰も怪我してねーんだからそれでいいんだよ、過程とか関係ねー、ステラもシモンも、それにあそこにいた奴等も無事だった、それだけでいいだろ」
「兄貴ぃ~」
その言葉に泣き出すシモン、感動のシーン、かと思いきやステラがある事を思い出してシモンに意地悪げに伝える。
「でもマリカ怒ってるから覚悟しとくのよ、あの子お金に関しては海賊より怖いかもしれないしね」
「うあっ」
シモン自身もすっかり忘れてた事を思い出し顔面蒼白になる。
「あ、兄貴ぃ~」
「それは知らねぇ、てめぇで解決しろ」
「そんなああ~」
そんな風に泣き言を言うシモンを見ながら、景虎とステラは笑みをこぼし、笑いながら夜道を進む。
上を見れば満天の星が見えていた。




